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転生駒姫は、親バカな父・義光と従兄の政宗を和解させて東北大同盟を作り処刑フラグをへし折ります!  作者: 双瞳猫
第1部:転生幼女、親バカ父と暴走従兄の喧嘩を止める

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第19話「戦後処理——大崎義隆を交えた東北諸侯の宴会」(前半)

 和睦成立の翌日。

 出羽の空は、昨日までの殺伐とした空気が嘘のように晴れ渡っていた。春の柔らかな陽射しが、ぽかぽかと最上軍の陣を暖めている。

 陣の中央には、昨日まではなかった巨大な天幕が鎮座していた。宴会用の特設会場だ。入り口はオープンに開放され、心地よい春風が「二つ引両」の紋をパタパタと揺らしている。

 天幕の中には、ずらりと床几が並べられていた。

 上座にはお父様(最上義光)、その隣に政宗従兄様にいさま、さらに叔母様(義姫)。私はといえば、お父様の隣に「七歳の幼女」として、ちょこんとお行儀よく座っている。

(――宴会かぁ。正直、めちゃくちゃ面倒くさいなぁ……)

 私は、誰にも聞こえない心の声で深いため息をついた。

 前世の大学生時代、体育会系陸上部だった私なら「飲み会! ウェーイ!」と喜んで飛びついていただろう。お酒だって人並み以上に飲めたし、騒ぐのも嫌いじゃなかった。

 けれど、今は違う。私は七歳の虚弱な姫君なのだ。おまけにここは、一歩間違えれば首が飛ぶ戦国時代のど真ん中。

(――でも、これも処刑フラグをへし折るための必要経費。お仕事、お仕事!)

 顔には「愛らしい幼女のスマイル」を完全装備。だが、脳内のそろばんはフル回転だ。

 ここで大崎義隆とパイプを作っておけば、人脈という名の生存ルートが増える。たとえ無能な相手だろうと、数は力だ。豊臣というラスボスに対抗するには、カードは多ければ多いほどいい。


 ふと視線をやると、氏家守棟殿や鮭延秀綱殿が酒の準備を始めていた。伊達軍の方では、政宗従兄様の後ろに片倉景綱殿が控えている。

 ……あれ?

 景綱殿、なんだか昨日よりさらに顔色が悪くない?

 彼がさりげなく胃のあたりをさすっているのは、きっと私の気のせいじゃないはずだ。

(……おいたわしや、景綱殿。現代なら、絶対に「〇〇胃酸」を差し上げたのに)


 そして——。

 天幕の入り口に、おずおずと一人の男性が姿を現した。

 大崎義隆。私のお母様の兄であり、現・大崎家当主。……そして史実では、ドロドロの御家騒動に翻弄された末、華麗に没落していく運命の持ち主である。

 天幕に足を踏み入れた彼の顔には、「助かったぁぁ……!」という安堵と、「これからどうなっちゃうの……?」という不安が、見事なマーブル模様を描いていた。

 年齢は三十代半ば。身なりは整っているけれど、にじみ出る「これじゃない感」。

(……うん。一目見ただけでわかる、この圧倒的な『頼りなさ』!)

 組織のトップに不可欠な覇気が、絶望的なまでに不足している。

 義隆様は、まずはお父様に向かって深々と頭を下げた。

「義光殿……本当に、ありがとうございました」

 消え入りそうな声。でも、静まり返った場には十分すぎるほど響いた。

 お父様は「大名モード」の冷徹な顔で、わずかに頷く。

「義隆、気にするな。妻の兄を助けるのは当然のことだ」

 言葉こそ短いが、その声には「まったく世話を焼かせおって」という苦いニュアンスが隠しきれていない。

 続けて、義隆様は政宗従兄様にも頭を下げた。

「政宗殿……この度は、多大なるご迷惑を……」

「気にするな、義隆殿。和睦は成った。それ以上の言葉は不要だ」

 政宗従兄様の返答は、事務的なまでにクール。……というか、これ、興味ない時の声だわ。

 そして。

 義隆様の視線が、私の方へと向けられた。

 あろうことか、大の大人が七歳の私の前で膝をつき、目線を合わせてくる。

「駒姫様……っ!」

 声が震えている。え、嘘でしょ、涙ぐんでる?

