VS超巨大怪獣ヴァルガム
『ギャオオオオオオッ!!』
大気をビリビリと震わせる特大の咆哮が響き渡り、同時に薙ぎ払われた木々が倒れて砂煙を巻き上げる。
ズンッ!ズンッ!と立て続けに地面が揺れたかと思えば、目を疑うほどの巨大な影が、何も無い荒野に覆い被さった。
次の瞬間、轟音と共に地盤が粉々に破壊され、天空都市全体を激しい振動が襲った。
『ゲェ〜ッ!やっぱしこの大きさだと加減が難しいなぁ〜!!』
思わず耳を塞ぎたくなる大きさで、馬鹿みたいに間抜けな声が響き渡る。
真剣なのかふざけているのか、どうにも読み取れない絶妙な声色で叫んだソイツは荒々しく頭を搔く。
ゴツゴツした岩肌がそのまま露出したかのような後頭部だ。
岩肌の中腹にある洞窟の入口を彷彿とさせる窪みの奥には、猛禽類を思わせる縦割れの瞳孔があり、無骨な胴体には黒い岩石のようなものが浮かび上がっていた。
腕は丸太のように太く、それすら上回るずんぐりとした二足が力強く大地を踏み締める。
全長はおよそ20m近くあるだろうか。
下から見上げるだけで首が痛くなる。
"超巨大怪獣"ヴァルガム。
それが彼に付けられた呼び名だった。
見た目的には、まんまGODZILLAである。
『あんまり壊しすぎっと、ラミリス様に怒られちまうんだよなァ〜!!』
ヴァルガムが勢いよく腕を振り下ろす。
ただの雑な叩き付けだが、その圧倒的巨体でやられると、"ただの"では片付けられない凄まじい威力を発揮する。
野太い指先がゴウッ!!と大気を裂く。
「ヌゥウンッ!!」
しかし地面に巨大な手型が押し付けられることはなかった。
その直前で受け止められたのだ。
ヒーロー協会が誇る三英傑が一人、マッスルマンによって。
マッスルマンは絶望的なまでの体格差をものともしない馬鹿力で、懸命にヴァルガムの一撃を抑えている。
彼が防いでいる隙に、動きを止めたヴァルガムの正面に跳び上がった者が居た。
百獣の王の立派な鬣を風になびかせた、ヴィラン組織・百鬼夜行のNo.2。
ライオネル親分である。
「はああああッ!!」
百獣の王にふさわしい、野生のパワーを込めた拳が見事に炸裂。
ヴァルガムの胸にドゴォンッ!!と凄まじい衝撃が走るが……。
『無駄無駄ぁ!これっぽっちも効かないぜェ〜〜!!』
言葉の通り、ヴァルガムの巨体はビクともしていなかった。
雑な前蹴りでマッスルマンを、左腕の振り払いでライオネル親分をそれぞれ弾き飛ばす。
《ルビー!!》
どこからともなく、雄々しい機械音声が聞こえた。
直後、ヴァルガムの目の前で真っ赤な炎が燃え上がる。
『うおっ!?』
驚いたのもつかの間、何者かに後頭部を思いっきり殴打された。
ヴァルガムが鬱陶しそうな仕草で振り返ると、そこには赤色のクリアパーツで武装した仮面のヒーローが、拳に炎を纏って飛んでいた。
ヒーロー仮面・アニマ。
ヒーロー協会には所属せず、ボランティアでヴィラン達の撲滅に貢献する隠れた正義の味方だ。
「はっ!」
ルビーフォームは火力特化。
放たれた炎の渦がヴァルガムの顔面を焼く。
ところが、耐熱性に優れた頑丈な鉱物を取り込み、その身に宿したヴァルガムにとってはそよ風も良いところ。
涼しい顔で頭を振って鎮火し、その巨大な口をガパッと開いてアニマを飲み込もうとする。
《サファイア!!》
腕に巻いた変身アイテムに青色のクリスタルをセットすると、一瞬にしてアニマの姿がシャープな造形に変化した。
鋭い牙に砕かれる前に、アニマの足元に青色の光が集まって宝石の足場を生成。
アニマが飛び退いた直後、バクンッと巨大な口が閉じられた。
別の宝石の足場に着地したアニマがググッと脚を曲げると、今度は彼の二足が青色の光を纏った。
刹那、アニマの姿が掻き消える。
サファイアフォームが得意とするのは、クリスタルの力を集約させた足場の生成と、それを利用した超高速移動によるトリッキーな戦闘。
