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転生駒姫は、親バカな父・義光と従兄の政宗を和解させて東北大同盟を作り処刑フラグをへし折ります!  作者: 双瞳猫
第1部:転生幼女、親バカ父と暴走従兄の喧嘩を止める

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第14話「政宗、幼女の深謀遠慮に驚愕する」(前半)

 私が『奥羽大同盟』の壮大な構想を語り終えた後、政宗従兄様がポツリと漏らした「面白いことを言う。七歳の幼女が」という一言。その余韻が、未だに天幕の中のピンと張り詰めた空気に色濃く残っている。

 ふと視線を感じて横を見ると、お父様が腕を組んだまま、まるで生まれたばかりの赤子を愛でるような、でれっでれの笑みを浮かべて私を見つめていた。その目の奥は雄弁に『おお、我が娘よ!よくぞ言った!』と語っている。……完全に親バカ全開のお顔である。いくらなんでも、この緊迫した会談の場でそのお顔は少しウザいです、お父様。

 一方、義姫様は口元に扇を当てて、静かに、そして優雅に微笑んでいらっしゃる。『駒姫が、あの意地っ張りな二人を見事に動かしてみせた』という確信が、その美しい横顔からひしひしと伝わってくる。

 そして——政宗従兄様もまた、じっと私を見ていた。

 眼帯に隠されていない鋭い隻眼が、射抜くように真っ直ぐに私へと向けられている。

 ——来る。

 政宗従兄様が、何かを言おうと息を吸い込んだのがわかった。その瞳に浮かんでいるのは、先程までの「面白い」という興味でも、「試してやろう」という値踏みでもない。目の前にいる存在が『本物か』どうかを、魂の底から確かめようとするような——恐ろしいほどに静かで、透明な目だった。

「——駒姫」

 政宗従兄様が、低く静かな声で口を開いた。

 ハッとした。呼び方が、明確に変わっている。「幼女」でも、少し小馬鹿にしたような「従妹殿いとこどの」でもなく——「駒姫」と、初めて一人の人間として、名前で呼んでくれたのだ。

 その瞬間、天幕の中の空気が、ピリッとわずかに質を変えた。

「お主、本当に七歳か」

 探るようなその一言が、天幕の中にポツリと落ちる。

 ——来たっ!

 政宗従兄様にいさまが、誰を通すでもなく、私に直接問いかけてきた。これは——間違いなく、私を『対等な交渉相手カウンターパート』として完全に認めたからこその問いかけだ。一人の将として、目の前の相手の底を確認しようとしているのだ。

 お父様が、スッと険しい顔つきになって眉をひそめた。「政宗——」

 庇うように口を開きかけたお父様を制するように、私は静かに小さな手を上げた。「お父様、大丈夫です」

 ピタリと、お父様が口をつぐむ。その目の奥には『愛娘が自らの口で答えようとしている』という驚きと——『この傾奇者かぶきものの生意気な甥っ子が、目の中に入れても痛くない我が愛娘に直接話しかけるなど、断じて許せんわ!』という過保護全開の警戒心が、ぐちゃぐちゃに混ざり合っている。

 ——お父様、どうか私を信じて見守っていてください。私は大丈夫ですから。

 政宗従兄様が、射抜くような視線で私を見た。その隻眼が、獲物を狙う鷹のようにギラリと光っている。

「七歳の幼女が、惣無事令を語り、間者の動きを読み、奥羽大同盟を構想する」

 政宗従兄様は、一つ一つの事実を噛み締めるように続けた。「……尋常ではなかろう」

 私は、政宗従兄様の鋭い目から決して視線を逸らさず、静かに、そしてはっきりと答えた。

「でも。私は七歳です」

 政宗従兄様の目が、わずかに細められる。

 もちろん、「七歳です」というただの事実確認が、政宗従兄様の抱く深い疑念を完全に晴らす答えにならないことくらい分かっている。でも——『私は一切の嘘をついていない』という真実を、この真っ直ぐな目で伝えること。それが、武器も力も持たない今の私にできる、最大の交渉なのだ。

 視界の端、天幕の隅では、片倉景綱殿が気配を殺して静かに立っていた。その冷静な目が、信じられないものを見るようにわずかに私を見つめている。『あの殿が、たかだか七歳の幼女に対して、本気で問いかけている』という隠しきれない驚愕が、その端正な横顔にありありと滲み出ていた。

 政宗従兄様が、核心を突く次の質問を投げかけてきた。

「——では、誰かに言わされているのではないのか」

 その言葉に、天幕の中にさざ波のようなざわめきが落ちる。

 お父様の眉間の皺が、さらに一段と深く刻まれた。「政宗。それは——」

「伯父御」

 政宗従兄様が、スッと右のたなごころを前に突き出して、お父様の怒りのこもった言葉をピシャリと遮った。「俺は、この従妹の言葉を信じたい。だから——確認させてほしい」

 ——あ。

 その瞬間、温かく静かな高揚感が、私の胸の奥でパチンと弾けた。政宗従兄様が、はっきりと「信じたい」と言ってくれたのだ。これは——間違いなく、計算でも何でもない、この人の偽らざる『本音』だろう。常に疑ってかかる戦国の武将としてのさがゆえに、確認せずにはいられない。でも——心の底では『信じたい』と願っている。その切実な気持ちが、言葉の端々に滲み出ている。

