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悪の秘密結社は今日も平和です!  作者: ぽんすけ
六章

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81/84

VS執事ガルハラ



天空都市・エヴァントラスの北部には、荒涼とした岩壁の連なる峡谷のようなエリアがある。

主にミューラの運動場として使われるこの場所で、No.1ヒーローたるビルドマンは戦っていた。

ドゴォンッ!!と勢いよく地面に叩き付けられ、数回のバウンドを経てかろうじて体勢を立て直したビルドマン。

赤と青の覆面で隠された鋭い瞳を僅かに眇めつつ、しゃがんだ体勢のまま地面に手のひらをついた。

すると黄金のエネルギーがスパークを起こして地中に伝い、そして思わず目を疑うような光景を繰り広げる。

無機質な荒野の土地がひとりでに蠢いたのだ。

一辺1m程の正四角形の石柱が次々と大地から伸びて、緩やかな弧を描きながら上空に向かっていく。

ビルドマンの足元からも同じような石柱が飛び出した。

それに乗って、ビルドマンは敵の元に駆け付ける。



────ゴゥウンッ!!



今のは、先行していた石柱が互いに衝突した音だ。

先端が砕けて大小様々な残骸が砂埃と共に地上に落ちていく。

その中から何者かが飛び出してきた。

執事服のクールな長身男性だ。

オールバックの灰髪はピシッと整えられており、あれだけ動いているにも関わらずスーツの乱れは限りなく少ない。

至って平常心を崩さぬまま、その男性───ガルハラは、眼下を通り過ぎようとする石柱に指を向ける。

直後、重力に引かれて自由落下を始めようとしていた彼の体が不自然に加速し、まったく予想とは違った軌道で弧を描いて石柱の下を通り過ぎた。

まるでターザンだ。

重力を感じさせないダイナミックな動きで空中を移動しつつ、太陽の光を遮るようにして向かってくる石柱にチラリと視線を向ける。

お次の標的を決めたようだ。

何かを握る形をした右腕に力を込め、グンッと自身の体を引き上げてバク宙の要領で一回転。

目的の石柱目掛けて、左の手のひらを差し出す。

すると再び、ガルハラの体は重力を無視したターザンを彷彿とさせる動きで、空中をスイスイと進んでいく。



「……」



腕を引き寄せることで上方向に凄まじい推進力が生まれ、ガルハラは軽々と上空にあった石柱を飛び越した。

石柱を超えた段階で眩い太陽光が直接、彼を照らす。

そうして明らかになったのは、彼の周りでキラキラと太陽光を反射する()()だ。

よく見てみるとそれはガルハラの腕から伸びており、飛び越したばかりの石柱にも絡み付いていた。

"糸"だ。

鉄製のワイヤーに近いのか蜘蛛の糸に近いのかは、細すぎて視覚的には判断出来ない。

しかし、ガルハラがアレを利用して、重力を無視した空中移動をしていたことだけは判明した。

つまりターザンじゃなくて、スパ〇ダーマンだったということだ。



────ズガァンッ!!