ヴァルガムは見事にアニマの素早さに翻弄され、鈍臭い動きで精一杯忙しなく顔を動かしている。
『このっ、ちょろちょろと……!!』
じたばたと暴れたり、尻尾まで使って攻撃したりしてみるが、一向にアニマを捉えられる気配が感じられない。
ついにヴァルガムが痺れを切らした。
『ギャオオオオンッ!!』
それは今までの咆哮とは違う独自の響きを有していた。
その時、アニマはちょうど宝石の足場を踏み締めていたのだが、高速の中で即時に異変に気が付いた。
動かないのだ。
全身が、動かそうとしてもピクピクと痙攣するだけで、まるで力が伝わる気がしない。
『見つけたぜェ〜!!』
先程の咆哮は、特殊な振れ幅の音で鼓膜を刺激し、一時的に神経を麻痺させるヴァルガム唯一の搦め手。
相手をスタンにする、超音波のような技だ。
ほんの数秒で動けるようになったが、もう遅い。
ヴァルガムの大きな手のひらがアニマを捉え、思いっきりぶっ飛ばした。
あまりの衝撃に地面を数回バウンドした後、ゴロゴロと砂埃にまみれて転がり、やっと体勢を立て直したアニマ。
視界の端で眩い銀色の光が集束しているのを目敏く見抜いた。
見上げると、こちらを向いたヴァルガムが口を開き、その顎門の奥に見るからにヤバそうな銀色のエネルギーを溜めているのが見えた。
高速移動で逃げるべきなのだが、いかんせん先程のダメージが大きく体が思うように動かない。
今すぐの回避は不可能だった。
荒い息で体を揺らしながら、アニマは歯を食いしばる。
そんな彼の元に冷気を帯びた可憐な令嬢が舞い降りたのと、チャージが完了した銀色のエネルギーが解き放たれたのはほぼ同時であった。
キュアアアンッ!!と甲高い音を奏でて放出されたメタルカノンが、一直線に立ち塞がった令嬢の元に迫る。
だが、絹のように滑らかな銀髪を風で揺らしたその人物───青薔薇姫こと、我らがシルヴィアさんは。
神が直接その手で作り上げた最高傑作と言われても、疑うことなく信じてしまいそうなそのご尊顔を一切動揺させることなく、優雅に片手を掲げた。
差し出した手のひらに氷の結晶が構築され、シルヴィアはそれを胸の前で握り締めて、迫る銀色の光線に向ける。
「"氷精の息吹"」
極寒の冷気を内包した冷凍ビームだ。
銀色の光と水色をさらに薄めたかのような色合いのビームが衝突し、激しくせめぎ合う。
しばらく拮抗した後、周囲にえげつない被害を出しつつ両者は相殺された。
余波の風が荒々しくシルヴィアの頬を撫でる。
「……ん、無駄に高出力……」
シルヴィアの眉が僅かにだけ、困ったように寄せられる。
そう、ヴァルガムの動きは基本的に鈍臭く、さらに乱雑なことが多い。
しかし体が大きいだけに攻撃の範囲が洒落にならないレベルで広く、さらにメタルカノンなど放出系の技が無駄に高出力。
鉱石由来の防御力とタフネスもさることながら、雑に動いても体格差のせいで一挙手一投足が油断ならず、気を配らなくてはならないというのが、こいつを攻略する上で障害となっていた。
大きいだけだが、それがひたすらに厄介。
ヴァルガムとはそんな敵だった。
「ヌゥ……!まさかライオネル殿の拳ですら揺らがんとは」
「仮面のあんちゃん、無事か?」
「ああ、何とか……」
マッスルマンとライオネル親分も戻ってきた。
随分と遠くまで飛ばされていたから、戻ってくるのもそれなりに大変だったろう。
先程まで動けなかったアニマもようやく少しは回復したようで、ライオネル親分の手を借りながら立ち上がった。
「シルヴィア殿、申し訳ないが私は筋肉一辺倒なのだ……。何か、奴に効果がありそうな大技などはないか?」
「………あるにはある。けど、少し時間がかかる」
「そのくらいは問題あるまい。なぁ、友よ」
隣に目を向けたマッスルマンが、暑苦しい笑顔でキランッとサムズアップ。
歯を輝かせるな、歯を。
て言うかめっちゃ白いな、歯。
……やめろ見せびらかすんじゃない!
