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悪の秘密結社は今日も平和です!  作者: ぽんすけ
五章

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子守りは大変なのです




「ボっさん、あれ食べたい」

「へいへい。分かったから、フード引っ張んないの」



ぐえっ……と息を詰まらせつつ、苦い顔をしたボスが足早に長蛇の列の最後尾に向かっていく。



「ボっさんボっさん、見て。いっぱい種類がある……どれにしよう」

「いてて……。え〜っと、フルーツミックスとか美味しそうじゃない?」

「確かに。……あ、でも"ナツミ"、ブルーベリー苦手」

「あらま」



小さな手がボスの頭をてしてしと叩く。

ボスに肩車されながら目を輝かせているのは、ツインテールのおさげが可愛らしい小さな女の子だった。

キッチンカーの横に置かれた看板を見つめながら、顎に手を添えて名探偵ばりに思考を巡らせている。



「………決めた。ナツミはオレンジホイップにする。ボっさんは?」

「う〜ん……俺はチョコのやつにしようかな」



正面からボスの顔を覗き込んだ幼女こと、ナツミちゃん。

ツインテおさげがボスの視界の中で左右に揺れる。

「危ないでしょ」と額を小突かれると、可笑しそうに笑い声を上げてボスの頬をツンツンと弄んだ。



「……一応、ボスには懐いてるっぽいね」

「っすね〜。さすがボスっす……」



幼女と戯れるボスの後ろで、コソコソと話しているのは三号君と八咫烏(やたがらす)ちゃんだ。

残念ながらこの二人はまだ、出会って間もないナツミちゃんからは心を開かれておらず、どうしてもぶっきらぼうな接し方をされてしまう。

子供のお世話が好きな八咫烏ちゃんとしては大ショックだった。

子供に懐かれやすいと、ほんのちょっと………本当にほんのちょっとだけ自惚れていただけに、受けたダメージは三号君よりも僅かに大きい。



「………すごい。ママにも見せたい」



店員さんからクレープを受け取ったナツミちゃんが、キラキラと目を輝かせている。

要望に答え、ナツミちゃんをベンチに降ろしてからスマホでパシャリ。

自慢用の写真を撮影した。

スマホの画面には、得意げな表情でクレープを掲げるナツミちゃんの姿が。



「ボっさん、一口ちょうだい」

「聞く前にもう食べちゃってるじゃないの」



ボスが呆れ気味に、ナツミちゃんの頬に付いたクリームをナプキンで拭き取る。

勝手に一口食べて、モグモグしながらの事後報告。

随分とまた(したた)かなメンタルの持ち主だ。





………さて、念のため、ここではっきりさせておこう。

これは断じて誘拐事件などではない。

ボスがまたどこからともなく、行き場の無い幼女を拾ってきた訳でもない。

今回は正式に依頼………というか、ぶっちゃけ子守りを押し付けられたと表現するのが正しいかもしれなかった。

何を隠そうナツミちゃん、ボスのバ先で店長を務めるお方の娘さんなのだ。

今朝その店長様から連絡が入り、緊急の店長会議に出席せねばならないのだが、ナツミちゃんの預け先に困っていると。

(いわ)く、旦那は仕事に行っており、休日のため幼稚園に預けることも容易ではない。

そこで、信頼出来る知り合いに預けよう!となった結果、選出されたのがボスだったそうだ。

それで良いのか本当に。



『頼んだよんっ!』



キラッ☆とウインクで星を弾き、ボスに大切な愛娘を託した店長様。

あえてもう一度言おう、本当にそれで良いのかと。

