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悪の秘密結社は今日も平和です!  作者: ぽんすけ
四章

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ルーシィの本性




ダンスレッスンを終えたルーシィは更衣室にて、ふかふかのタオルで汗を拭いながら、スマホの画面を眺めてニヨニヨと笑みを浮かべていた。

時折「ふへへ……♡」とだらしない笑い声を漏らしており、整った顔面に反して何やら犯罪臭を漂わせる絶妙な背中だった。

そんなルーシィの様子を見かねた金髪ギャル───シャルルが、遠慮気味に声をかける。



「えっと……ルーシィ、大丈夫そ?なんか気持ちわる───じゃなくて、癖の強い笑い方してるけど……」



思わず本音が垣間見えたシャルルちゃん。

しかしルーシィ本人には自覚が無いようで、こてんと可愛らしく首を傾げている。

あたかも「どしたのシャルル……」とでも言いたげな表情だ。

たぶんもう末期なのだろう。

シャルルから諦めの乾いた笑みが零れる。



「……それが例の"ファントムさん"?」



ひょっこりと顔を覗かせたネムが、スマホの待機画面を眠たそうな瞳で見つめて聞く。

それが最初の些細な間違いだった。



「そうだよっ!これはこの前のデートで()()()()した写真で………ね、かっこいいでしょ!?こっちは野良猫をモフモフしてるファントムさんで………ふへへ♡可愛いなぁ♡」

「ぬ……」



もの凄い勢いでまくし立てるようにペラペラと喋りだしたルーシィを前に、ネムは困惑して眉を寄せる。

後悔しても、もう遅い。

ルーシィの無限"ファントムさん語り"が始まってしまった。

嬉々としてここ数日で百枚以上溜まった写真を見せびらかし、得意げな解説が繰り広げられる。



(いわ)く、デートの際にふと見せた紳士的な仕草だったり。

曰く、パレットちゃんなるキャラクターを前にしたファントムさんの、子供のようにはしゃぐ可愛らしい姿だったり。

曰く、ランニング後にタオルで汗を拭くセクシーなファントムさんだったり。

曰く、モブ戦闘員と馬鹿しながら楽しそうにヒーローと戦うファントムさんだったり。



曰く、曰く、曰く、曰く、曰く、曰く、曰く、曰く、曰く、曰く………。




「あとこれ!私とお揃いで買ったパレットちゃんのグッズ、アジトのデスクに飾ってくれてたんだけど!こ、これってもう()()()()()だよね……!?えへへ♡嬉しいなぁ♡」

「ちょちょ、ちょっと待って?」



シャルルさん、ここでドクターストップ。

もちろん怒涛の勢いで垂れ流されるファントムさん情報に耐え切れなくなった、という理由もある。

だがそれ以上に、気になる文言があったため止めざるを得なかった。

それは彼女だけでなく近くで話を聞いていたミルちゃんも同じようで、前髪で隠れた左目からも分かるくらい動揺を滲ませながら、ルーシィちゃんに確認をする。



「あの、今の口振りからすると………ルーシィさん、秘密結社Xのアジトに入ったのですか?」

「え?うん、そだよ?」

「「えっ」」

「え?」



二人の驚愕に対して、ルーシィは自分が何かおかしな事を言ったのかと戸惑いを見せる。

すかさずシャルルから「いやいやいや……」と大いに呆れを含んだ引き笑いが漏れる。



「あんた、よくそんな危ない所に一人で行けたわね……」



これにはレティからもお咎めの視線を頂戴した。

一般的な認識としては、ヴィラン連合に属する組織はどれも(たぐ)(まれ)ぬ悪の軍団だ。

アジトの情報などは一切明らかになっておらず、仮に分かったとしても、敵の本拠地に自ら乗り込むほどヒーロー協会は馬鹿じゃない。

少なくともきちんとした土台を整えてから戦いを挑むだろう。

……まぁこの話は一旦置いておいて。

それくらい危険な場所なのだ。

まさかそこに一人で乗り込むなんて……。

ルーシィの行動力には毎回驚かされてばかりだ。



「大丈夫だった?何か変なことされてない?」



続けてレティが問う。

世間的な立場から考えれば妥当な質問だ。

しかし、ルーシィから返ってきた答えは予想外のものだった。



「うん!たぶん誰にも()()()()()()()と思うしー。おかげで………うへへ♡ファントムさん、アジトではあんなに無防備なんだなぁ♡」



この場に居たルーシィを除くデモンソウルズのメンバーは、総じて「おやぁ?」と首を傾げた。

今、ルーシィちゃん何て言った?

