VSメイド長・ラミリス
「面倒なアーティファクト使われてもうたなぁ……」
「さすがに、一筋縄ではいかないようでありんすね」
相手もただ馬鹿みたいに待ちぼうけしてた訳じゃない。
ファントムを取り返すためやって来るであろう敵を想定し、事前に準備を整えていたのだ。
全ては主の悲願のため。
頭を垂れたラミリスが、自然な所作でロングスカートの裾を摘んでそっと持ち上げる。
上品な仕草とは裏腹に、スカートの中からジャラッ……と音を立てて姿を現したのは───。
細い鎖で繋がれた、何本ものナイフだった。
異様な光景に、ゼロとガルバンがギョッとしたように目を丸くする。
ラミリスは両手に一本ずつ細身のナイフを握り、投擲。
素晴らしいエイムで幻狐の肩と胸が射抜かれる────かと思いきや。
「痛ってぇ!?」
実際に深々と刺さったのは、ゼロの顔面と左の肩口だった。
どうやらナイフが命中する直前に、横に居たゼロの襟首を引っ張って身代わりにしたらしい。
あまりに躊躇いのない肉壁。
これには反対側で腰ベルトのサバイバルナイフに手をかけていたガルバンも、見ての通りドン引きだ。
幻狐は役目を終えた肉壁を投げ捨てて、やれやれと肩をすくませる。
「ちょっと待てぇい!なに人を身代わりにしてくれちゃってるわけ!?痛いんですけど!?」
「あら。無事だったようで、何よりでありんす」
「やかましいわっ!」
ガバッ!と起き上がったゼロが幻狐に食ってかかる。
よくもまぁ、ぬけぬけと……。
憤慨した様子のゼロは、涼しい顔で無事を喜ぶフリをする幻狐を睨みながら、額と肩に突き刺さったナイフを引き抜く。
驚くべきことにそのエッジ部分には血の一滴も付着しておらず、目立った出血も見られなかった。
むしろ、前髪と衣服の隙間から見える肌には、ナイフが刺さっていたはずの刺し傷すら見当たらない。
「主さんの能力なら、何も問題はないでありんしょう?」
「それはそうだけれども!」
うがーっ!とゼロは頭を抱えた。
確かに彼の能力ならば、どれだけナイフが刺さろうが実質的にノーダメージである。
けれど痛いものはやはり痛いので、いくら見た目的に無傷でも極力怪我をするのは避けたいのだ。
それを大いに理解してるだろうに、この女狐ときたら……!!
どうせ想い人であるファントムが誘拐されて、内心ではとても焦っているに違いない。
一刻も早く迎えに行きたいので、今の幻狐には相当、心の余裕が無いと見える。
ちなみに図星だ。
「どうせ直接的な戦闘力は皆無。ならば、せめて肉壁として働くのは当然の仕事でありんす」
「泣くよ?」
厨二病、言外に無能を宣告されて、真顔で「どうしてそんな酷いこと言うの?」と訴えかける。
実際に肉壁以外では無能なので返す言葉もない。
いや、本当はかなり有能な立ち回りも出来るのだ。
むしろ敵に回すと一番厄介なタイプと言っても過言では無い。
けれど残念なことに本当に、現状では何の役にも立たないのだ。
「あの女、やべぇな……」
「ファントムはんには優しいんやけどなぁ……」
好きな人限定で超甘々になるタイプだ。
まさに狡猾な女狐。
幻狐の容赦の無さに、ガルバンとテンパライが肩を寄せ合って引き気味なコメントを残す。
まさに戦々恐々。
今はあまり彼女を刺激しない方が良いだろう。
「……」
一通り言葉のナイフでゼロをぶっ刺した後、幻狐はチラリと視線をラミリスの方に向けた。
見ると、かのメイド長はずっとニコニコしたまま、こちらの会話を見守っていた。
特に何かアクションを起こす様子はない。
その瞳には微笑ましさすら感じる。
どうやら幻狐の視線に気が付いたようで、目を瞬かせた後に、ニコリとほんわかした微笑みを浮かべた。
一体何のつもりなのだろう。
「───"霧葬"」
幻狐の妖力を媒介に発生した濃霧が彼女の体から吹き出し、あっという間にラミリスを包み込む。
完成したのはドーム状の霧の結界だ。
以前、勇者ヒーローであるユウキと戦った時にも使った幻狐の得意技である。
濃霧で視界を奪いつつ、人体に馴染みの無い妖力(霧)を体内に取り込ませることによって、平衡感覚の欠如や筋弛緩などの厄介な特殊状態を付与する。
大抵の場合は、ユウキ君のように抜け出す前に力尽きてしまうのだが……。
「おお、こりゃ凄いな……」
ガルバンが呑気にそう言った直後だ。
濃霧の結界が膨れ上がり、ボバッ!!と勢いよく四散してしまった。
思わず目を細めてしまうような強風が吹き荒れ、霧を攫ってどこかへと飛ばしていく。
「……お見事でありんす」
そう。
この程度の技でどうにかなるような相手なら、わざわざ奇襲作戦などせずとも、正面からカチコミすれば良いだけの話だ。
霧の奥から姿を現したラミリスの右手には和風な扇子が握られていた。
よく見てみると富士山が描かれており、ネット通販で買ったのか現地でお土産として買ったのか、ギリギリ判断が付かないようなミーハーな扇子だった。
パチンッ、とその扇子を閉じてスカートの裾にしまうと、代わりに二本のナイフを取り出して両手に持つ。
「さあ、行きますわよ?」
まるで新体操の選手がリボンステッキを投げるがごとく、ラミリスはナイフを二本とも、空中に放り投げた。