 私は瞬時に「営業用・完璧美幼女スマイル」を起動。首を45度ほど傾け、これ以上ないほど愛らしく微笑んでみせた。

「いえ、私は何も……。ただ、お父様と政宗従兄様にお話ししただけです。義隆様がご無事で、本当によかったです」

 はい、百点満点の「天使の対応」!

 これには義隆様も、ダムが決壊したかのように目を潤ませる。

「いえ……あなたがいなければ、私は今頃どうなっていたか――」

「――義隆」

 お父様の、少しイラついた声が割って入った。

「席に着け。宴会を始めるぞ」

「ひっ! は、はいっ、失礼いたしました!」

 ビクッと肩を跳ねさせ、慌てて着席する義隆様。

 それを見るお父様の顔は、もはや「呆れ」を通り越して「苦虫を噛み潰した」よう。

(……お父様、完全に『この義兄はダメだ』って判定出してるよね)

 大崎義隆。母様の兄。前世の記憶によれば、家臣に振り回されまくった苦労人(というか無能)。

 うん、ぶっちゃけ戦力としては期待できない。でも、敵に回って足を引っ張られるよりは、私の「生存ルート」の予備カードとして持っておく価値はあるはず。

 氏家殿がどろりとした白濁酒を徳利に注ぎ、盃を配り始める。

 さあ、処刑回避のための「お仕事(宴会)」が幕を開けた。


 天幕の中には、ぽつぽつと談笑の声が響き始めていた。

 お父様、政宗従兄様、叔母様、そして義隆様がそれぞれ盃を手に取っている。

 私はといえば、当然ながら七歳の幼女。お酒なんて論外だ。今はただ、周囲の動向を冷静にプロファイリングする「愛らしい置物」に徹するのみである。

 そんな中、義隆様が盃を揺らしながら、消え入りそうな声で呟いた。

「……家臣団が」

「義隆?」

 お父様がピクリと眉をひそめて先を促す。

「あ、いえ……その、家臣団がまた揉めるのではないかと。私の言うことなど、結局誰も聞いてくれないのではないかと……」

 ……うわぁ。顔に「自信がありません」って書いてある。

 あるじとしての覇気が一ミリも感じられない。お父様は「しっかりしろ!」と怒鳴りたそうな顔をしたが、そこは義兄相手。ぐっと言葉を飲み込んだ。

 隣に控えていた氏家殿が、お父様の耳元でこっそり囁く。

「殿……義隆様は、本当にお優しい方なのですが、いささか……」

「わかっている。だが……優しさだけで家臣が治まれば苦労はない」

 お父様の溜息混じりの小言には、義兄に対するもどかしさがこれでもかと詰まっていた。

(――この人、本当に、本ッ当に使えないなぁ……!)

 私は内心で、冷徹極まりない「無能判定」を下した。

 家臣を制御できないリーダーなんて、処刑回避の協力者としては正直、お荷物でしかない。

 でも、まあ、切り捨てるのも角が立つ。母様の兄だし、お父様だって不甲斐ない義兄に呆れつつも、死なせたくはないはずだ。

 そんな私の視線に気づいたのか、お父様がふと表情を和らげ、近くの侍女に声をかけた。

「駒には甘酒を用意しろ」

「はっ、直ちに!」

(――甘酒! キタ、神対応!)

 私は内心で「お父様ナイス!」と快哉を叫んだ。

 甘酒。米麹の優しい甘み。ノンアルコール。これなら七歳の私でも合法的に飲める。さすがは親バカ……もとい、子煩悩なお父様。気が利きすぎる!

 そういえば、喉がカラカラだ。

 あのヒリつく三者会談からこっち、極度の緊張のせいで水分補給なんて忘れていた。

(甘酒、早く来ないかな。来たら一気にいっちゃおう。ごくごくと。あぁ、待ち遠しい!)

 私は、運ばれてくるであろう「救いの飲み物」を今か今かと待ちわびていた。

 この甘酒が、まさかあんな事件の引き金になるなんて、この時の私は露ほども思っていなかったのだ――。



「甘酒」ですが、実は戦国〜江戸時代にかけては、現代での一般的な冬の飲み物ではなく「夏バテ防止の栄養ドリンク」として夏に飲まれるのが一般的だったようです。

(俳句でも甘酒は夏の季語です)

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