 お父様が、ハッとしたように黙り込んだ。

 政宗従兄様のその真っ直ぐな言葉が、お父様の過剰な警戒心を——わずかに解きほぐしたのだろう。

 私は、政宗従兄様の揺れる隻眼を真っ直ぐに見つめ返したまま、静かに、凛とした声で答えた。

「誰にも、言わされてなどいませんわ」

 政宗従兄様が、食い入るように私を見る。

「私が自分で考えたことです」

 私のその宣言に、天幕の中が、再び水を打ったような深い静寂で満たされた。

「……本当か」

「はい。本当です。」

 私は、政宗従兄様の目を真っすぐに見つめ返したまま、言葉を紡ぎ続ける。「昨夜、私が一人で考えました。どうすれば、お父様と従兄様が手を結べるか。どうすれば、奥羽が一つになれるか」

 お父様が、信じられないものを見るように静かに私を見つめていた。恐れられる『羽州の虎将』としての厳つい顔が、今は少しだけ崩れてしまっている。『愛娘が、この壮大な絵図をたった一人で考えたのか』という純粋な驚き——そして『我が娘が、これほどまでに素直な気持ちを、堂々と真っすぐに語っている』という父親としての静かな誇りが、その目の奥にじんわりと滲んでいる。

 ——お父様、またお顔に全部出てしまっていますよ。

「——誰にも相談はしていません」

 私はさらに言葉を重ねる。「氏家には、『南の間者の情報を、会談の時に伝えてください』とお願いしただけです」

 政宗従兄様が、ハッとしたようにわずかに目を見開いた。

 政宗従兄様の中で、『この幼女が、本当にあの一連の策を一人で考えたのか』という底知れぬ驚愕と——『この娘の瞳には、一切の嘘がない』という確信が、同時にストンと腑に落ちたのが、手に取るように分かった。

 義姫様が、慈しむように静かに微笑んでいらっしゃる。『私の可愛い駒姫は、決して嘘などつかない』という絶対の確信が、その美しい横顔に満ち溢れていた。

 ——そう、正直に全てを話す。小賢しい策など一切使わない。真心を込めて言葉を尽くすことこそが、今の私にできる、唯一にして最大の交渉術なのだ。

 やがて、政宗従兄様が、絞り出すように静かに言った。

「——駒姫」

 その声の響きが、先程とは少し変わっていた。事実を『確認している』冷徹な響きから、一人の人間として『本気で聞いている』真摯な響きへの、わずかだけれど確かな変化。

「なぜ、俺たちに手を結べと言うのだ」

 政宗従兄様の目が、探るように細められる。

「お主に、何の得がある」

 その問いかけに、天幕の中に、息もつけないほどの重たい静寂が落ちた。

 ——来た。

 これこそが、政宗従兄様の本質的な問いだ。戦国を生き抜く謀将は、どんな行動にも必ず『損得』の計算を求める。ならば——私自身の『得』とは一体何なのか。

 お父様が、思わずといった様子でわずかに身を乗り出した。その表情は完全に冷徹な策士の顔だ。『我が娘が、この難問にどう答えるか』という静かな期待と——『政宗が、ついに娘の行動の根幹たる動機に踏み込んできた』というギリギリの緊張感が、その目の奥で激しく火花を散らしている。

 私は、あえて少しだけ間を置いた。

「——得、ですか」

 政宗従兄様が、深く、静かに頷いた。「そうだ。お主は、奥羽大同盟を構想した。最上と伊達が手を結べば、秀吉と対等に話ができる——そう言った」

 政宗従兄様は、逃げ道を塞ぐように言葉を続ける。「しかし——それは、最上と伊達の『得』だ。お前個人の『得』ではない」

 政宗従兄様の隻眼が、私の心の奥底まで見透かそうとするように、じっと私を見据えている。

「七歳の幼女が、ここまで考える。その動機は——何だ?」

 ——正直に話す。それしかない。

 私は、政宗従兄様の射抜くような目から決して視線を逸らさず、静かに、深く息を吸い込んだ。

 小手先の策など使わない。見え透いた嘘もつかない。ありのままの想いをぶつける。それが、今の私にできる最大の、そして最強の交渉なのだから。

「私は最上の娘です。最上の平和は私の得です。それに——何にも増して、身内が傷つくのを、見たくないのです」

 私の心の底からのその一言が、静まり返った天幕の中にポツリと落ち——

 政宗従兄様が、ハッとしてその隻眼を大きく見開いた。

 お父様の目が、感極まったようにわずかに潤みを帯びて光った。

 そして義姫様が、まるで聖母のように、優しく、静かに微笑んだ。


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― 新着の感想 ―
流石に豊臣に差し出されて4ぬ未来を回避したいとは言えんよな
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