我ら親バカ三銃士!
ある日。
郊外にあるレトロなカフェに、彼らは集まっていた。
我らが秘密結社Xのボス。
百鬼夜行のNo.2であるライオネル親分。
そして、魔王軍を率いる魔王様の合計三名である。
一番奥の四人がけのテーブルに集まり、何やら深刻そうな雰囲気を醸し出している。
三人分のコーヒーを提供した店員が、その異様な気配に笑顔を引き攣らせつつ、ぺこりとお辞儀をして去って行った。
ゲン〇ウポーズで微動だにしていなかったボスは、無言のままコーヒーカップを口に付けて少し傾ける。
ほろ苦くも癖になる香りが喉を通り、鼻を抜けた。
カチャ……とソーサーにカップを置くと、我らがボスは至って真剣な表情でこう口にした。
「うちの小雪ちゃんが可愛すぎて辛い」
キリッと、そして凛々しく。
普通ならば「何を言っているんだコイツは……」と呆れの視線を頂戴するところだが、何故だかテーブルを囲む残りの二名からは、そのようなツッコミが飛んでこない。
「と〜にかく可愛いんすよ。隙を見つければ"ボス様ぁ〜!"って抱きついてくるの、マジでヤバすぎ。俺を尊死させる気ですか?そん時の笑顔がまぁ〜〜可愛いんだ、これが。ありえんくらいほっぺぷにぷにだし」
ボスがスマホを操作して見せた写真には、見覚えのあるロングコートの裾から顔だけ出して、満面の笑顔を浮かべている小雪ちゃんの姿が。
もちろん、これだけではない。
横にスライドすれば、ボスのお膝の上でプリンを食べている小雪ちゃんや、並んでリクライニングチェアに寝転がり、まるで本物の親子のようにシンクロしたポーズでスヤスヤと眠るボスと小雪ちゃん。
クレーンゲームで大好きなお菓子を大量ゲットし、目を輝かせている小雪ちゃんなど、愛娘を写した大量の写真が次々と出てくる。
ちなみに、これらの写真をまとめたフォルダの名前は『KMT(小雪ちゃんマジ天使)』だ。
「特にこの前なんかね。すっげぇ暑い日だったんだけど、俺が汗ダラッダラでへばってたら、小雪ちゃんが背中に抱きついてきてさ。"えへへ、ひんやりしますか〜?"って。上目遣いで。昇天するかと思ったわ」
「分かる」
「娘の上目遣いは反則」
魔王様とライオネル親分からも同意の声が。
至極真面目な顔でうんうんと頷く。
小雪ちゃんは雪の怪人であるため、体温が人よりもかなり低く、暑い日なんかはひんやりとしていてとても気持ち良い。
娘が自分のことを気遣ってくれただけでなく、実に素晴らしいシチュエーションで天使の微笑みを見せてくれたのだ。
ボスの疲れや暑さへの鬱憤は一瞬で消滅した。
「ファントムんとこに比べて、うちの娘はかなり破天荒でなぁ……。もちろんそこが可愛いんだが。最近は"パパみたいに強くなりたい!"って、空手を習い始めてよ。一緒に型の練習すんのが楽しいんだ、これが」
ライオネル親分が、厳つい図体に似合わぬデレッデレの破顔を見せる。
側近としての仕事の合間に、娘に付き合って空手の型や組手の練習をしているらしい。
まだまだ小さいので動きはぎこちないものの、その中で一生懸命に努力しており、その姿が実に愛らしいとのこと。
特に組手では、体格差から必死に拳を届かせようと頑張る娘をゆっくりと眺めることができ、ぽすっ……と道着を撫でる程度の打撃でも、一撃ノックアウトしてしまう程の威力に感じるそうだ。
娘からは、「もうっ、ちゃんとやって!」と頬を膨らませて怒られるのだが。
それもまた素晴らしく可愛いらしい。
「これ。この写真は、娘のピアノの発表会で撮ったやつでな。あん時はもう、涙で前が見えなくなるくらい泣いたわ……」
ライオネル親分が取り出した手帳に挟まれていたのは、白いドレスで着飾った幼女がピアノに向かう様子を写した写真だ。
とても活き活きした表情で演奏しているのが一目で分かり、心底ピアノを楽しんでいるのだと伝わってくる。
「魔王の方はどう?最近、なんかあった?」
「ああ。この前、"ミア"と一緒にゲームしてたんだけどな?俺が優勢だったんだが、何を思ったのかミアが急に"パパ大好き!"って頬にキスしてくれたんだ」
「ほう」
「それで?」
「気付いたら負けてた」
