表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生駒姫は、親バカな父・義光と従兄の政宗を和解させて東北大同盟を作り処刑フラグをへし折ります!  作者: 双瞳猫
第1部:転生幼女、親バカ父と暴走従兄の喧嘩を止める

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/17

第1話「最上家の次女に転生しました。え、私、15歳で処刑されるの!?」(前半)

新作開始します。

よろしくお願いします。

 死ぬ瞬間というのは、案外あっけないものだ。

 前世の私——大学二年生、文学部史学科専攻、体育会陸上競技部所属、百メートルと二百メートルが専門——は、秋晴れのトラックで軽いウォームアップをしていた。空は突き抜けるように青く、風は心地よく、今日の練習は調子が出そうだと思っていた矢先のことだった。

 「あ」

 という声が聞こえた。

 振り返る間もなかった。投擲練習をしていた先輩のやり投げの槍が、盛大にコースを外れて私の頭上に降ってきたのだ。

 ——結局、死因はトラックか。

 それが最後の思考だった。轢かれたわけじゃないけど、トラックで死ぬのは一緒じゃないか。転生あるあるにもほどがある。


 次に気づいたとき、私は泣いていた。

 自分の意思とは無関係に、小さな身体がわんわんと泣き続けている。天井が見える。木の梁。どこか遠くで、女の人が「よしよし」と声をかけている。

 ああ、と思った。

 赤ちゃんだ。私、赤ちゃんになってる。

 しかし当時の私には、それを深く考える余裕がなかった。赤ん坊の身体というのは恐ろしいもので、意識があるのに眠くなる、お腹が空くと泣く、それ以外は何もできない。前世の記憶はあったはずなのに、日を追うごとにどんどん薄れていって、気づけば私は普通の赤ちゃんとして、普通に育っていた。

 記憶が戻ったのは、三歳の春のことだ。

 縁側で、大きな男の人が私に向かって笑いかけていた。精悍な顔立ち、鋭い目元。でも私に向けられた表情は、どこまでも緩みきっている。

「駒ー! 父上じゃぞー! わかるか、父上じゃ!」

 その顔を見た瞬間、堰を切ったように、前世で蓄えた知識が浮かび上がってきた。

 最上義光。出羽国山形城主。「羽州の虎将」とも「羽州の狐」とも呼ばれ、恐れられた謀将。後に山形城を大幅に拡張し、関ヶ原の戦いでは上杉景勝の大軍を相手に奮戦した、東北屈指の武将。

 そして——私の、父上。

「……ちち、うえ?」

「そうじゃそうじゃ! わかったか! さとい子じゃ、駒は!」

 義光は私を抱き上げ、高い高いをしながら満面の笑みを浮かべた。その顔のどこにも、「羽州の狐」の面影はなかった。あるのはただ、娘を溺愛する父親の顔だけだ。

 私は抱き上げられながら、ぼんやりと考えた。

 ——転生、したんだ。私。

 そして、もう一つ。

 ——最上家の駒姫。それが、この身体の名前。


 それから四年が経った。

 天正十六年、西暦でいえば一五八八年の春。私こと最上駒は、七歳になっていた。

 山形城の奥御殿は、今日も穏やかだった。

 縁側から見える庭には、まだ雪解けの名残が白く残っている。出羽の春は遅い。京や大坂では桜が散り始める頃でも、ここではまだ梅が咲いているかどうかといったところだ。それでも空気は確かに緩み始めていて、軒下の雀たちが賑やかに囀っている。

 侍女の小春が、私の黒髪を丁寧に梳いている。

「姫様、今日もお綺麗でございますよ」

「ありがとう、小春」

 鏡に映る自分の顔を、私は客観的に眺める。黒髪、涼しげな目元、整った顔立ち。うん、確かに悪くない。前世では「地味」と言われ続けた私が、今世ではあと数年後には「東北一の美女」などと呼ばれることになるのだから、人生わからないものだ。

 ——見た目だけは、完璧なお姫様である。

 中身は史学科上がりの現代人だけど。

「姫ー! 駒はどこじゃー!」

 廊下の向こうから、地響きのような足音と怒鳴り声が聞こえてきた。小春が苦笑いを浮かべる。

「……殿がいらっしゃいましたね」

「みたいね」

 障子が勢いよく開いた。

 最上義光——私の父上が、満面の笑みで立っていた。身の丈六尺に迫る大柄な体躯、威圧感のある面構え。この人が戦場に立てば、敵兵が怯えるのもわかる。

 でも今、その顔はどこまでも緩んでいた。

「駒よ! 今日は何が食べたい? 父が何でも用意してやるぞ!」

 私は内心で深呼吸した。

 ——父上、今は軍議中のはずでは?

「……お父様、お仕事は終わったのですか?」

「終わった終わった!」

 ——終わってないでしょ、絶対に。

「そうですか」と私は微笑んだ。「では、父上のお隣に座ってもよいですか?」

「もちろんじゃ! さあ来い来い!」

 義光は縁側にどかりと腰を下ろし、私を膝の上に乗せた。大きな手が、ぽんぽんと私の頭を撫でる。

 父上は私のことを、山形城の宝物だと公言してはばからない。

 ——よろしい。ならば宝物として、この城を守る礎になってみせよう。

 私はそっと父上の腕に寄りかかりながら、頭の中では別のことを考えていた。情報収集。現状把握。今の東北の勢力図の整理。やることは山ほどある。


 その夜のことだ。

 侍女たちが下がり、居室に一人になった私は、燭台の前に座って目を閉じた。

 前世の記憶を、丁寧に掘り起こす。

 史学科で学んだこと。戦国時代の東北。最上家。そして——最上駒姫。

 記憶の中の教授の声が、静かに語りかけてくる。

 最上駒姫。最上義光の次女。生没年、一五八一年から一五九五年。享年十五歳。豊臣秀次の側室として上洛するも、秀次切腹事件に連座し、六条河原にて処刑。義光は助命嘆願の書状を送ったが、間に合わなかったとされる——

 燭台の炎が、ゆらりと揺れた。

「……六条河原。一五九五年八月二日。最上駒姫、享年十五歳」

 声に出すと、より一層リアルに感じられた。

「それが、私の死ぬ日」

 七歳の小さな手を、膝の上で握りしめる。

 怖い。怖いに決まっている。処刑なんて、想像するだけで足が震える。しかも秀次とは一度も会うことなく、ただ「秀次の側室だった」というだけの理由で斬られるのだ。理不尽にもほどがある。豊臣秀吉、あなたは最低だ。


 でも——。

 私は深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。

 でも、私は知っている。

 前世の私は、この歴史を知っている。知っているということは——変えるチャンスがあるということだ。

「整理しよう」

 独り言を言う癖は、前世から変わっていない。

「処刑フラグを折る条件は、突き詰めれば三つ」

 一つ目。秀次への輿入れを断る口実を作ること。これは必須だ。断れなければ話にならない。

 二つ目。断れるだけの「力」を持つこと。豊臣政権が「それなら仕方ない」と引き下がるだけの、軍事力と外交力が必要だ。最上家単独では、どう考えても足りない。

 三つ目——そして、これが今すぐ取り掛からなければならない問題だ。

「伊達家との同盟」


ネタとして温めていた、最上家の転生もの。執筆直前まで、義光か駒姫かどちらを主人公にするかで迷いました。

結果、駒姫視点で「親バカな父を手玉に取る七歳児」という構図に。

本日中に後半UPします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