体感せよ、その輝きを──!
今日はボスが自ら、世界征服のために町へとやって来た。
お買い物ではない。
繰り返すが、世界征服のためである。
バカンスを挟んだことで気持ちをリフレッシュし、今日も今日とてボスは絶好調。
エックス戦闘員の三人を連れて、堂々と町中を闊歩する。
「……それ、本当に大丈夫なんですかね………」
「まぁ使ってみないことには何とも……。ただちょっと怖いよね」
「ですね……。さすがに爆破オチだけは避けたい」
三人そろって僅かに顔色が優れない、ボスと一号君二号君。
それはエックス戦闘員達が力を合わせて担いでいる物体が原因だった。
一番後ろの三号君がひょっこりと顔を覗かせる。
「ま、まぁ、さすがに今回は大丈夫なんじゃないですか?火薬とか使わないみたいですし……」
三号君の視線がチラリと担いでいる物体に向く。
それは、黒塗りの大砲だった。
一見すると海賊船にでも搭載されていそうな、シンプルなデザインの大砲だ。
もちろん人が三人集まれば担いで歩けるくらいの重さなので、モノホンの大砲とは似ても似つかないアイテムであることは容易に想像出来る。
「そうだね……っと。ここら辺で良いかな?一回降ろしちゃおうか」
「うっす」
到着したのは、いつもお世話になっている例の公園だった。
一昔前の工事現場を彷彿とさせる、笛と旗を持ったボスの指示で、エックス戦闘員達は慎重に大砲をその場に降ろす。
この時、忘れずにアンカーや滑り止めでその場に固定することが大切だ。
これを忘れると、後で大変なことになる………開発者のソアレがそう言っていた。
「え〜……そんじゃまずは、背面にある弾倉の蓋を開けまして……」
「蓋、蓋………あ、これかな?」
「そうそれ。で、次に───」
ボスが説明書片手に指示を出し、全員であれやこれや試行錯誤しながら何とか準備を整えていく。
性能の関係上、おいそれとアジト内で試し撃ちが出来なかったため、実際に起動させるのはこれが初めてなのだ。
なので、スタートラインに立つまでちょっと時間がかかった。
そしていざ準備が整い、効力を見せてもらおうかと四人が心をワクワクと弾ませていた、その時。
何者かが公園に入ってきた。
いやもちろん"公園"なので、市民の皆様が遊びに来たり、ショートカットとして使うことも頻繁に有り得るので、誰かが公園に来たくらいでいちいちボス達も反応しない。
しかし今回ボスが気を引かれたのは、その何者かが明らかにこちらを目指して近付いてきたからだ。
その足取りには迷いが無い。
間違いなく、ボスの元を目指している。
遅れてエックス戦闘員達もそれに気が付いた。
「そのトレードマーク………秘密結社Xの者だな?」
向こうから声をかけてきた。
青年だ。
洒落たクリーム色のロングコートを羽織っており、某勇者君とは違い正統派な爽やかイケメン風味を感じさせる。
意味もなくキラキラを振り撒いたりもしていない。
こういうのでいいんだよ、こういうので……を体現したかのような、嫌悪感の欠けらも無いタイプのイケメンだ。
立ち振る舞いから見るに、彼もまたヒーローなのだろうか。
ならばと、ボスも自信満々に胸を張って答える。
「いかにも!俺は秘密結社Xのボス、ファントム!今日はこいつを使って、世界征服の第一歩を踏み出すのだ!」
大仰な仕草で、ボスは非常に香しいポーズをキメる。
まるで背後の大砲が秘密兵器かのような紹介だが、実際に使ってみるのはこれが初めてである。
「───そうはさせないさ」
「にゃにぃ〜……?」
青年が口角を僅かに上げて、こちらもまた自信満々な表情でそう断言した。
ロングコートの裾をバッ!と翻し、背後に回した手を顔の前で構え直す。
彼の手にはキラキラと輝く謎のクリスタルが握られていた。
「変身!」
左腕の装置にクリスタルを挿入。
すると、装置から砕けたクリスタルの破片が四方八方に飛び散り、青年の周囲で固まって大きな塊を形成した。
数度の圧縮を繰り返し、ついにクリスタルの塊が内部から粉砕される。
「───僕は"アニマ"。ヒーロー仮面、アニマだ」
豪華な変身エフェクトが舞い散る中、青年は一歩前に出る。
身に纏った強化スーツは全身にクリスタルの意匠があしらわれており、色彩は簡素ながら見た目のインパクトが凄まじい。
ヒーロー仮面。
確かヒーロー協会に所属はせず、個人で活動するボランティアみたいなヒーローと、何かの雑誌で取り上げられていた……気がする。
