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悪の秘密結社は今日も平和です!  作者: ぽんすけ
四章

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大物釣れたと思ったんだけどなぁ……




「───で、ナンパが失敗したと……」



事のあらましを一号君と二号君から聞いたボス。

思わず苦笑いを浮かべた。



覆面(それ)取ればいいのに……」

「いやいやボス。ただでさえ僕達、影薄いんですから。見た目的なアイデンティティ失ったら食ってけませんよ」

「そうですよ。覆面取ったところで平凡フェイスな僕らじゃ、どの道モテませんし」

「そ、そんなに卑屈にならなくても……」



物寂しい黄昏れた表情で、並んで腰掛けた一号君と二号君。

その手には釣竿が握られており、先程から魚をおびき寄せるための手首のスナップが静かに繰り返されていた。

仙人かな?

その背中は、もはやあらゆる欲が枯れ果ててしまったかのように、陰りを帯びて丸まっている。

アイデンティティと引き換えに失った物は、思いのほか大きかったらしい。



「……そ、それにしても、今日はあんまり釣れないねぇ!」



淀んだ空気を変えるために、ボスがわざとらしく竿を引いて釣り糸を手繰り寄せる。

海面から上がった針には餌が付きっぱなしだった。

波に揉まれて若干形が崩れているものの、魚に齧られたような痕は見受けられない。

人が沢山溢れているビーチの近くだから、というのも原因の一つだろうが、それにしてもアタリが一度も無いのは少し違和感を感じる。



「きっと僕らの邪念を感じ取ったんですよ……。ほら、魚って意外とそういうの敏感に察知しますし……」

「ふふっ、まだ未練が捨てきれてなかったみたいです。もういっそのこと、出家でもしてみますかねぇ……」



やばい、二人の表情が徐々に悟りを開き始めた。

来たばかりの時はあんなにも盛り上がっていたのに、この一時間程度で一体何があればここまで精神をすり減らせるのだろう。

ボスは内心で頭を抱えた。



「………あっ、二号君引いてるよ!」

「え?」



危うく悟りの世界に足を踏み入れかけていた二号君がハッと我に返る。

見ると、確かに二号君が持つ釣竿の先端が少し曲がっていた。

ここに来て初めてのアタリだ。

失われていた二人の生気がかろうじて戻る。

ところが……。



「「「………」」」



二号君が釣り上げたのは魚ではなかった。

海水を滴らせるそれは、薄汚れたビニール袋。

ど真ん中に大手コンビニチェーンのロゴが入っている。

気まずい沈黙が三人の間に流れる。



「ふふ………僕達はまさに、このビニール袋みたいなもんですよね……。覆面(ロゴ)というアイデンティティが無ければ、誰も見分けることが出来ない……」



二号君がまたダークサイドに堕ちてしまった。

決してそんな事はない、なんてありふれた励ましじゃ、もう立ち直れないくらい表情が影を帯びている。

これはやばい……。

引き攣った表情でそんなことを考えていたボスの釣竿が、不意にピクピクッと動きを見せた。

どうせまた漂流物に違いない。

今度は長靴か?

ヤカンか?

それとも流木か?

おそらくシンクロしたであろう思考で、三人の視線が竿の先端に集中する。

ところがどっこい。

三人の予想とは裏腹に、いきなり竿の先端がありえない勢いで曲がり、凄まじい速度でギュルルルルッ!!と釣り糸が引っ張られていく。



────大物ッ!?



瞬時にその可能性を認識したボスは、歴戦の釣り人もかくやの動きですぐさま釣竿を持ち上げ、力いっぱいにリールを回す。



「おっっっも!?つ、ついにキタコレ!絶対大物だぞ!」

「「マジっすか!」」



一号君と二号君も興奮した様子で、奮闘するボスの周りに集まる。

重い。

とてつもなく重いのだ。

成人男性ですら気を抜けば負けてしまいそうな程の馬鹿力が、絶え間なく釣竿を奪おうと縦横無尽に動き回る。

これはとんでもなく大物の気配……!



「うおっ!?」



あまりの引きの強さに、思わずボスが数歩前に進んだ。

竿は限界まで曲がり、ミシミシと悲鳴を上げて今にも折れてしまいそうである。



「ボス、頑張ってください!」

「後ろは僕達が支えるんで!」

「おうよ!」



ボスの背中を一号君が。

一号君の背中を二号君が引っ張り、三人の力を合わせて必死に海の底の大物に対抗する。



「これ絶対やばいよね!」

「やばいっす!尋常じゃないですよ、この重さ!」

「うわぁ、めっちゃワクワクしますね!」



協力プレイによって生まれた僅かな余裕で、三人は嬉々とした声色で言葉を交わす。

かつてないほどの竿の軋みと、糸が擦れる音が三人の耳を刺激する。

かなりリールを回した。

そろそろ魚影が見えてもおかしくないだろう。

興奮が抑えきれず、三人は少しずつ位置をずらして海面を覗き見る。

そこには……。



「………これ、やばくね?」

「………やばいっすね……」



三人は言葉を失った。

頬を引き攣らせて冷や汗を流すボスの後ろで、一号君が青い顔で乾いた笑みを浮かべる。

二号君に関しては、目の前の光景に唖然として開いた口が塞がらない様子だ。

三人が釣りをしている防波堤は、直線距離が約五十メートル。

そこから漁港に繋がり、道が少し広くなる。

眼下の魚影は防波堤と比較すると、目測でその七割ほどの大きさがあった。

もちろん角度の問題で、実際のサイズは多少違うかもしれない。

しかしどちらにしろ、尋常じゃないレベルでバカでかい事に変わりはなかった。



「あっ!?」



直後、あまりの怪力に耐えきれなかった釣り糸がブツッ!と切れてしまった。

反動で尻もちをついた三人から別々に悲鳴が上がる。

己の尻を擦りながら体を起こそうと手をついたボスだが、ゆっくりと地面の占有する面積を広げつつある巨大な影を前に、ピタリと動きを止めた。

そ〜っと、恐る恐る視線を上げてみる。



「「「…………」」」



そこで三人が目にしたものとは────。





「「「いやぁあああああっ!!?」」」





ボス達の情けない叫び声が、広大な大海原に響き渡った。




一体ボス達は何を釣ってしまったのでしょう……。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

感想等々、何かしらのリアクションをいただけると、作者は大変喜びます。狂喜乱舞です。ぜひともお願いいたします!( ^ω^ )









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