クレーンゲームにコツとかあるんですか?
暇を持て余したボスは、散歩ついでに馴染みのあるゲームセンターに行くことにした。
「ぐぬぬっ……!どうしてなのだ!なんで取れないのだ!?」
入口近くのクレーンゲームと格闘していたミューラが、あまりの悔しさに頭を抱えて地団駄を踏む。
どうやら、またしても欲しかったウサギのぬいぐるみがアームから滑り落ち、挙句の果てに初期位置に戻ってしまったらしい。
今までコツコツ積み重ねた努力が一気に無に帰し、ミューラは憤慨した様子で拳を握り締める。
「こんなのどうやって取るのだ!」
「まぁまぁ、一緒にもっかいプレイしてみようよ」
「むぅ……!」
危うく台パンしかけたミューラを慌てて引き止めるボス。
もし彼女が怒りのまま拳をぶち込んでいたら、目の前のクレーンゲームは一撃で木っ端微塵にされていただろう。
というかたぶん、被害はこの一台だけじゃ済まない。
ネットで見聞きした情報とボス個人が培った技術を惜しみ無くミューラに教え、再度チャレンジを開始。
アームの力があまり強くないので、とりあえず何回かに分けて手前の方に動かしていく。
「……おおっ!さすがファントムなのだ!」
「ふっ。このくらいお茶の子さいさいよ」
ボス、渾身のドヤ顔。
絶妙な位置に移動させてからミューラにパスすることに成功した。
もう一度チャンスが巡ってきたのだ。
果たして今度は取ることが出来るのか……。
「むむむっ………む!ここなのだぁ!」
細かな位置調整の末、ミューラが力強くキャッチボタンを押した。
真っ直ぐにアームが下がり、ウサギのぬいぐるみを持ち上げる。
二人が固唾を呑んで見守る中、ぬいぐるみはグラグラと揺れる不安定なアームに支えられながらゆっくり移動。
順調かと思われた次の瞬間、ガクンッとぬいぐるみが下にズレてアームから抜け落ちてしまった。
反射的に握った拳に力が入る。
ところが。
「────やっ、やったのだーーっ!!」
落下口のフレームに当たり、上手い具合にこっち側に落ちてくれた。
取り出し口からウサギのぬいぐるみを抱き上げたミューラが、底抜けな明るい笑顔でビクトリーピースを掲げる。
可愛い。
これにはボスもにっこりだ。
「よろしければ、こちらの袋をご利用ください」
「おおっ、ありがとうなのだ!」
目敏い店員さんが大きい袋を持ってきてくれたので、ありがたく頂いてウサギのぬいぐるみをその中に入れる。
「わははっ!難しいが楽しいな、クレーンゲームは!」
「だしょー?」
後方腕組で頷くボス。
そう、コツさえ掴めば、あまりお金をかけずとも充分に楽しむことが出来るのだ。
最近は景品のバリエーションも豊かなので、個人的にはゲーセンにあるゲームの中でも特に好きな部類だ。
「ファントム、今度は奥の方に行ってみるのだ!」
「はいよ」
テンションが上がってきたらしく、グイグイとボスの手を引いて突き進むミューラ。
すっかり年相応な女の子みたいに瞳がキラキラ輝いている。
「アシュトラス、ミューラが奥に行きたいって」
「………ん。今、行く……」
声をかけると、ぽへ〜……っと別のクレーンゲームの台を眺めていたアシュトラスが、のんびりとそう答えた。
ゲーセンの中を色々と動いて回って、次にミューラが食い付いたのは体験型のダンスゲームだった。
足元にパネルがあり、音楽に合わせて指定されたパネルを踏むタイプの音ゲーチックなダンスゲームだ。
運動神経もさることながら、とにかく動体視力が凄まじく、ミューラはあっという間に中級者向けの難易度をフルコンでクリアした。
たまたま通りかかったおじさんが、拍手をすると共にアシュトラスの後ろを通り過ぎて行く。
「……姫様、すごい」
「うむ!だが、調子に乗るのはまだ早いようだぞ?さらに上の難易度が二つもあるのだ」
ミューラが難しい顔で唸り声を上げる。
画面には赤く角張ったフォントで"上級者モード"、そして紫の歪んだフォントで"超越モード"と書かれていた。
前者が一般的なプレイヤーの限界で、後者が色々と極めてしまった変態プレイヤー用に実装された難易度だ。