ゆっくりと回転したナイフが徐々に失速し、最高地点へ。
その瞬間、ナイフが淡い金色のオーラを纏う。
「〈増加〉」
ラミリスがポツリとそう呟いた刹那。
金色のオーラを纏ったナイフがブレた。
姿が歪み、二つが四つに、四つが八つに……と、あっという間に数が倍増していく。
形も大きさも全く同じだ。
次々と増えていくナイフを、ラミリスは落ちてきたものから器用にキャッチして投擲しまくる。
まるでダンスでも踊っているかのようだ。
「ちっ!なんだありゃあ……!!」
ガルバンは懐から取り出した手榴弾のピンを口で引き抜き、迫り来るナイフに向けてぶん投げた。
ドゴォンッ!!と爆発音が響き渡ると同時に、爆炎に紛れて砕けたナイフが飛び散る。
弾幕に一時的に穴を空けた。
けれど、今もなお増える一方なナイフは投擲され続けており、先行して迫っていた弾幕の一部だけ吹き飛ばしても、奥から土煙を突き破って大量に飛んでくる。
再びガルバンの口から舌打ちが漏れた。
ギンッ!!と音がしてナイフが地面に転がる。
ガルバンが腰から抜いたのは迷彩柄のサバイバルナイフと、とにかく頑丈でグリップが独自の形をしている軍用ナイフだ。
ラミリスが投擲する細身のナイフに比べて、どちらもかなり骨太に見える。
「うおおおおっ!!」
その二本のナイフを持って、迫り来る銀色の輝きを次々と撃ち落としていく。
さすが腐ってもランキング6位のヒーロー。
やる時はそれなりにやるようだ。
一方で。
「うおおおおっ!?」
ゼロは顔面に三本、胴体に七本、下半身に五本の合計十五本のナイフに被弾して、言葉通り針のむしろ状態になっていた。
ゼロが撃沈してからしばらくして、ナイフの弾幕は収まったが……。
彼の後ろからひょっこり顔を覗かせた幻狐とテンパライ。
何でもないような表情で安堵のため息をついた。
「うぉい!!だから人を肉壁にすんなって!!てか今回はテンパライもかよ!」
「いやぁ、堪忍な?あのメイドはん、僕の能力じゃどうにもならへんのや〜」
実は先程から、何度かに渡りテンパライは己の能力をラミリスに試していた。
彼の力はいわゆる精神操作に分類される。
相手が抱いている感情の"熱"を、下げたり上げたりすることが出来るのだ。
例えば、勉強に対するやる気が凄まじい子がそこに居るとしよう。
そんな子供の"やる気"をテンパライが能力によって下げると、途端にその子供はやる気を失くして勉強を辞めてしまう。
あれだけ熱意があったにも関わらず、一瞬にしてその気持ちが冷めてまるで興味を失くしてしまうのだ。
その要領で、テンパライはラミリスの戦闘に対する意欲などを操作して冷めさせた。
ところが、だ。
確実に能力が発動したはずなのに、ラミリスは一切行動を変えなかった。
何度繰り返しても同じ。
欠片も変化が見られなかった。
考えられる理由はただ一つ。
ラミリスは完璧メイド過ぎて、自分のやる気とかモチベーションが任務に一切関与していないのだ。
やりたいやりたくないじゃなくて、やるのが当たり前。
彼女の中では、主の命令は何よりも優先されるのだ。
「………わっちらが選ばれた理由、何となく分かってきたでありんすねぇ」
「やなぁ。こら長引くで〜?」
幻狐の発言に、テンパライも苦笑いで答える。
一見すると無作為に選ばれたかのようなこの面子。
しかしここに来て一つの共通点が見えてきた。
それは、全員が決め手に欠けるという所だ。
ゼロは能力で肉壁にはなるものの、戦闘力が皆無。
幻狐とテンパライはデバッファーで戦局を変えられるような大技は無し。
ガルバンは強いが、あくまで能力を持たない一般人の範囲内。
全員が決め手に欠けていた。
そして、それは相手も同じだ。
ラミリスの能力は恐ろしいものの、どうやら〈増加〉には限度があるようで、無限に増え続けるなんて悪夢は起こらない様子。
そのため幻狐の濃霧による翻弄やゼロの肉壁があれば、少なくとも負けることはないだろう。
つまり、両者共に決め手に欠ける泥沼の戦いと化す。
もちろん、いずれは無限肉壁のある幻狐達が勝利するだろう。
けれどその"いずれは"にたどり着くまで、どれ程の時間がかかるか分かったもんじゃない。
それでは駄目なのだ。
どうやら敵はこちら側の作戦に薄々気付いた上で、そうはさせまいと持久戦に持ち込むことにしたようだ。
これは実に困った。
「……え、もしかして僕の出番これで終わり?」
ナイフまみれのゼロが「嘘でしょ?」とこちらを向く。
はい、終わりです。
ついに始まりました、ヴィラン&ヒーローVS天空都市エヴァントラス。初っ端のお相手はメイド長のラミリスさんでした。
彼女は島内の雑務や家事を担当するメイド達の長で、主にミューラの身の回りの世話を担当しています。また外部とのやり取りや交渉なども彼女が務めており、表舞台に出ることが最も多い幹部です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
感想等々、何かしらのリアクションをいただけると、作者は大変喜びます。狂喜乱舞です。ぜひともお願いいたします!( ^ω^ )




