VS"竜人"アシュトラス
「アーティファクトですか……」
強制転移させられた先で、ラプラスは顎に手を当てて考えていた。
ラミリスと名乗ったメイドが使用した、薄紫の球体。
どうやら、各襲撃地点で待ち伏せていたエヴァントラスのメンバー全員が同様のアイテムを所持しており、ほぼ同じタイミングで使用されていたことが"千里眼"により判明した。
察するに、使用者の任意の場所に指定対象を移動させるだとか、そのような効果を持つアイテムなのだろう。
能力の無法っぷりは、あのアイテムが"遺物"であることを考えれば妥当とも言える。
遺物とは、その名の通り遥か古に作られ、歴史の波に呑み込まれ姿を消した古代の遺物。
その多くが現代科学では証明することの出来ないロストテクノロジーを備えており、特殊な効果を持つ物ならば相当な高値で取り引きされると噂で聞いたことがある。
世界を巡る天空都市の住人ならば、そのような貴重なアイテムを持っていてもおかしくはあるまい。
「困ったわねぇ〜。他の所は大丈夫なのかしら〜」
「あまり芳しくないようです。やはり、慣れない組み合わせでの戦闘というのが大きいのでしょうか……」
頬に手を添えて表情を曇らせるシャイニング・ウィザード。
"千里眼"によって天空都市全体を見渡したラプラスは、各自の戦闘状況を即座に把握して淡々と説明する。
「敵も侮れぬ強者揃いか……」
予め、分かってはいたことだ。
それでも状況は予想よりも遥かに悪い。
大剣を携えたポニーテールの大和美人───剛鬼が「ううむ」と唸り声を上げる。
確かに現状は膠着状態。
想定よりも幾分かマイナス方向に傾いていることは事実だ。
しかし、それが何だと言うのだろう。
「関係ありません。ボスさんは絶対に、私が助けるですぅ!!」
雄々しくそう宣言し、拳を打ち鳴らしてズンズンと突き進むケモ耳少女。
我らが秘密結社Xのフィジカルモンスター、ウルフちゃんである。
実に好戦的な笑みを浮かべながら彼女が向かう先には、侵入者を排除するためにやって来た門番が佇んでいた。
「……」
風になびく黒の長髪は、動きの妨げにならないよう雑に結い上げられており、こちらをじっと見つめる双眸は黄金の輝きを秘めている。
全体的にほっそりとした印象を受ける華奢な体付きで、側面がガバガバのインナーからは鎖骨がはみ出している。
胸の膨らみはかなり控えめだ。
パックリと切り抜かれたインナーの隙間から拝める下乳はなだらかな斜面。
その代わりに剥き出しの肩と太ももは実に健康的であり、シュッと締まったクビレなどは一定の人々を狂わせる魔性の魅力を兼ね備えていた。
漆黒の腰マントは幽霊船の帆のようにボロボロだが、一方でつま先の尖ったブーツはある程度の手入れをしているのか、細かく付いた傷に反して綺麗さを保っている。
そして何より驚くべきは、その少女の腰から生えている太く艶めいた尻尾と、肘から先にかけて徐々に肌を覆う面積を広げる漆黒の鱗だろう。
手首から先は完全に光沢のある鱗に覆われており、指先は鋭利な刃物のように尖っていた。
まるで爬虫類のようだ。
「………アシュトラス。姫様の矛にして、盾」
ズンズンと進み続けるウルフちゃんの姿をしばらく見つめた後、お人形さんのように微動だにせず佇んでいたその少女は、やっとこさ小さく口を開いた。
随分とまた淡々とした名乗りだ。
寡黙というよりも口下手な印象を受ける。
黒髪の少女────アシュトラスは、傍らの地面に突き刺していたシンプルなデザインの槍を引き抜き、振り払うと。
「姫様の敵は───砕く」
突如として、アシュトラスの華奢な体から尋常ならざる闘気が溢れ出した。
それに物理的な圧力こそないものの、その場に居た全員を瞬時に身構えさせるだけの威圧感を含んでいた。