確かにボスは、自分が秘密結社のボスであることを店長に話してはいない。

当然、通報されてしまうからだ。

しかしこの風体。

ロングコートに仮面姿といういかにも怪しい風体の男に、大切な愛娘を普通預けるだろうか。

店長に信用されている、という面では嬉しいものの、なんだか複雑な気持ちになったボス。

幸いなことにナツミちゃんは初対面にも関わらず、ボスのことはドン引かずに接してくれた。

子供の純粋さ故だろうか。

しかし、大変なのはそれからだった。



「お出かけしたい」



ナツミちゃんの要求で、ボス達は町に繰り出した。

最初に寄ったのはゲームセンターだ。

格ゲーに挑戦。



「……勝ち」

「んがっ!?」



ボス、幼女相手にまさかの五連敗。

コテンパンにボコされた。

幼女にゲームで負け、四つん這いに崩れ落ちる秘密結社のボス……威厳もへったくれも無かった。



「ボスの仇っす!」



と息巻いて挑戦した八咫烏ちゃんだったが……。



「なんでぇ!?」



ハメ技で一方的に敗退。

幼女がプレイしているとは思えないえげつない戦法で、反撃の糸口も掴めぬままフルボッコにされていた。

八咫烏ちゃん、涙目。



「真打登場!俺はそんな簡単に負けn」



案の定、三号君も負けた。

普通に。

日頃からチェリーちゃん相手に練習し、実力もプレッシャーへの精神的な耐性もあったにも関わらず、普通に負けた。

三号君は四つん這いに崩れ落ちた。

最近の子供、ゲーム上手すぎない……?

他には子供らしく公園で遊んだり、道端で見かけた野良猫を観察したりなど、四人で大いに楽しんだ。

そして小腹が空いたな……と全員が思い始めた頃、冒頭に繋がる。



「ナツミちゃん、こっちも食べてみるっすか?」

「ぬっ」



はむはむと必死に自分のクレープを食べていたナツミちゃんに、遠慮気味に自身のクレープを差し出したのは八咫烏ちゃんだ。

ボスが餌付けしているのを見て、羨ましくなったらしい。

ナツミちゃんはじっと、差し出されたバナナとチョコのクレープを見つめている。



「………ん、ありがとう」



パクッ……と小さなお口でバナナチョコクレープを齧った。

可愛い。



「三号君のそれ、何味なの……?」

「グレープシュガーホイップです」

「……美味しい?」

「微妙」



眉間に皺を寄せた険しい表情で、三号君が断言した。

ボスは興味本位で一口貰ってみる。



「……激しく同意」



微妙だったらしい。

三号君同様、眉間に皺を寄せた険しい表情でそう漏らしたボス。

なんというか………いや、やめておこう。

この味を言語化するには、まだ日本語の語彙力が追い付いていない。

とりあえず、決して「不味い」という訳ではないとだけ言っておこう。

まぁ美味しくもないのだが。

ボスは即座に自分のチョコクレープで口直しをした。

もちろん三号君にも分けてあげた。



「……ん?あっ、お前は!"ファントム"じゃないか!」



突如として、非常に聞き覚えのある声が左方向から飛んできた。

総員、素知らぬ顔で無視。

()に絡めば、確実に面倒事になると知っているからだ。

クレープ美味しいね……。

そうだね……。

と、ほんわかまったりした平和な雰囲気を醸し出す。

お願いだからこっち来んな、と心の中で祈るものの、残念ながら相手はそんな空気を読めるほど、精神的なイケメンじゃない。

奴がイケメンなのは面だけだ。



「おい、無視するんじゃない!そこの変な仮面の男!お前だ、ファントム!」

「誰が変な仮面じゃ!かっこいいでしょうが、どう見ても!」



ボス、キレたッ!!