ガルハラを挟もうとした二本の石柱が衝突し、残骸を撒き散らす。

その時、大きさも形も異なる自然の弾幕の隙間を縫って、青い雷が迸った。

瞬きを挟めば、つい先程まで誰も居なかったはずの場所で、銀髪の女性が右足を振り被っているではないか。

蒼雷を纏った鋭い蹴りを紙一重で躱し、ガルハラは糸を伸縮させながらコンパクトな打撃を織り交ぜて、空中での格闘戦を繰り広げる。

本来ならば、物理的に不可能と言わざるを得ない立体的な攻撃パターン。

しかし銀髪の女性───我らが秘密結社Xの秘書さんこと、イリスの動きも負けておらず、砕け散る岩を足場に凄まじい速度の攻撃を叩き込む。

ガルハラが左腕の糸を切り離した。

同時に、蹴り落とすようなハイキック。

的確にイリスの細身を捉えたかのように思われたが、雷の速度に人間が追いつけるはずもなく、綺麗に空振ってしまった。

背後でバチッ!と稲妻が迸る音が聞こえた。

繰り出された蹴りを左腕で受け、振り返りざまに右腕の糸で手繰り寄せた岩の塊を投擲する。

それ自体はイリスが放った雷と衝突して粉砕されるも、細々とした破片を目眩しに糸で拘束。

強引に引き寄せて思いっきり蹴り飛ばす。




「"血の涙(ブラッティ・クローズ)"!」




ほぼ入れ替わりで、地上から赤黒い液体が乱れ打ちされた。

液体と言えど、その威力は散弾銃を軽く凌ぐ。

その証拠にガルハラの眼下の残骸は、赤黒い液体に次々と貫かれて身を縮めていく。

ガルハラはすぐさま糸を編み込み、正面に大きな蜘蛛の巣のような盾を構築した。

心なしか、その糸は先程までの物に比べて少し太く、色も銀色に近くなっているように見える。

その銀糸と赤黒い液体がついに衝突。

ドガガガガッ!!と思いもよらぬ重厚な音を奏でた。



「ちっ」



上空から舌打ちが聞こえた。

見ると、そこには血のように赤黒く、そして美しい蝙蝠を彷彿とさせる翼を生やしたドレス姿の美女が、腕を振りかぶり迫っていた。

夜空に浮かぶ黄金の月を宿した透き通る金髪に、年代物の赤ワインを垂らしたかのような重層感のある深紅の瞳。

魔王軍所属の吸血姫、セレスティアである。

振りかぶった右腕は彼女の血により武装されており、二周りほど大きくなった指の先で鋭い爪がギラリと輝く。

ガルハラが咄嗟にクロスした腕を硬質の糸で保護した直後、鋭さを増した血の爪が振り下ろされ、ギャリッ!と耳障りな金属音が響き渡った。

火花が散る中、セレスは憎々しげに目を細める。

糸は見事にガルハラの腕を守り抜いたのだ。

構わずラッシュで攻めの姿勢を崩さないものの、ガルハラは全てを的確に捌き、側面の石柱に糸を括り付けて離脱。

糸の伸縮によって、立体〇動装置を彷彿とさせる素早い動きであっという間に距離を取った。

再度、セレスの口から舌打ちが漏れる。

それは簡単に逃げられたからだけでなく、いつの間にか自分の右足に括り付けられていた細い糸に対してでもある。

直後、グンッと右足が引かれて視界がブレた。



「ぬぐっ……!?」



強烈な横向きのG。

思わずと言った様子で歯を食いしばったセレスは、そのまま地面に向けて投げ飛ばされた。

しばらくして地上で土煙が巻き起こる。

だが、そちらを見ている余裕はガルハラに無い。

全方位、下方を含めたあらゆる方向から、石柱や石のブロックが彼を囲うように迫っているのだから。

まるで石の津波だ。

かろうじて逃げ場があるとすれば上だろうか。

ガルハラはすぐさま一番近くにあった石柱に糸を括り付け、包囲網からの脱出を図る。



「───そう来ると思ったぞ」



だが、残念ながらその作戦は早くも失敗に終わってしまった。

石柱に巻くはずの糸が、先回りして割り込んできたビルドマンの左腕に絡み付いてしまったのだ。

切り離すという思考が実行に移される前に、とんでもない馬鹿力によってガルハラの体は抗う間もなく引き寄せられていた。

反射的に盾にした両腕を、凄まじいまでの衝撃が突き抜ける。



────ドゴォンッ!!ドゴッ、ドゴッ!ドゴォオオンッ!!