ビリビリと大気が震え上がる。
しかし再度、拳を打ち鳴らしたウルフちゃんは微塵も恐れることなく、むしろ嬉々とした笑みを浮かべて飛び出した。
あまりに力強く踏み込むものだから、ドンッ!と鈍い音がして地面が陥没。
体がブレる程の全力疾走で即座にアシュトラスとの距離を詰め、渾身の拳を繰り出した。
凄まじい衝撃波が散り、大規模な砂煙が巻き上がる。
「……あらぁ〜」
足元を這う砂煙を避けて浮遊する高度を上げたシャイニング・ウィザードは、衝撃波に煽られた魔女帽を飛ばないよう押さえながら、とても困ったように呟いた。
眼下の光景が、それ程までに意外だったのだ。
「ぐぬぬっ……!」
「………」
なんと、ウルフちゃんの拳が止められてしまったのだ。
しかも棒立ちのまま差し出した左手によって。
それでもある程度の抵抗はしているようで、ウルフちゃんの拳を掴んだ左腕は徐々に押されつつあった。
金色の瞳がギロリとウルフちゃんを睨みつける。
「わわっ!?」
急激に横向きの負荷が襲いかかってきたかと思えば、ウルフちゃんは地面に叩き付けられていた。
ビキビキと地表に亀裂が広がる最中、ふわりとウルフちゃんの体が浮かび上がり、今度は反対側の地面に叩き付けられる。
そして、最終的には思いっきり投げ飛ばされた。
水切りのように、何度も地面をバウンドして遠ざかっていく。
────ガギィイインッ!!!
重々しい金属音が響き渡ると同時に、アシュトラスの足元が衝撃に耐えきれず陥没した。
放射状に亀裂が広がり、砂煙が巻き上がる。
アシュトラスは僅かに目を細めた。
その視線の先では、いつの間にか真上に掲げていた槍が、大剣の一撃をしっかりと受け止めていた。
剛鬼の圧倒的膂力で振り下ろした大剣も、ものの見事に防がれてしまったのだ。
凄まじいパワーが拮抗し、両者の武器はカタカタと震える。
異質な鍔迫り合いの末、勝ったのはアシュトラスであった。
槍を振り払うことで剛鬼を弾き飛ばし、戦慄した表情のまま身を固めた彼女をアシュトラスは殴り飛ばした。
またしてもその先を見送ることなく、アシュトラスはすぐさまその場から飛び退く。
「とうっ!!」
直後、とんでもない速度で流星のように落下してきたウルフちゃんのキックが、地面に深々と突き刺さった。
粉砕された大地の欠片が勢いよく四方八方に飛び散る。
ブワッ!と舞い上がった砂煙の中で、ウルフちゃんは脚を存分にたわませて、すぐさまアシュトラスを追った。
追いつくのは簡単。
けれど、どれだけ打撃を連打しても全て槍を駆使して捌かれてしまい、有効打を喰らわせることが出来ない。
それならばと、ウルフちゃんはズンッ!!と一気に間合いを潰した。
槍では決して介入することの出来ないであろう至近距離だ。
アシュトラスがほんの僅かにピクリと瞼を動かした刹那、腹部に強烈な衝撃が走った。
ウルフちゃん渾身の膝蹴りである。
「………!」
槍の柄を間に滑り込ませ防御を間に合わせたにも関わらず、お世辞にも衰えたとは言えない重い衝撃が腹を突き抜けた。
ズザッ……!と僅かに後ずさったアシュトラスに、追い打ちのヤクザキックが叩き込まれる。
後退の勢いを地面に爪を立てて和らげたアシュトラスが顔を上げると、眼前には何本もの光の槍が迫っていた。
目の前だけではない。
自身を囲むように殺到した二十を超える光の槍を、アシュトラスは全て感知していた。
「"シャイニング・ランス"〜」
次の瞬間、四方八方から光の槍が降り注いだ。
ドドドドドドッ!!と大地が激しく揺れ、粉微塵になった土塊で視界が一時的に遮られる。
その土手っ腹に風穴が空いた。
凄まじい速度でそこから飛び出してきたアシュトラスは、僅かに土煙を被っただけで大したダメージは受けていないように見える。