たぶん。
"アニマ"という名前に聞き覚えは無かったものの、ボスの記憶が確かならば雑誌のインタビューをされるくらいには、活躍しているという事になる。
かなりの強敵だろう。
……しかしこの際、そんな事はどうでも良いのだ。
「仮面ラ〇ダーだ!仮面ラ〇ダー!!」
ボス、大盛り上がりである。
………否、ボスだけではない。
エックス戦闘員達もそろって、目の前に立ち塞がったヒーローに歓声を上げる。
無論、全員が某特撮番組に長年お世話になっているヘビーリスナーだ。
「ちょ、もっかい!もっかい名乗りとポーズやってもらってもいいすか!」
「え?ええと……」
「おなしゃす!」
「しゃす!」
ヒーロー仮面・アニマ君、ヴィランからの予想外の要求に困惑を隠せない。
しかし別に減るもんでもないので、困惑しつつも律儀にもう一度名乗ってくれた。
もちろんポーズ有りで。
立て続けにシャッター音が鳴り響く。
「あざっす!……あ、すいません握手してもらっても……」
コミケの写真撮影スペースだろうか。
様々な角度から激写したかと思えば、最後には握手を要求しそそくさと距離を取るボス。
きちんとマナーは守るタイプのオタクだ。
しっかりとエックス戦闘員も握手をしてもらい、持ち場に戻るとカメラをしまって服装を正す。
「え〜、こほんっ……。ふははははっ!貴様に我ら秘密結社Xが止められるかな?行けぃ、エックス戦闘員よ!」
「「「ラジャー!」」」
テンションの緩急がすんごい。
今までただの一般通過特撮オタクだったのに、咳払い一つでこの変わりようである。
しかもいつもよりヴィラン要素マシマシの邪悪ボイスだ。
「………さ、さあ、始めようか」
アニマも決めゼリフで何とか気持ちを立て直し、飛びかかってきたエックス戦闘員を迎え撃つ。
「ふっ!はっ!」
一号君の拳を受け流しつつ、二号君の拳を避けてカウンターの回し蹴り。
変な体勢でつんのめった二号君の横をすり抜け、アニマは華麗な裏回し蹴りを三号君の土手っ腹に叩き込んだ。
「ぐえぇっ!」
三号君、ワイヤーアクションばりの派手な演技で蹴り飛ばされた。
油断せず右腕を顔の横で構えると同時に、クリスタルの防御壁が展開。
二号君の蹴りを易々と防いだ。
今度はアニマの左拳にクリスタルが集束し、ガントレットを彷彿とさせる厳つい拳で二号君を殴り飛ばした。
直後、アニマの眼前で何かが瞬く。
────ゴオォオオオッ!!
押し寄せた業火が一瞬でアニマを呑み込んだ。
炎海が揺蕩い、細かな火の粉を散らす。
我らがボスは銃のように構えた指先を向けたまま、高らかに笑い声を上げた。
「ふっふっふっ!さすがのヒーロー仮面アニマとて、この業火に焼かれれば無傷とはいくまい!」
あからさまなフラグを塗り重ね、ボス、渾身のガッツポーズ。
だがしかし、ある意味で予想通りと言うべきか。
炎海の中で何かが煌めき、一気に炎の波を振り払った。
そこには無傷のアニマの姿が。
どうやら全身をクリスタルの防壁で覆い、灼熱の炎を一切寄せ付けなかったらしい。
「んにゃにぃ〜!?」
ボスはガッツポーズを崩して後ずさり、動揺を露わにする。
「次はこっちの番だ」
アニマが変身に使った腕の装置を一度タップすると、特定の発光エフェクトを見せ、野球バットサイズのクリスタルを生成した。
それが砕け、中から出現したのは弓と刀が一体化したような装備だ。
弓の胴を握り、アニマは駆ける。
「ええい、小癪な!」
ボス、炎弾を連射。
お手本のようなグミ撃ちだ。
振り下ろし、切り払い、振り上げ。
アニマは迫り来る炎弾を次々と一刀両断する。
「はあっ!」
一号君の攻撃をクリスタルでガードし、そのまま盾を押し付けて弾き飛ばした。
体を逸らして炎弾を回避。
後ろに反った体勢のまま一回転して全方位の炎弾を切り伏せ、二号君が振り下ろしたピコピコハンマーを弓で受け止める。
ピコピコハンマーと弓が触れた瞬間、爆発が巻き起こった。
以前、ヒーロー協会で相対した液体少女393号との戦いでも活躍した、触れた途端に爆発が起こる宴会用(ソアレ曰く)のピコピコハンマーだ。
爆炎がもうもうと立ち込める中、真上から飛び出したアニマは弦を引き絞っていた。
ギュインギュインッ……!とエネルギーがチャージされ、クリスタルの輝きを帯びた矢が放たれた。
「ぐはぁ!?」
弓矢を背中に受け、二号君は地面に叩き付けられた。