「ああ、そうだな」
ちなみに"友"とはライオネル親分のことである。
どうやらこの二人、出会った瞬間にお互いの筋肉で分かち合ったらしい。
筋トレをする者にとって筋肉は口ほどに物を言うそうで、高層ビルの屋上にて集合した段階で密かに握手を交わしていた。
……とまぁ、そんなどうでも良い情報はさておき。
ライオネル親分がシルヴィアに問う。
「どのくらいかかるんだ?」
「三十秒」
「上々。時間稼ぎは任せときな」
答えると同時に、シルヴィアは周囲に無数のひし形の氷塊を構築。
笑みを浮かべたマッスルマンとライオネル親分が一歩前に出て、そろって駆け出した。
『なぁ〜にコソコソ話してたんだぁ!?』
ゴオッ……!と大気を押し潰しながら巨大な足裏が二人の元に迫る。
絶望的な体格差。
しかし、踏み付けられたマッスルマンとライオネル親分は脅威の筋肉でそれを受け止め、見事に耐え切った。
筋肉の相乗効果だ。
筋肉は仲間が傍に居れば無限に強くなる。
そして筋肉とは、適度に虐めてこそ本領を発揮するのだ。
二人の足元に亀裂が入って陥没したものの、それでもなおピタリと静止したまま、それ以上踏み込まれることは無かった。
『マジかっ!?』
ヴァルガムが驚きを隠せないのも無理はない。
普通は潰されて終わりである。
筋肉でどうにかなるウェイトの差では無いのだ。
驚きの直後、シルヴィアが事前に放っていた氷塊が立て続けに着弾しヴァルガムの体を大いに揺るがした。
その隙にマッスルマンとライオネル親分は足元から抜け出し、左右に散らばって阿吽の呼吸でジャンプ。
「とうっ!!」
「せぇい!!」
マッスルマンの洗練された筋肉によって繰り出された拳が、ヴァルガムの胴体を。
ライオネル親分の漲る野生パワーを喰らった渾身の拳が頬に。
それぞれめり込み、ヴァルガムを激しく殴り飛ばした。
『ガハッ……!!』
ヴァルガムが大きく後ずさる。
だが、まだ倒れない。
すんでのところで踏ん張って、ギロリと二人を睨む。
けれど彼にはもっと注意すべき存在が居た。
《ダイヤモンド!!ダイヤモンドクリスタル!!》
『アァッ!?』
ヴァルガムが空中に目を向けると、そこには輝かしいダイヤモンドを砕いて全身に散りばめたかのような、豪華な形態のアニマが脚を曲げて待ち構えていた。
ギュアンギュアンッ!!と左足に煌びやかなエネルギーが集束。
スローモーションで片足キックのポーズに移行する。
「はああああッ!!」
ラ〇ダーキックだ。
ダイヤモンドのエフェクト盛り盛りのド派手なラ〇ダーキックがヴァルガムの胸に命中し、凄まじい勢いで激しく後退させる。
そしてついに、地面をガリガリ削っていたヴァルガムを仰向けに倒すことに成功した。
『ててっ……あん?なんたこりゃ』
地面に手をついたヴァルガムが、ようやく自身の周囲をパキパキッ……!と占領しつつある氷結に気が付いた。
しかし、時すでに遅し。
しっかりと三人が稼いだ時間で準備を整えていたシルヴィアが、白い息を吐きながら必殺技のトリガーを引く。
「───【絶対零度】」
その時、世界から音が消えた。
刹那の合間に周囲のあらゆる物体が荒々しく凍結し、一瞬にして銀一色の世界に塗り替えたのだ。
周囲一帯が極端な静寂に包まれ、遠くで起きているであろう戦闘の音だけが僅かな振動と共に伝わってくる。
シルヴィアは再び、そっと白い息を吐き出した。
「………ん、さすがにちょっと疲れた」
ふんす、と小さく鼻息を漏らす。
これだけ大規模の技を繰り出しておいて、"ちょっと"疲れたとは?
アニマの力で凍結を免れていた筋肉二人組から……特にライオネル親分から呆れの視線が注がれる。
「さて、それでは九尾殿のサポートに向かうとするか」
マッスルマンが太い腕をパシッと叩いて仲間を鼓舞する。
そうだ。
これでやっと本来の目的に入れるのだ。
そう思った矢先。
───バキッ!
何かがヒビ割れる音がした。
続けてバキバキッ……!!と地面を覆う氷結にもヒビが入る。
「……しつこい」
全員が呆気に取られる中、シルヴィアだけは顔を顰めて文句を零した。
ヴァルガムが起き上がったのである。
自身を包み込んだ荒々しい氷を粉砕して、氷河期の眠りから目覚めた恐竜のごとく。
ガギンッ!ガギンッ!と、硬いものをぶつけ合ったかのような甲高い音が辺りに響く。
音の元を辿ると、それは二足でしっかりと立ったヴァルガムの口からだった。
牙を打ち鳴らしているのだ。
ギザギザの鉱物にまみれた特殊な牙を。
すると───。
突如として、ボボッ!と炎が燃え上がった。
凶悪な顎門に灼熱の炎を携えたヴァルガムがシルヴィアを睨む。
『俺ァ馬鹿だからよく分かんねぇけどよぉ……!!氷に対抗すんなら、やっぱり有利属性の炎しかねぇよなァ!!』
渦巻いた炎を纏ったメタルカノンが放たれる。
シルヴィアは、先程と同じくそれを"氷精の息吹"で相殺。
苦い顔で得意げなヴァルガムを見上げる。
これは長期戦になりそうだ。
ヴァルガムの予想外のタフネスを前に、全員がそう悟ったのだった。
ヴァルガム君は幹部の中でも割と下の立場です。強さがどうこうではなく、単純にお馬鹿で人の話を聞かず、誰かに命令出来るような頭を持っていないからです。単細胞のお馬鹿さんですが、主であるミューラを除けば、唯一メイド長のラミリスさんにだけ従順な態度を示しています。どうやら以前、相当なトラウマを植え付けられたようで……。彼女の前では立派に躾られたドーベルマンみたいになるそうです。
・GODZILLA………『ゴジラ』シリーズより
・ライダーキック………『仮面ライダー』シリーズより
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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