基本的には某弾幕ゲーにおける"Lunatic"と同じ扱いである。
本来ならば順当に上級者モードから挑戦するべきなのだが、"超越"という言葉に触発されたミューラは悩んだ末に、なんと"超越モード"を選択した。
周囲の別筐体で遊んでいた数人のプレイヤー達からどよめきが湧く。
頭上に疑問符を浮かべたミューラとアシュトラスだったが、曲がスタートすると共に映し出された譜面を見て、その意味を理解した。
「ぬわっ!?ちょ待っ、なんなのだこれは!?」
まさかの吸血皇帝に待ったをかけさせた。
しかしこのゲームに中断機能など搭載されていないので、雨粒のように降りしきるパネルの弾幕が容赦なくアバターの元に降り注ぎ、ゴリゴリとHPを削っていく。
「ぬおおおっ!まっ、負けないのだ!我輩は絶対に負けないのだー!」
奮起したミューラは全力で足を動かし、時には腕も使って激しいダンスを踊り、弾幕を捌く。
それはもう必死だった。
凄まじい熱量でコンボを繋げていると、徐々にギャラリーが増え始めた。
どうやら"超越モード"に幼女が挑戦すると知って、珍しいもの見たさに近場に居た人達が集まってきたようだ。
即行で失敗するかと思いきや、予想以上のコンボ数で生き残っている光景を目撃し、ギャラリーから歓声や感嘆の声が零れる。
「……どしたの?これ」
そこに、お手洗いに行っていたボスも戻ってきた。
忙しなく動くミューラに、それを囲む謎のギャラリー。
離れた時とあまりにも違う状況にボスは目を丸くしている。
アシュトラスから、かくかくしかじかの説明を受け……ボスは大いに頬を引き攣らせた。
「"超越モード"初見でこれかぁ……」
ボスもこのダンスゲームはプレイしたことがある。
だからこそ、"超越モード"の難しさは身に染みて理解していた。
あれはまず初見でどうこう出来る次元じゃない。
言わば初見殺しのオンパレードみたいなものだ。
とにかく殺意がヤバい。
プレイヤーを絶対に殺してみせるという、開発側の謎の執着が垣間見えるくらいだ。
大抵の場合、"超越モード"の曲は何回か繰り返してパターンを覚え、なんとか攻略するのが定石。
それを初見で、しかもコンボも結構繋げてるって……。
化け物かな?
化け物だったわ。
しかし、もはや乾いた笑みしか浮かべられないボスの横で、従者たるアシュトラスはさも当然であるかのように、至って冷静な無表情のままだ。
ミューラならば当然とでも言いたげだ。
心なしか、微かなドヤ顔の雰囲気と共に少しだけ胸を張っているようにも……見えなくはない。
「……王様、それは……?」
ふと横目にボスを見たアシュトラスが、こてん……と可愛らしく首を傾げる。
ボスが抱えている袋が気になったのだろう。
お手洗いに行った時には持っていなかったのだから。
「あ、これ?実はね───」
ボスはニヤリと笑みを浮かべ、袋の中に手を突っ込んだ。
そして出てきたのは。
「………それ……」
「さっきこのぬいぐるみ見てたからさ。欲しいのかな〜、って」
ボスが袋から取り出したのは、何とも言えない奇妙な造形をしたマスコットのぬいぐるみだった。
これは先程、クレーンゲームコーナーを離れる際に、アシュトラスがじっと見つめていた台の景品だったりする。
彼女の仕草が気になってお手洗いの帰りにちょいと寄り道し、自慢の腕前でこっそりとゲットしておいたのだ。
「……」
アシュトラスが目を瞬かせる。
まさか、わざわざ自分のために取ってきてくれるとは思ってもみなかったのだろう。
しばらく躊躇った後、差し出されたぬいぐるみをおずおずと受け取って抱きしめる。
「ん……。ありがとー……王様」
「どういたしまして」
ほんのちょっぴりだけ、アシュトラスの表情が和らいだ気がした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
感想等々、何かしらのリアクションをいただけると、作者は大変喜びます。狂喜乱舞です。ぜひともお願いいたします!( ^ω^ )