クロスした斬撃で炎弾を切り払い、アニマが着地。
三号君が向かってくるのを確認しつつ、変身アイテムたる腕輪からクリスタルを抜き、弓刀の胴にある窪みに差し込んだ。
『クリスタル!』
音声と共にクリスタルが発光。
一度タップすると強烈なエフェクトが発生し、弦を引き絞ることでその勢いはさらに増した。
「はあああっ……!」
解き放たれた輝かしい矢は、一直線に三号君に命中した。
ド派手なエフェクトが散り、三号は地面に倒れ伏した。
負けたとは思えない、むしろ清々しい笑みを浮かべて。
まるで本望だと言わんばかりに、とても満足した横顔であった。
「おにょれぇ……!!」
一方ボスはロングコートの裾を翻して、仮面の奥で歯軋りする。
いかにも追い詰められた悪役っぽい。
「お前たちの企みもこれで終わりだ!」
アニマは弓刀を投げ捨て、腕輪を三回タップ。
すると特殊な発光エフェクトが起こり、ズザッ……!と構えた後ろ足に莫大なエネルギーが集束していく。
ボスも負けじと、向かい合わせた手のひらの間に最大級の炎弾を作り出す。
『クリスタル・フィニッシュ!!』
アニマが空高く飛び上がった。
滑らかな動作でキックのポーズを取り、集束させた莫大なエネルギーを迸らせる。
「はああっ!!」
それは、いとも簡単にボスの炎弾を貫いた。
業火の土手っ腹に風穴を空け、そのままの威力でボスの胸に命中。
あまりの勢いに接地してからもしばらく止まれず、タイヤが擦れるような甲高い音を響かせて、かなりの距離を進んだ。
地面をゴリゴリと削りつつも何とか停止したアニマ。
その背後で、ボスは豪華なエフェクトに巻き込まれて爆散した。
「ぐはああああっ……!!」
遅れて、アニマは決めポーズ。
戦いを締め括るにふさわしい一枚絵が完成した。
パラパラと巻き上げられた土埃が舞い、雄々しく揺蕩う爆炎がアニマの勇姿を照らす。
無事、悪は成敗された────かと思いきや。
爆炎の中でゆらりと動く影があった。
「ふ、ふふっ………やるではないか……!!」
「なにっ!?」
アニマの声色から、仮面の奥で大いに驚愕しているのがよく分かる。
ボロボロだ。
ボロボロながら、しかしボスはしっかりとした足取りで立ち上がり、香しいポーズで不敵な笑みを浮かべる。
「こ、今回のところは引き下がろう……。だがッ──!!」
血を滲ませつつ、ボスは悪どい表情で拳を握り締める。
「我々秘密結社Xが、正義に屈することは絶対にない!また必ず、この地を征服しに舞い戻るだろう……。ゆめゆめ、努力を怠らないことだな!はーーっはっはっはっ!!」
「くぅ……!」
悔しそうなアニマの表情を背に、ボロボロなボスはエックス戦闘員を連れて足早に退却した。
────オマケ────
「どうよ!ラ〇ダーキックまで引き出してやりましたよ!」
「めっっちゃ悪役っぽかったです!」
「さすボス!」
「名誉怪人っすよあんなん!」
アジトに戻ったボス達一行は、ボロボロな状態でありながら堂々と胸を張って、今日の戦果を讃え合っていた。
もちろんボスだけではない。
実はさりげなく撮影していた写真を見れば、エックス戦闘員達の勇姿もまた、名誉怪人にふさわしい撮れ高となっていた。
……とは言えやはり、特撮ファンとしてラ〇ダーキックで倒されるのは最上級の名誉であろう。
それを体感したボスに賞賛が集まるのは当然だ。
もしかしたら過去一で盛り上がっているかもしれない。
───だがしかし、そろそろ現実に戻って頂かなければ。
「………」
しばらくして、ボスとエックス戦闘員達は正座でダラダラと冷や汗を流していた。
そんな彼らに氷点下を下回るであろう、絶対零度の視線がじーーっと注がれる。
デフォルトのジト目がさらに眇められて、まともに直視することすら難しい。
「……ボスのお考えにとやかく言うつもりはありませんが……」
怖いくらいの冷気を帯びた声。
ボスがビクリと肩を震わせる。
「そのボロボロになったお洋服を洗濯し………補修するのは、誰の仕事だと思っているのですか?」
「うす、すんませんっした」
ニコリと笑みで圧をかける、激おこなイリスさんだった。
今日も秘密結社Xは……というか主に我らがボスは、とことん平和ボケしてますね……..。
・仮面ライダー………『仮面ライダーシリーズ』より
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