第10話「三者会談・開幕——『独眼竜』、初登場」(後半)
義姫様の仕切りで、天幕の中は一時的に落ち着いた。しかし「落ち着いた」のは表面だけだ。義光と政宗の間の空気は、依然として険しい。
政宗が、ふと私を見た。
「……聞いても良いか」
義光の肩が、わずかに動いた。
政宗が、私に向かって静かに問いかけた。「——文を書いたのは、お主か」
天幕の中の空気が、変わった。
「文」——義姫様を通じて届いた、あの書状のことだ。政宗がそれを知っている。当然だ。義姫様が「政宗はあなたの文を読んで『面白い』と言っていた」と知らせてきていた。
「はい」
私は、静かに答えた。
政宗が、少し間を置いた。「……七歳の娘が書いたとは思えなかった」
義光の眉間の皺が、深くなった。
——これは、試されている。「本当にお前が書いたのか」という確認だ。……ここで怯んだら、昨夜の決意が無駄になる。
私は政宗の視線を正面から受け止めたまま、静かに答えた。「私が書きました。私が考えたことを、書いただけです」
政宗が、私を見た。その目が——わずかに細くなる。
「……なぜ、俺たちに手を結べと言う」
その問いが、天幕の中に静かに落ちた。
私が答えようとした——その瞬間だった。
義光が、低く言った。「政宗」
政宗が義光を見た。
「今日は話し合いに来た。駒を尋問しに来たわけではなかろう」
「……尋問などではない。知りたいだけだ」
「俺の娘に直接話しかけるな」
「従妹に話しかけて何が悪いのだ」
「俺の娘だと言っているのだ」
「俺の従妹でもあるだろう」
義姫様が「二人とも——」と言いかけた。
しかし今度は——義光と政宗が、同時に義姫様を見て、同時に「黙っていろ」という顔をした。
義姫様が、珍しく言葉に詰まった。
——お父様と政宗従兄様が、義姫様に対して同じような態度を取った。
私は内心で、思わず目を丸くした。
——これは、珍事だ。この二人が何かに同意したのは、今日初めてではないか。……でも今は笑っている場合ではない。
天幕の中の空気が、再び険しくなっていく。
片倉景綱は、天幕の隅で静かに状況を観察していた。
殿と義光殿が、義姫様を無視して互いを睨み合っている。——(これは長引く)と景綱は思った。
しかし同時に、景綱の目は天幕の中の小さな人影に向いていた。七歳の幼女が、この険しい空気の中で、表情を変えずに二人を見ている。
——(……この姫様は、怖くないのか。それとも——)
景綱は、その問いを胸の奥に仕舞った。
義光と政宗の言い合いが、今にも本格的に始まりそうな——そういう空気だった。
私は静かに、自分の手のひらを見た。
——お父様と政宗従兄様は、似ている。だから、ぶつかるんだろう。
でも——似ているということは、同じ言葉が刺さる、ということでもあるはず。
昨夜、義光が言っていた。「あれは、俺に似ている。賢くて、強くて、身内に甘い」と。
だとしたら。
——次は、私の番かな。
出羽の春の空が、天幕の布の隙間から、白く輝いていた。
連休中は更新ペースが落ちるかもです。
お許しください。