「なんだァ?てめェ……」と隻眼の空手家を彷彿とさせる眼光を飛ばし、辺りにキラキラを撒き散らす青年を睨む。

久しぶりにキレちまったよ……。



「まさかこんな場所で会えるなんて……今日こそは決着をつけさせてもらうぞ、ファントム!」



憎きイケメン勇者───ユウキが、聖剣を掲げて堂々と宣言する。

周囲からの黄色い歓声を一身に受けたユウキの体を光が覆い、物騒な西洋服の鎧に変化。

彼の纏っていたイケメンオーラが1.5倍(当社比)になった。



「ストップ!ご覧なさい、こっちは子守り中なの!お前を相手してる暇は無いの!」



膝の上で呑気にクレープを食べ続けているナツミちゃんを、これでもかと強調する。

さすがの勇者とて、これだけ(くつろ)いでる幼女を見れば矛を収めてくれるだろう。

ところがボスの考えとは裏腹に、勇者君が止まることは無かった。



「お前っ、ついにそんな小さな女の子を人質に……!許さないぞ!」

「そう来たか」



ボスはジト目で呟いた。

以前、小雪ちゃんを連れていた時も同じような勘違いをしていた勇者君。

あの一件で少しは学んだかと思いきや、全然そんなことは無かった。

……いやむしろ、未だに「あの女の子はファントムに脅されていただけなんだ……!」とか本気で考えてそうな気がする。

ユウキならばやりかねないという、今までの負の信頼が築かれていた。



「ぬ。誰?この人」

「わしらには救えぬものじゃ。気にしないでねナツミちゃん」



引き攣った笑いを浮かべているボスに代わって、三号君がナツミちゃんの視線を遮るように身を乗り出す。

子供には悪影響でしかない。

もし勇者に影響でも受けてしまったら、親御さんにどう顔向けすれば良いのか……。

まぁ自分達がゴリゴリの悪の秘密結社な時点で、偉そうに人のことを言えた立場では無いのだが。



「君、今助けてあげるからね!……さあ、勝負だファントム!」

「受けて立とう!やっておしまい、八咫烏ちゃん!」

「了解っす!」



開幕早々、巨大竜巻。

受けて立っておきながら、流れるように八咫烏ちゃんにぶん投げた。

いやだって面倒そうだったし……いちいちまともに相手なんてしてられませんよ……と、ボス。

だがしかし。



「ふっ!今までの僕とは一味違うぞ!」



とある山に定住する鍛冶師、"(やいば)"の元で修行した成果だろう。

以前ならば竜巻に呑まれて動きを封じられ、抜け出すまでの間にボス達が居なくなっていた……なんて展開も有り得た。

だが今回は、竜巻に呑まれた直後に内部から眩い閃光が溢れ出し、一瞬にして打ち砕かれてしまった。

ちぎれた暴風が四方八方に散る。



「はああっ!」

「くっ!」



一気に踏み込んだユウキの聖剣と、飛び出した八咫烏ちゃんの黒刀が衝突。

甲高い金属音と共に激しい火花を散らす。

投げ出されたクレープはボスがキャッチした。

ギャリンッ!!と耳障りな音がして、鍔迫り合いからお互いに弾かれる。

小規模の竜巻がユウキの足止めをしている隙に、八咫烏ちゃんが漆黒の翼を展開。

素早い空中戦でユウキを追い詰める。



「おお……八咫烏さん、すごい」

「だしょ〜?」



ボスは自慢げだ。

胸を張って八咫烏ちゃんの活躍を見せびらかすボスの姿を、ナツミちゃんはじっと上目遣いで見つめている。

だが、ユウキもただやられっぱなし、という訳ではなかった。

隙を狙っていたのだ。

どうやら攻撃の合間にチャンスを見つけたようで、見事に刀の一撃を弾いて八咫烏ちゃんを捉えた。



「くらえっ、勇者の光を!」



聖剣が眩い光を放ち、周囲を染め上げる。

口上はともかく、秘められた力は本物だ。

力いっぱいに振り下ろされた聖剣の一撃を刀で受け止めたものの、あえなく押し返され八咫烏ちゃんは激しい後退を強いられた。



「きゃあっ!?」



八咫烏ちゃんが勢いよく後退する。

翼を広げて抵抗しているようだが、あまりに聖剣の光撃が凄まじく簡単には止まらないようだ。

ボスは慌ててナツミちゃんをベンチに降ろし、八咫烏ちゃんのフォローに向かう。

クレープを両手に持っているので、その逞しい胸板(笑)で八咫烏ちゃんを支える形だ。

大の字に立って勇者の光に対抗する姿は、ちょっと……いや、だいぶシュールだった。



「ふぅ……」



それでも一応、何とか耐え切ることに成功したらしい。

光が輝かしい粒子となって消え失せ、場には攻撃の際に生じた土埃が舞っている。



「大丈夫?」

「っす。助かったっす、ボス」



脱力した状態でボスの胸に寄りかかり、八咫烏ちゃんは安堵のため息を漏らす。

一時の緊張感が解け、力が抜けてしまったようだ。

そんな二人の後ろ姿を、これまた名探偵ばりの眼差しで見つめるナツミちゃん。

