ナンパは程々に
容赦なく肌を刺す太陽光を吸収し、触れていれば火傷してしまいそうな程の熱気を放つ砂浜。
大気が揺らぎ、日向に居れば数分で茹だるであろうビーチではあちこちに人がまみれ、安らぎを求め冷たい海に飛び込んでいく。
しかしそんな中、一号君と二号君は必死の思いで熱い砂浜を駆け回っていた。
目的はただ一つ。
ナンパである。
「ええと……すみません、連れが待ってるので………」
ところがどっこい。
彼らの情熱とは裏腹に、声をかけても返ってくるのはそんな言葉ばかりだった。
一体何度目の失敗だろう。
焼けるような熱さにも関わらず、一号君と二号君は四つん這いで砂浜に崩れ落ちる。
「己の平凡な容姿が憎いっ!」
まるで己の運命を恨むがごとく、迫真の声色で一号君が吐き捨てた。
やったぁ海だ!
水着だ!
今日こそ彼女を作るぞ!
と息巻いて始めたナンパ祭り。
ひたすらに手当たり次第、気になった女の子達に声をかけ続けた。
しかし現実はそう甘くなかった。
下手に慣れない軽薄な雰囲気を演じたのが悪手だったのだろう。
返ってくるのは、引き気味なリアクションかガチで興味が無いタイプのそれ。
まともに相手をしてくれる女の子は一人たりとて居なかった。
「くそぅ……!この世に……この世に救いは無いのか……!?」
滂沱の涙を流す二号君。
何故だ。
一体何がいけないと言うのか。
海は水着を着ることによって身体的な解放感だけでなく、気分の高揚でいつもよりもその場の雰囲気に流されやすいと聞く。
そのような効果(眉唾もの)を含めたとしても、自分達に女の子を口説き落とせるだけの魅力が無いとは。
心に深く剣を突き立てられた気分だ。
所詮はモブ。
一夜の過ちすら許されないのだろうか。
この世の不条理さを嘆いていた二人だが、そこでふと、一号君が何かに気が付いたのか、バッ!と顔を上げた。
「どした?」
「……いや、気のせいかもしんないんだけどさ。チャラ男テンションの他に、モテない理由分かったかも」
「なんじゃって!?」
二号君もすぐさま食いついた。
そう、それだ!
それさえ分かれば、改善の余地を導き出しナンパの成功率を上げることも可能だろう。
期待に満ちた二号君の視線を受け、一号君は至極真面目な表情で導き出した答えを共有した。
「───覆面、取ればいいんじゃね?」
「………確かに」
ああ、なんという事だろうか。
モテない理由はこんなにも身近にあったのだ。
そりゃあ覆面付けたままナンパしていたら、引かれるのも当然である。
ビーチで覆面を装着してるのは変態かプロレスラーくらいだ。
これを取りさえすれば、少なくとも今までのように即拒絶されることも無くなるだろう。
……だがそれとは引き換えに別の問題も発生する。
「そう、覆面が原因なことは間違いない。だけど問題は、覆面を外すと俺たちのアイデンティティが消え失せるってこと」
「なるほどそれは大問題だな」
もちろん変質者としてのアイデンティティではない。
秘密結社Xの戦闘員としてのアイデンティティである。
それを失うということは、すなわち登場人物としての華を捨てるということにふさわしい。
つまり、「モブ戦闘員の素顔なんて誰が興味あんの?」という話だ。
こういうのは隠しておくに限る。
だからこそ、それを捨ててまでナンパでの成功率を取るか、キャラクターとしてのアイデンティティを守護するか。
とてつもなくメタい観点で頭を悩ませる一号君と二号君。
「………守護ろう」
「うん、そうしよう」
結局、登場人物としてのアイデンティティを守護る方を選んだらしい。
すっかり燃え果てた二人は、そのままとぼとぼした足取りで荷物番をするソアレ達の元に戻って行った。
「ね〜お姉さん、一緒に海の家とか行こうよ〜!色々奢っちゃうよ?」
「残念ながら興味無いね。人を口説くつもりなら、もうちょっとオリジナリティのあるアイディアでも持ってきたまえ」
ネックレスを付けたチャラ男の誘いを、ソアレは目を瞑ったまま一刀両断する。
本当に心底興味を惹かれなかったようで、その声色はいつも以上に冷めきっていた。
なおもチャラ男の諦めは悪く、仲間と結託して何とかソアレの気を引こうと色々と話しかけてくる。
いい加減にそのイヤらしい視線が鬱陶しくなったのだろう。
足を組んだ状態で何かのスイッチをポチッとな。
すると、荷物の中から複数のアームが伸びてチャラ男達を掴み、海の方へと雑に放り投げてしまった。
「にゃあ〜……。キモイ連中だったにゃ」
「同意だね。どうしてあれでモテると思ってるのか、理解に苦しむよ」
尻尾や耳の毛を逆立てたミケが嫌悪感満載の顔でそう呟いた。
ソアレも概ね同意見だった。
こちらの意思は無視して無理やりにでも連れていこうとするその態度は、彼女達の神経を逆撫でし続けたのだ。
むしろ悪の秘密結社の幹部相手に、ここまで愚行を重ねられたチャラ男とその仲間達を褒め讃えるべきだろう。
向こうではずぶ濡れになったチャラ男達が海から上がってきており、髪をかき上げながら何かを話している。
そこにチェリーちゃんがやって来た。
声は聞こえないものの何かを話しているらしく、保護者たる三号君が慌てて合流した頃には、半数がチェリーちゃんの前に跪いていた。
彼女のメスガキチックな表情から見るに、「ざぁこ♡ざぁこ♡」されて精神的に屈服してしまったのだろう。
「ふんっ、良い気味にゃ」
ミケが吐き捨てるようにそう言った。
「ボス様、見てください!」
「おお。凄いね、砂のお城かぁ」
せっせと砂を集めて何かを作っていた小雪ちゃんが、ついに完成したその物体を渾身のドヤ顔でボスに見せる。
砂のお城だ。
稚拙な完成度ではあるが、最初から最後まで小雪ちゃんが全て担当した正真正銘の作品であり、ボスには褒める以外のコマンドは存在しなかった。
手足を砂まみれにして大はしゃぎな様子の小雪ちゃん。
実に微笑ましい気持ちがボスの心を温かく満たす。
KMT(小雪ちゃんマジ天使)。
「───おや、素敵なお城が完成しましたね」
子供用のバケツを持ったイリスが、パシャパシャと波打ち際の海水を蹴りながらやって来た。
先程まで、波打ち際で押し寄せては戻っていく波をひたすらに足に受け、クールフェイスながら少しワクワクした表情を浮かべていたイリスさんだ。
バケツの中には綺麗な貝殻などが敷き詰められている。
「せっかくですし、飾り付けもしてみては?」
「これ、使っていいんですか!?」
「もちろん。好きなだけ使ってください」
「やったぁ!ありがとうございますぅ!」
渡されたバケツの中身を小雪ちゃんはキラキラ輝いた瞳で見つめる。
一つ一つ貝殻を吟味して、どれをどこに飾るべきか真剣に考えているようだ。
しばらく悩んだ後、小雪ちゃんはまず小さな紫の貝殻を選び、砂のお城の飾り付けを始めた。
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