ヴィラン達の緊急会議
秘密結社Xのボスであるファントムの誘拐を受けて、ヴィラン連合は緊急の会議を開いていた。
円卓に集まった五つの組織。
そのうち、紫髪の中性的な青年────ラプラスが神妙な面持ちで、机に並べたプリントをペラペラとめくる。
「天空都市エヴァントラス……かの場所に住まう者こそ、吸血鬼の王、ミューラ・ローズブラッドです」
印刷された写真は、海外で撮られたものらしい。
鋭い八重歯を剥き出しにして凶悪に笑い、爛々と輝く深紅の瞳で何かを見つめている。
僅かに画質が荒くブレているのは、それだけ写真に収めた瞬間が油断ならぬ状況だったからに違いない。
「エヴァントラスの戦力は彼女を中心とした少数精鋭。個々の実力は侮れません」
エヴァントラスに住むメンバーは既に判明しており、幹部クラスは総勢七名。
それに加えてメイドなどの非戦闘員が数名常駐しているようだ。
「何よりイリスも言っていたが、ミューラ自身の強さが半端じゃないみたいだな」
「もうほんと、やんなっちゃうねー……」
魔王様の言葉に続いて、ゼロが円卓に顎を乗っけて大きなため息をつく。
ウルフちゃんの物理はヴィラン連合でも屈指である。
そんな彼女が一時的とは言え拘束を許してしまうほど、ミューラが軽く放った血の茨は強固だった。
「あっちさんの動きは?」
「未だに無言を貫いているようです。しばらくは留まるつもりでしょう」
天空都市エヴァントラスは空を彷徨う巨大な島だ。
今までは主に大陸を中心にあちこちを漂い、行く先々で好き勝手に振舞っていたそうで……。
それが国際指名手配される一番の要因だったようだ。
国を跨いでヴィランとして活動する規模の大きさには同業としておみそれするものの、今回ばかりは自重して欲しかったなぁ……と思ったゼロ。
まさか海を渡って島国にまで侵攻してくるとは。
(ファントムも災難だなぁ……)
遠い目をしたゼロが心の中で呟く。
話を聞いた限りでは、もはや本人には防ぎようもない偶発的な奇跡の出会いによって、このような事態になってしまったのだ。
今回ばかりはちょっとボスが可哀想。
……と、同時に。
ゼロは緊張した面持ちでそっと視線を横に向ける。
そこには、先程からずっと黙りを決め込んでいたイリスと九尾の姿が。
イリスの方はまだ良い。
今は黙っているものの、招集された際にはきちんと情報共有し、極めて冷静に振舞っている様子を目にした。
もちろん気持ちを胸の奥底に押し込めているのは容易に見て取れるが、裏を返せばそれでもまだ、取り繕えるくらいの理性は保っているということだ。
クール系有能秘書の実力を遺憾無く発揮し、しっかりとボス不在の秘密結社Xをまとめている。
その胸の内に秘めた激情は、きっとミューラやその配下と衝突した時にぶちまけてくれるであろう、ある種の安心感があった。
けれど……。
伝説の妖狐はそうとも限らない。
まだブチ切れて一人で殴り込みをかましてないだけマシとも言えるが、むしろその冷静っぷりが逆に怖かった。
変な物でも食べたのかとゼロは眉を顰める。
「なんか案外大人しいのね」
「あ゛ぁん!?見ての通りブチギレておるが!?」
「すんません」
即座に謝罪した。
弱い。
魔王様がやれやれと呆れを含んだ視線を送る。
「ブチギレてる割には、きちんと会議には参加するんだな」
「お主ら妾を闘牛か何かだと勘違いしておらんか?」
口元をへの字に曲げて不満さをアピールする九尾。
「はぁ……。妾とて、今すぐにでもファントムを助けに行きたいに決まっておる。じゃが焦って戦局を見抜けぬほど耄碌してはおらんわ」
「九尾さんでも今回は厳しいですか?」
「じゃな。ミューラをぶっ飛ばすのは妾一人で充分じゃが、流石にあやつを相手取りながら幹部連中まで構うのは、妾でもちとキツい」
「逆にミューラは一人で倒せるんだ……」
何なんこの人……?とゼロからドン引きの視線が送られる。
やはり九尾としても、今回ばかりは協力プレイが必要不可欠らしい。