存分な助走をつけて突き出した槍の先端が、瞬く間にウルフちゃんを捉えた。
「───ッ!!」
ウルフちゃんの表情が歪む。
フィジカルモンスターたる彼女と同等かそれ以上の圧倒的膂力を持つ、アシュトラスの強烈な突き技だ。
通常ならば胴体に風穴を空けられて終わりである。
けれどさすがと言うべきか。
胸の前でクロスした腕に深々と槍の先端が突き刺さったものの、完全には貫通されず、逆にパワフルな筋肉で槍が引き抜けないよう抵抗してみせる。
まさか腕の一本すらぶち抜けないなんて、アシュトラスは少しだけ驚いたように眉を寄せた。
きっと叫びたい程の激痛がジンジンと脈打っているだろうにも関わらず、ウルフちゃんは嗤っていた。
瞳をギラつかせて、強烈な前蹴りをアシュトラスの腹にぶち込む。
尋常ではないその威力によってアシュトラスの体が僅かに浮かび上がった。
「はあっ!!」
その隙を狙って、思いっきり横薙ぎされた大剣がアシュトラスの胴体を捉えた。
まるで野球バットをフルスイングするかのごとく、剛鬼は力いっぱい大剣を振り抜いた。
腕からボタボタと大量の血を流すウルフちゃんに代わって、剛鬼がアシュトラスを追う。
「……」
着地したアシュトラスの手には、しっかりと槍が握られていた。
剛鬼に吹っ飛ばされる直前、ウルフちゃんを上回るパワーを瞬間的に発揮し強引に引き抜いたのだ。
槍を振り払い、迫り来る剛鬼を対処するべく前傾姿勢に体を傾ける。
ところが。
「これ、は……」
アシュトラスが目をぱちくりとさせる。
体が動かないのだ。
まるで金縛り。
視線だけ動かして見ると、体の表面に薄紫の膜のようなものが張っているのが確認出来た。
頭から足の先までピクリとも動かせない。
剛鬼が襲来すると共に、その背後でこちらに向けて手のひらを掲げたラプラスの姿を、アシュトラスは視界に捉えた。
彼の体を包むようにして薄紫のオーラが漂っている。
(あれ……)
アシュトラスは冷静に状況を理解した。
直後、右の肩に骨を砕かんばかりの重々しい斬撃が振り下ろされた。
しかし手応えはおかしなものであった。
まるで包丁の刃がまな板に叩きつけられたかのよう。
肩口に残されたのは、薄皮一枚が切れた程度の浅い切り傷と、ほんのりと垂れた一筋の血液だけ。
苦々しい顔をした剛鬼の姿が掻き消えたのと入れ替わりに、射出された光の弾丸が次々とアシュトラスの体を打つ。
一つ一つが戦車の砲弾に匹敵する威力だが、その弾幕を浴びてもアシュトラスは平然としていた。
もうもうと立ち込める砂煙の中で、平気な顔をして佇んでいる。
「硬いわねぇ〜……」
「はい。パワーもですが、防御力がとにかく高い印象です。あの装甲、どうにかなりますか?」
「どうでしょうね〜、やってみない事には分からないけれど〜……。狼ちゃんは腕の傷、大丈夫そう〜?」
「バッチリですぅ!筋肉で止血したので!」
「あらあら〜」
ムキッとマッスルポーズで無事を表現するウルフちゃん。
何その脳筋解決法……。
本当に大丈夫なのかと、剛鬼から怪訝そうな視線が送られる。
結構抉られてなかった?
確かに血は止まっているようだが……。
「丈夫……。次、こそ……仕留める」
アシュトラスがそう呟いた。
彼女からしても、ウルフちゃんの頑丈さは目を見張るものがあるらしい。
それでも槍を構え、二度は無いと宣言するのだった。
ウルフちゃん並のフィジカルに、それを上回る防御力。アシュトラスはとにかく基礎ステが限界突破してるイメージ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
感想等々、何かしらのリアクションをいただけると、作者は大変喜びます。狂喜乱舞です。ぜひともお願いいたします!( ^ω^ )