「そりゃ仕方ねぇな」
頬に柔らかい感触が押し付けられた瞬間、魔王様の記憶は一時的に途絶えたらしい。
そして再び我に返った時には、魔王様の使用キャラクターが地面に伏しており、ミアちゃんはお膝の上で喜びの舞を踊っていたそうだ。
この歳で色仕掛けを覚えているとは、なんと末恐ろしい幼女だろうか。
さすが魔王様の娘なだけある。
「この前も、またジーニアが暴走して巻き込まれる羽目になったんだが……。ミアがな、"パパ頑張れー!"って。俺はあの時、確かに思ったね。娘のためなら何だって出来ると」
「ほんそれ」
「娘からの応援は、何物にも代え難い素晴らしいものだよな」
ボスとライオネル親分が重々しく頷いた。
この地球上で最も莫大な原動力と成りうるのが、娘の声援というものなのだ。
「ミアちゃん、まだ"パパのお嫁さんになる!"って言ってるの?」
「ああ……。嬉しいんだけどな。いつ現実的な恋愛を覚えてしまうのかと、恐怖してる」
何事も恐れない天下の魔王様が、乾いた笑みを浮かべて震えている。
親バカにとって最も恐ろしいのは、娘が自分に興味を無くすことである。
それだけは絶対に避けなければならない。
三人はそれぞれの娘が反抗期に突入した際の想像をし、青い顔で苦いコーヒーを一口、口に含んだ。
心なしかカップを持つ手が震えている。
「……いやぁ、娘って素晴らしいですよね」
己の邪念を振り払うようにして、ボスはそう口にした。
魔王様とライオネル親分から無言ながら力強い頷きが返ってくる。
「───くふふ♡ならば、妾とも子作りしようではないか!」
「「「 !? 」」」
突如として乱入してきた湿り気を含んだ声に、三人から思わず驚愕の気配が漏れ出す。
特にボスの驚き方が顕著だった。
バッ!と一斉に空だったはずの席に目を向けると、そこには当然のように一人の女性が腰掛けていた。
一体いつからそこに居たのだろう。
誰一人として、その気配を察知することが出来なかった。
熱に浮かされた色っぽい表情でボスに迫る、狐色の耳と尻尾を持つ艶然とした雰囲気の女性───九尾。
ペロリと唇を舐める仕草はとても妖艶で、火傷してしまいそうな程の熱を孕んだ妖しい瞳がボスを捉えて離さない。
ボスは本能的に逃げ出した。
「さあ、ファントムよ!妾と共に熱烈な夜を過ごそうぞ!子供は少なくとも十人以上は欲しいのぅ!」
すかさず、とんでもない事を口走りながら九尾がその後を追う。
店内は騒然としている。
親バカの集まりかと思えば、突如として欲望丸出しの第三勢力が現れたのだ。
九尾をボスの妻と勘違いしている者も居れば、痴情の縺れか……と呆れた視線を向ける者も。
中には「あんな美人から迫られるとか……!」と血涙を流す紳士も見受けられる。
「いや、子供でサッカーチーム組む気かよ……」
そんな中、魔王様の冷静なツッコミが静かにこぼれ落ちた。
────オマケ────
「………それで、ここまで逃げてきたの?」
「いやだって、アジトだと九尾は平然と追ってくるし……こういう時は、シルヴィアさんに匿ってもらうのが一番かと思いまして」
存分にくつろぎながらそう宣うボスに、青薔薇姫ことシルヴィアさんはデフォルトのジト目に僅かな呆れを滲ませる。
「いい加減、相手してあげればいいのに……。九尾はもう限界。欲求不満の権化」
「あはは……」
ボスは誤魔化すように苦笑いすることしか出来ない。
決して九尾が嫌いとか、そんなことはないのだ。
ただ、本能的に危機感を感じてしまうと言うべきか……。
性的に喰われるだけじゃなくて、魂ごと虜にされて離れられなくなってしまうのでは……?
そんな恐怖が脳裏を過ぎり、毎回こうして逃げ出してしまうのだ。
「……ん、今日の所はゆっくりしていくといい」
「あざーす!」
「ゆっくりシルヴィよ」「ゆっくりボスだぜ!」
「「ゆ っ く り し て い っ て ね !!」」
・ゲンドウポーズ………『新世紀エヴァンゲリヲン』より、碇ゲンドウのポーズ
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