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転生駒姫は、親バカな父・義光と従兄の政宗を和解させて東北大同盟を作り処刑フラグをへし折ります!  作者: 双瞳猫
第1部:転生幼女、親バカ父と暴走従兄の喧嘩を止める

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第9話「三者会談前夜——政宗従兄(にい)様、どんな人なんだろう」(前半)

「伯父・伯母」と「叔父・叔母」の使い分け、気を付けてるつもりですが、意外と入力ミスが多発してしまいました。

誤字報告でのご指摘、ありがとうございました!


(もしまた「おや?」と思う箇所があれば、こっそり教えていただけると助かります!)

 義姫様の駕籠が去った後の陣は、不思議なほど静かだった。

 昨日まであれほど張り詰めていた空気が、嘘のように凪いでいる。太鼓の音も聞こえない。遠くで馬が嘶く声が一つ、二つ。鎧武者たちは持ち場を守っているが、その動きに昨日の「一触即発」の緊張感はない。両軍ともに、義姫様の交渉結果を静かに待っている——そういう空気だ。

 ——戦場の「凪」だ。

 私は天幕の前に立ち、出羽の春の空を見上げた。朝の光が、山の稜線を白く縁取っている。昨夜ほとんど眠れなかったせいか、頭の奥がじんわりと重い。七歳の身体は、徹夜に正直だ。

 そこへ——天幕の布が開いた。

「駒、やはり明日の会談には出なくていい。城に帰れ」

 義光だった。

 昨夜と同じ黒塗りの胴丸。しかし顔は——「謀将」でも「父親」でもない、どこか決意したような、しかし少し後ろめたそうな顔だ。

 ——お父様。昨日の今日で撤回するのはなしでしょう。本当に重症だ。

「お父様」 私は静かに言った。「昨日、義姫様が『この子も同席させてください』とおっしゃておられました。お父様も『反対はせぬ』とおっしゃられたではありませんか」

「あれは……義に言われたから仕方なく言ったのだ。本心ではない」

 義光が、苦しい言い訳をした。

 ——本心ではない、ね。では昨日の「よくやった」も本心ではなかったのですか、ちょっとガッカリですわ、お父様。

 私は内心でそう思いながら、表の顔は穏やかに保った。遠くで鮭延が「殿、義姫様との約束を反故にするのは……」と苦い顔で助け舟を出す。義光が「うるさい」と言いかけた、その瞬間——

「お父様も同席されるではありませんか」

 私は、静かに言った。「お父様が一緒にいてくださるのなら、何も問題などないはず。大丈夫ですよね」

 義光の動きが、止まった。

 長い沈黙が落ちた。篝火の燃える音が、やけにはっきり聞こえる。

 やがて義光は、低く言った。「……わかった。だが、政宗が無礼を働いたら俺がただじゃおかん」

 ——政宗従兄様より、お父様の方が心配です。本当に。

 少し離れた場所で、鮭延が小声で氏家に囁いた。

「……氏家殿、この流れ、昨日も見たような……」

「……左様ですな」

 氏家が、静かに答えた。その声に、呆れと諦めと——どこかナマ温かいものが混ざっていた。


 午後になった。

 陣の中は相変わらず静かだ。物見の兵が交代し、馬の世話をする足軽が遠くを歩いている。私は用意された小さな天幕の中で、膝を抱えて座っていた。

「姫様」

 氏家の声がした。「義姫様からの使者が参りました」

 私は顔を上げた。

 使者が差し出した書状は、小さかった。義姫様の筆——細くて、しかし力強い文字だ。封を切り、広げる。

 短い。三行しかない。

 ——政宗は明日の会談に応じます。

 ——付け加えるなら、政宗はあなたの文をすでに読んでいます。「面白い」と言っていました。

 ——賢い者を好む子です。策は要りません。文に書いたままの、あなたをお見せなさい。

 私は、しばらく動けなかった。

 ——面白い、か。

 その二文字が、頭の中で繰り返された。褒め言葉なのか。それとも警戒しているのか。どちらにしても——政宗従兄様はすでに、私を「ただの七歳の幼女」とは見ていないだろう。

