第1話「最上家の次女に転生しました。え、私、15歳で処刑されるの!?」(後半)
第1話後半です。長くなったので分割しました。
伊達政宗。私の従兄。現在二十一歳。父・輝宗を三年前に失い、今や奥州の覇権を目指して猛烈な勢いで領土を拡大している。最上家と伊達家が手を結べば、東北は無敵だ。豊臣といえど、そう簡単には手出しできなくなる。
しかし——問題がある。
今まさに、父上と政宗お兄様は喧嘩の一歩手前なのだ。
大崎合戦。私の母・妙の兄である大崎義隆に政宗が攻め込み、義光は義兄・義隆を救援すべく大崎方支援に動いている。このまま行けば最上と伊達は全面衝突だ。両家が疲弊すれば、南から豊臣が漁夫の利を得る。そして私は、弱った最上家から豊臣に差し出される。
「……最悪のシナリオだ」
私は額に手を当てた。
しかも今年——一五八八年——は、豊臣秀吉がすでに先年に「惣無事令」を発令している。大名間の私戦を禁じる命令だ。大崎合戦はこれに真っ向から違反する。下手をすれば、最上も伊達も豊臣に改易される口実を与えかねない。
わかってるのか、父上。わかってるのか、政宗従兄様。
あなたたちの喧嘩は、私の命に直結しているんですよ。
「……でも、私には前世の知識がある」
燭台の炎を見つめながら、私はゆっくりと立ち上がった。
「歴史を知っている。それは——変えられる、ということだ」
翌朝、目を覚ますと、障子の向こうに人の気配があった。
まだ夜明けの薄明かりしかない時刻だ。侍女にしては早すぎる。
「……父上ですか?」
「おお! 起きたか駒!」
障子が勢いよく開いた。最上義光が、甲冑こそ着けていないものの、すでに完全に目を覚ました顔で立っていた。
「父上、なぜこんな早くに」
「駒の顔を見に来た」
——それだけのために?
「昨夜、顔色が悪かったであろう。眠れたか? 具合は悪くないか? 医者を呼ぶか?」
「大丈夫ですよ、お父様。ぐっすり眠れました」
「本当か? 目の下に隈はないか? 飯はちゃんと食えるか?」
「父上」
「なんじゃ」
「私も、もう七歳です。丈夫です」
義光はじっと私の顔を見て、それからようやく「そうか」と頷いた。しかしまだ心配そうな顔をしている。この人は本当に、娘のこととなると別人になる。
「殿!」
廊下の奥から、鋭い声が飛んできた。
現れたのは、氏家守棟だった。最上家の知将として知られる重臣で、前世の記憶でも「義光の右腕」として名前が出てくる人物だ。年齢は四十代半ば、引き締まった体躯に、いつも冷静な目をしている。
「殿、大崎方より使者が参っております。一刻を争う件にございます」
「今は駒の具合が——」
「父上」
私は義光の袖を、そっと引いた。
「お仕事に行ってください。私は大丈夫ですから」
「しかし……」
「父上が頑張ってくれるから、私は安心して過ごせるのです」
義光の顔が、みるみる赤くなった。
「ぬ、ぬおっ……! か、可愛いやつめ……!!」
のたうち回りたそうな顔を必死に堪えながら、義光は「わかった、行ってくる! 必ず戻るからな!」と言い残して廊下を歩き出した。
私は氏家守棟と目が合った。
老練な知将の目が、わずかに細くなる。
私は小さく頷いた。後で、二人でお話しましょう——そういう意味を込めて。
氏家は一瞬、動きを止めた。それから静かに一礼して、義光の後を追った。
その背中を見送りながら、私は思った。
——氏家殿は気づいてくれるだろうか。この身が、ただの七歳ではないということに。
夕暮れ時、私は一人で庭に出た。
西の空が、燃えるような橙色に染まっている。出羽の夕焼けは大きい。山に囲まれた盆地の空は、どこまでも広く、どこまでも高い。
遠くから、兵の訓練の音が聞こえてくる。鎧の擦れる音、号令の声、馬の嘶き。
大崎合戦の足音だ。
私は空を見上げながら、自分の手を広げた。七歳の小さな手。前世では百メートルを十二秒台で走っていた身体は、今は着物の袖に隠れてしまうほど細い。
制約は多い。七歳の子供が軍議に口を出せるわけでもない。剣も槍も持てない。一人で城の外に出ることすら難しい。
でも——。
「私には、未来が見える」
それは呪いじゃない。
「これは、武器だ」
前世の歴史知識。義光の絶大な溺愛。愛らしい外見が生む、人の油断。そして七歳という年齢——幼女の言葉は、時として大人の正論よりも人の心に刺さる。
全部、使える。全部、武器になる。
「父上、政宗従兄様、義姫叔母様」
夕焼けの空に向かって、私は静かに語りかけた。
「私はあなたたちを、絶対に守ってみせます。だから——少しだけ、私にお付き合いください」
その時だった。
城の大手門の方向から、馬の蹄の音が響いてきた。一頭ではない。複数の早馬が、息せき切って駆け込んでくる音だ。
直後、城内が俄かに騒がしくなった。
怒鳴り声、走り回る足音、義光の「なんじゃ!」という怒声。
私には、何が起きたかわかった。
大崎合戦が、始まったのだ。
私は一度だけ深く息を吸って、それから静かに微笑んだ。
「最上駒姫の処刑フラグ——」
夕焼けが、山の端に沈んでいく。
「今ここに、粉砕開始です」
今日中に第2話までUPしたいです。