「くふふ。じゃが、これは逆にチャンスじゃろう?」
「チャンス〜……?」
どう考えても現在の状況は"チャンス"とは程遠い。
むしろピンチ寄りだ。
にも関わらず、九尾はどこかご機嫌な様子で拳を握りしめる。
「今、ファントムはまさに囚われの姫状態じゃ。妾が華麗に救出すれば好感度は爆増!さすがのファントムも、妾に惚れずには居られまい!」
「えぇ〜……?」
怒りを含みつつ、しかし己の欲望も滲ませた絶妙な表情で九尾は高らかに笑う。
ブチギレはしてる。
してるけども、こんなに美味しい状況を作ってくれたミューラには、ある意味で感謝もしている。
そんな感じだった。
怒りが一周回っておかしくなってしまったようだ。
「冷静なようで助かります」
「これ冷静かなぁ!?」
「むしろ煩悩の塊じゃないか?」
なんかよく分からない迫力あるオーラを纏い始めた九尾。
ラプラスの見当違いな頷きに、ゼロからビビりつつツッコミが入る。
ギャグパートメインになってきたし、会議もそろそろお開きか……。
そんな雰囲気が、円卓を中心に蔓延してきた頃。
ラプラスから待ったが入った。
「皆さんに一つ、相談があります」
九尾を除く、全員の頭上に疑問符が浮かぶ。
「端的に言いますが、おそらくヴィラン連合のみではエヴァントラスに勝つことは出来ません」
「……納得の判断ですね」
「マジ?」
イリスが静かに頷く傍ら、ゼロが信じられないと言った様子で目を見開く。
はっきり言って規模が違うのだ。
一つの国のさらに小さな都市を拠点に活動する組織がいくつか集まろうが、世界を股にかける大物ヴィランの組織に敵うはずがない。
無情だが避けられない現実だ。
それはイリスも分かっている。
だがラプラスは、ただその事実確認をしたかった訳じゃあるまい。
何かその戦力差をどうにかする打開策があるのだろう。
「そこで───ヒーロー協会から、共闘の提案をされました」
「………ああ、そりゃそうか。国際指名手配犯だもんな」
魔王が納得したように頷く。
そう、ミューラ達ご一行は国際指名手配犯。
そんな連中が国内に居座っているのだから、天下のヒーロー協会が黙って見ていられるはずがない。
「しかし彼らもどうやら、現状の戦力ではエヴァントラスを制圧するのは難しい様子……。そこで、ここは一時的に共闘しないかと、会長であるシュウォルテが直々に」
ラプラスは改めて、円卓を囲む同志たちに問う。
「私からの相談は、この申し出に対していかに返答するか……。どうしますか?」
「ま、いいんじゃね?困ってるのはお互い様だし」
「人数は多い方が良いだろうしな」
「お任せします」
「好きにせい」
「……分かりました。では、そのように伝えておきますね」
今度こそ、これにて会議は終幕。
次回はついに囚われたボスを助けに行きます。
それにしても、まさか主人公が囚われの姫ムーブって……。
一体どうなってるんですかね。
────オマケ────
全体を通して、いつにも増して口数が少なかったイリス。
会議が終わり、ボス救出の準備のため早々に立ち上がった彼女の元に、控えていたソアレがやって来た。
「随分、様になっていたじゃないか」
「冗談を。あの席に座るべきは、ボス以外に有り得ません」
「同感だね」
他の組織の長達と肩を並べたイリスが、様になっていたというのは本当の話だ。
けれどやはり、自分達が背中を追うべきは彼でなければならない。
本来あるはずの温もりが身近に感じられないことが、ここまで自分に大きな影響を与えるだなんて。
イリスもソアレも自覚はしていたものの、それ以上に重く苦しい物を押し付けられて、表情に陰りを帯びていた。
「……さ、行こうか」
「はい」
絶対にボスを救出する。
その想いを胸に、二人はアジトへと戻った。
囚われの姫ムーブする主人公とか中々いませんよね……。
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