いくつもの石柱や石のブロックをぶち抜いて、ガルハラは地面に叩き落とされた。

しかしガードが間に合ったことが幸いして、ダメージ自体はそこまででもない。

上手く着地を成功させたガルハラは、腕を軽く振って問題なく動くことを確かめる。

そして上空の様子をチラ見して素早くその場を飛び退くと、僅かに遅れてビルドマンが落下してきた。

大きな拳が地面を陥没させ、亀裂を広げると共に凄まじい衝撃波を撒き散らす。

パリッ!と黄金のエネルギーが迸った。

鋭い大地の槍や鎖などが一斉にガルハラに殺到する。

物量差でこのままゴリ押しされるかと思いきや、凄まじい速度で複雑に展開された糸。

ガルハラが拳を握ると共にピンと張り詰められ、殺到していた大地の槍や鎖を簡単に細切れにしてしまった。



「ぬんっ!!」



ブォンッ!とビルドマンの拳が空気を切り裂く。

先程、この拳をモロに喰らってガルハラは理解した。

そう何度も直撃する訳にはいかない、と。

とにかく威力が半端ないのだ。

一度目は軽く腕がジーンッとするだけで済んだが、回数を増すごとに無視出来ないダメージが蓄積されていくだろう。

そのためガルハラは極限の集中力を持って、ビルドマンの打撃を全て受け流す。

もちろんただ回避しているだけではない。

さりげない誘導で隙を作り出し、カウンターのハイキックでビルドマンの顔面を蹴り抜いた。



「───ッ!!」



ビルドマンの口元から血が飛び散る。

彼が一歩後ずさると同時に、ガルハラは驚愕で目を見開いた。

突如として、ビルドマンの背後から血の波が押し寄せてきたからだ。

咄嗟に蜘蛛の巣を展開して血の波の侵攻を阻止しようとしたものの、どうしても全ては防ぎきれず、波打った少量の血を頭から被る形になってしまった。



「これは……!?」



驚きを露わにしたのも、つかの間。

見上げた視線とイリスの見下ろす蒼い瞳が交差する。



「"雷煌(らいこう)"」



放たれたのは局所的な巨大雷。

大気を割く、ズガァンッ!!という圧倒的な衝撃音が響き渡る。

爆ぜた大地の残骸が散弾のように飛び散る中、痺れて動きが鈍くなったガルハラにビルドマンの打撃がぶち込まれた。

ガードした腕がミシミシッ……!!と悲鳴を上げる。

ガルハラは激しく後退した。

……が、今回は痛み分けだ。



「ぐっ……!」



実は殴られる寸前に、硬度の高い糸を張り巡らせていたのだ。

後退と同時にその糸を引き絞ることで、打撃の際に踏み込んだビルドマンは体のあちこちに切り傷を受けることとなった。

空中に張り巡らされた銀糸は、ビルドマンの血で真っ赤に染まっている。



「さすがに、この人数差は堪えますね……」



そう言うや否や、雷速で繰り出されたイリスの蹴りを、首を捻るだけで回避。

続く雷も避け、着地狩りのローキック。

惜しくもこれは空振り。

胴体を狙った拳を払い除け、振り返りざまにセレスの繰り出した血槍を蹴り上げる。

そのまま懐に潜り込み、鳩尾に肘打ち。

空いた手から糸を出して近くの岩を手繰り寄せ、イリスにぶつけた。

ちょうど二人が後退を強いられたタイミングで、周囲から石ブロックが波のように押し寄せてくる。

しかし、ノープログレム。

格子状に展開した鋭い糸で正面のブロックに切れ目を入れると、石柱に括り付けた糸で体を加速させ渾身の飛び蹴り。

いとも簡単に、ブロックの波に風穴を空けてしまった。

そのまま奥で地面に手をついていたビルドマンに蹴りを喰らわせ、吹き飛ばす。



「───いい加減に、道を開けてくださいっ!」



凄まじい規模の雷をその身に宿したイリスが、ガルハラの前に姿を現した。

"蒼華万雷(そうかばんらい)"。

全方位に特大の稲妻を解き放つ、イリスの得意技だ。

けれど、それが発動することはなく……。

技が発動する直前の溜めを見抜かれ、胴体に糸が巻き付くのを許してしまった。

イリスは思いっきり空中に投げ出され、ガルハラが拳を握ると共に、糸に引き寄せられた岩の塊の数々に押し潰された。

また、イリスとほぼ同時に距離を詰めていたセレスも、突き出した腕をこれ以上進ませることが出来ず、歯軋りしていた。

腕に巻き付いた糸が凄まじい力で左右に引っ張り、拳をその場に固定しているのだ。

千切れはしないものの、手首を締め付ける万力にセレスの表情が僅かに歪む。

彼女もまた、腹に蹴りをぶち込まれて後退を余儀無くされた。



「………」



やっと一段落したので、ガルハラは服装を整えつつ懐から懐中時計を取り出した。

パカッと蓋を開けると、時計の針は壊れておらず、正常に時を刻んでいた。

少しの間、ガルハラは忙しなく動く秒針を眺めていたが……。

懐中時計の蓋を閉じて、懐にしまうと。



「やれやれ、まだこの程度しか……。申し訳ありませんが、今しばらく、お付き合いいただきましょう」



ギュッと改めて手袋を直す仕草をして、ガルハラはそう言った。

正面にてドレスに付着した砂埃を払っていたセレスは、苦虫を噛み潰したような表情でため息をつき。

蹴り飛ばされた所から全力疾走で戻ってきたビルドマンは、無事に地面に着地し寡黙な視線でガルハラを射抜き。

岩の群れに押し潰されたかと思ったイリスは、内側からそれを粉砕して岩壁の上に着地し、焦りを滲ませた視線でガルハラを睨む。

イリスの焦りは過去最大だった。

本当ならば、今すぐにでもボスを助けに行きたい。

この雷にも匹敵する肉体を駆使して、彼の元に駆け付けたい。



……けれど、目の前の執事がそれを許してはくれないのだ。



断じて先には進ませまいと、身を挺してこの道を守護している。

その意志の硬さと主に対する忠誠心は並大抵のものではない。

だがイリスだってボスへの想いは負けていないと豪語出来る。

唯一彼に劣っているとすれば、イリス自身の戦闘力だ。

悔しい。

悔しいことに、一人ではガルハラには敵わなかっただろう。

だがセレスとビルドマンが加わったことによって、勝機は充分にあると言える。

しかし……しかしだ。

その勝機を手繰り寄せるまでに、あまりにも時間がかかり過ぎる。

故に、イリスは焦っていた。

焦らずには居られなかった。




「……お断りします」



ガルハラの申し出を、イリスはにべもなく断った。

全ては愛するボスを自らの手で救い出すために。



「どいてください。……ボスの元に、行かなくてはならないので」



イリスは全身から蒼い稲妻を迸らせ、デフォルトの冷たいジト目でそう言い放つのだった。






ビルドマン初のまともな戦闘シーン……。



・スパイダーマン………『MARVEL』シリーズより

・立体機動装置………『進撃の巨人』より


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

感想等々、何かしらのリアクションをいただけると、作者は大変喜びます。狂喜乱舞です。ぜひともお願いいたします!( ^ω^ )









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