「……姫様、義姫様は何と……」

 氏家が、静かに問いかけた。

「政宗従兄様が、私の文を読んで『面白い』とおっしゃっていたそうです」

 私は書状を折り畳みながら答えた。「それから——『策は要りません。文に書いたままの、あなたをお見せなさい』と」

 氏家の眉が、わずかに動いた。

「……守棟、これはどういう意味だと思いますか」

 私は問いかけた。自分の中に答えはある。でも——この人の言葉で確かめたかった。

 氏家が少し間を置いてから、静かに答えた。

「……義姫様は、姫様に『策を使うな』とおっしゃっているのかもしれません。政宗様は——策を見抜くことに長けたお方です」

 ——やはり、同じことを考えていた。

「……守棟。私は明日、私の正直な心持ちを従兄様にいさまにぶつけようと思います」

「……それが、最も賢い選択かと存じます」

 氏家が、静かに頷いた。その横顔に、珍しく——安堵のような何かが滲んでいた。


 夕刻になった。

 篝火が点々と灯り始め、陣の中に橙色の光が広がっていく。遠くの山の稜線が、夕暮れの空に黒く浮かび上がっている。その向こう——伊達軍の陣の方角に、同じように篝火の光が見え始めていた。

 あの中に、政宗従兄様がいる。

 私は天幕の中で一人、膝の上に手を置いて、静かに考えた。

 ——伊達政宗。

 前世の知識が、静かに浮かび上がってくる。

 1567年生まれ。現在21歳。幼い頃に疱瘡で右目を失い、「独眼竜」と呼ばれるようになった男。奥州の覇者を目指す野心家。文武両道で、南蛮文化にも通じている。漢詩を詠み、料理を作り、茶を点てる——そういう人だ。

 史実では、大崎合戦後も領土拡大を続け、小田原征伐に遅参して秀吉に領地を削られた。

 でも——この世界では、私がすでに介入している。

 ——義光お父様を動かした時は、「身内への愛」という弱点が丸わかりだった。だから動かせた。

 私は、そこで思考を止めた。

 ——でも、政宗従兄様は違う。

 「弱点」という言葉が、頭の中で引っかかった。義光お父様の「身内への愛」は弱点だったのか。それとも——強さだったのか。

 私はしばらく、その問いを転がした。

 ——お父様の「身内への愛」は、確かに弱点だ。私に泣かれると動いてしまう。でも——それは同時に、お父様の一番深いところにある「原則」でもある。「身内は守る」という、揺るがない核心だ。

 だとしたら。政宗従兄様にも、同じような「核心」があるはずだ。

 史実の政宗は——賢い者を好む。知的好奇心が強い。そして自分が正しいと思ったら誰の言葉も聞かない。

 「……お父様と同じじゃん」

 私は、思わず声に出していた。

 義光お父様が昨夜言っていた。「あれは俺に似ている」と。その言葉が、今になって重みを持って響く。

 ——賢くて、強くて、身内に甘い。自分が正しいと思ったら誰の言葉も聞かない。

 お父様と政宗従兄様が、同じ精神構造の人間だとしたら——政宗従兄様を動かすには、感情ではなく、知性に訴えるべきだ。

 でも。

 ——知性に訴えるということは、私が「七歳の幼女」という仮面を脱ぐことになる。

 私は、そこで立ち止まった。

 お父様には「可愛い娘」として接した。まぁ、それが正解だった。お父様は私を愛しているから、私の言葉に動いた。でも政宗従兄様は——私をまだ知らない。「面白い」と言っていたのは、私の文を読んでのことだ。文の中の私は、「七歳の幼女」ではなかった。

 ——だとしたら。私は政宗従兄様に対して、何者として向き合えばいい?

 ただの「可愛い従妹」として接しても、見透かされるかもしれない。

 「賢い交渉者」として接すれば、「なぜ七歳がそんなことを知っているのか」と疑われるかもしれない。

 どちらも、リスクがある。

 私は、長い息を吐いた。

 ——でも。

 義姫様は言った。「文に書いたままの、あなたをお見せなさい」と。

 氏家殿は言った。「策を使うな」と。

 二人が同じことを言っている。それは——答えだ。

 ——正直に話す。

 史実は地図だ。地図は現地を完全には表せない。でも——地図があれば、迷わずに歩ける。私は「伊達政宗」という人間の地図を持っている。その地図を頼りに、実際の現地を歩く。それが——転生者としての、正しいやり方だ。

 遠くの篝火が、夕風に揺れた。


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