隣で疑問符を浮かべる三号君を置き去りに、とんでもない推理を口にした。




「………ボっさんと八咫烏さん、もしかして付き合ってる?」

「「「 !!? 」」」




ボスと八咫烏ちゃんがズッコケた。

なんか「やるな……」みたいな表情をしていたユウキもキョトンと目を丸くし、唯一、三号君のみが妙に慣れた様子でクレープを齧っている。



「君たち、付き合っていたのか!……なるほど、それならその距離感も頷けるな……!」

「ちちち違うっすよ!?ボスとは別に、そんな関係じゃ……!」



何故か納得したように頷くユウキ君。

咄嗟にボスから離れた八咫烏ちゃんが慌てて弁明をする。

頬を淡く染めてチラチラ、とボスの方に意味深な視線を送っているが、果たしてその真意とは……。



「実際、付き合ってるんすか?」

「いや、さすがに部下には手ぇ出さないって……」



これはボスと三号君のヒソヒソ話だ。

女性であれば誰でもウェルカム。

敵味方に関係なく求められれば応じ、全力で甘えさせていただく。

そんな自称紳士のボスであるが、さすがに年下であり部下でもある八咫烏ちゃんに、欲望全開の(スーパー)紳士モードを向けたことは一度たりとて無い。

いや普通に、セクハラだし……。

そんな男が居たら普通に逮捕されるべきだと思う。

いくらボスだって、欲望を解放する相手は選ぶのだ。



「ふ〜ん?」



しかし、ナツミちゃんはどこか納得していない様子だった。



「だって、お母さん言ってた」



お母さん……つまりバ先の店長様が何か吹き込んだらしい。

どうせ店長のことだから、男女のお付き合いを面白おかしく説明したのだろう。

ボスは呆れ気味な表情を脳内の店長に向けた。

ところが、続くナツミちゃんの言葉でボスの表情は一変した。



「ボっさんは、女の人なら誰でもいいと思ってるって。女のケツを追いかけることに特化した"すけこまし"なんだ〜……って」

「おいいいいっ!!店長ぉおお!!あんた自分の娘に何吹き込んでんじゃあああ!!!」



ボス、魂の叫び。

三号君と「最近の子はマセてるわねぇ」なんて話していたが、全然それどころではなかった。

もちろん断じて己の名誉のために、ボスはその(いわ)れもない噂を否定する。

「いや違うよ誤解だよ?そんな事ないよ?」と。

しかし悲しきかな。

今までの言動がここで災いした。

思い返せば、シャイニング・ウィザードの件。

九尾の件。

その他にも掘れば掘るほど前科が山ほど出てくる。



「………」



口を引き結んだボスが、冷や汗をダラダラ流しながら視線を逸らす。

八咫烏ちゃんと三号君の白い目に耐えきれなくなったようだ。

だがボスはこれくらいじゃ挫けない。

なんとか挽回を試みる。



「ナツミちゃん、誰でも良い訳がないでしょう。男女の付き合いというものは、実に尊く素晴らしいものなのだよ?」



実に綺麗で胡散臭い笑顔である。

そこには、絶対にナツミちゃんの認識を正してみせる……!という使命感を感じた。



「じゃあ、おっぱいが大きいのがいいの?」

「うん、ちょっとあっちで"オ・ハ・ナ・シ"しよっか」



子供になんつーこと教えとんじゃ……。

ボスの笑顔は崩壊寸前だった。

一体何が「じゃあ」なのか教えて欲しい。

そして八咫烏ちゃんの表情が死んだ。

自身の胸に手を当てて何やら嘆いている様子だが、ボスは怖くてそちらを向けなかった。



「おいファントム、最低だぞ!もっと真摯に女性に向き合うべきじゃないのか!?」

「やかましいわっ!」



おまけに()()勇者にまで、紛うことなき正論を叩き付けられるくらいだ。

ボスは涙目で叫ぶ。

このカオスな状況は、ヤケクソ気味になったボスがユウキに怒りの矛先を向け、ひと暴れしたことで一時的に落ち着いたそうだ。






─────オマケ────




翌日のバイトにて、ボスと店長の会話だ。



「なんか面白い……じゃなくて、迷惑かけちゃったみたいね。メンゴ」

「軽いっ。て言うかマジで、娘さんにどんな教育してんすか店長……」



悪びれもせずに「てへぺろ☆」で済ませようとする店長に、ボスは明確な殺意を覚えたそうだ。






珍しくボスが被害者側の回でした。



・「なんだァ?てめェ……」………『刃牙道』より、愚地独歩のセリフ

・わしらには救えぬものじゃ………『ハリーポッター』シリーズより、ダンブルドアのセリフ



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

感想等々、何かしらのリアクションをいただけると、作者は大変喜びます。狂喜乱舞です。ぜひともお願いいたします!( ^ω^ )









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