バレてなかった?



「待って?ルーシィ、あんたファントムさんに頼んでアジトに連れて行ってもらったんじゃないの?」

「え?違うよ?それがさぁ……ファントムさん、全然お持ち帰りしてくれなくて。しょうがないから、お別れした後に尾行したんだ。途中気付かれそうで大変だったよぉ〜」

「あっそう……」



サラッと、とんでもない事を言っていると彼女は気付いているのだろうか。

いくら普段がポンコツなボスと言えど、アジトに帰る時は尾行などの類いに関してはきちんと警戒している。

肝心の秘密基地がバレてしまえば、ヒーロー協会が攻めてくるのも時間の問題。

通常業務(世界征服)にも支障が出てくるからだ。

今まで秘密結社Xのアジトがバレていなかったのは、団員全員にその意識があったからである。

そこら辺は一応ちゃんとしている………つもりだった。

しかしボスのガチ警戒を、ルーシィちゃんは「大変」程度で済ませて尾行を成功させたのだ。

もはや本職の方々よりも成果を出しているのではないだろうか。



「ルーシィ、凄い……。斥候(せっこう)の才能あり」

「斥候っていうか、ルーシィの場合はがっつりストーキングじゃない……」

「あはは……」



一人だけ何故か目をキラキラさせているネムはさておき、レティから至極尤もな指摘がされた。

アイドルがストーキング。

普通あり得るとしても逆だろう。

まさかアイドル側がストーキング加害者になる日が来ようとは……。

ミルからも苦笑いが零れる。



「す、ストーキングじゃないけど!?確かにファントムさんの生活を把握するために、定期的に見守ったり声かけ行ったりはしたけど………それだけだよ?別に盗聴器を仕掛けたりはしてないんだから、ストーキングとは───」

「いやがっつりストーカーじゃない」

「しかも無自覚タイプじゃん……」



実はルーシィさん。

ボスが『水彩画シリーズ』の最新刊を買いに出向いた時の再会は、完全な偶然だった。

しかしそれ以降。

それ以降は、全てルーシィの類い稀ない努力の末に実った必然の結果なのである。

時にはボスを背後から見守り、趣味嗜好や癖の一つまで全て記憶。

ボスの行動パターンを把握した上で、ボスが好きそうなイベントやゲーム、書籍などの発売日を網羅。

おそらくボスが断らないであろう絶妙なラインの誘いを言葉巧みに促し、何度もデートまでかこつけた。

全てはルーシィの計画通りなのだ。



「まぁ……あんまり迷惑かけないようにね?」



最終的にレティの一言で何とか話は収拾したものの、彼女達はまだ知らなかった。

ルーシィが行った()()は、これでも氷山の一角でしかない事を。

ルーシィが既に、もはや普通の女の子には戻れないであろう事を。






          ◇◆◇◆◇◆





「まったく、レティは酷いなぁ……」



面と向かって人をストーカー呼ばわりとは……。

あくまで自分は自分に出来る全力でファントムさんと一緒になろうと努力しているだけで、決してそのような犯罪じみた行為に手を染めているつもりはない。

ルーシィは少なくとも、そう考えていた。

実際問題、今日の話を聞いた限りではギリ、そう言えなくもない………ような気がする。

たぶん。

だが、そのような考えも、彼女の部屋の中を見れば一瞬にして吹き飛ぶだろう。

ルーシィがポケットからキーホルダー付きの鍵を取り出し、ドアノブに差し込む。

90°回転させると、カチリと鍵が開く音がした。



「ふぅ〜、ただいまぁ……」



玄関に入り、ルーシィは手早く鍵を閉めてチェーンをかける。

そして荷物をリビングのソファに放り投げ、手を洗ってから足早にとある扉の前に向かった。

寝室だ。

逸る気持ちを抑えて扉を開き、薄暗い部屋の奥にあるベッドに思いっきり飛び込んだ。

柔らかい感触が彼女を受け止めると共に、立てかけてあった細長い何かが彼女の上に倒れる。

ルーシィはそれをガバッ!と抱き締めて、そのままギューーーッ!!と精一杯に抱きつき頬を擦り付ける。



「ふへへ♡ファントムさぁん……♡」



ルーシィの声はとても甘ったるい。

まるで愛でも囁くかのように、目を細めて抱いた物体に指を這わせる。

彼女の動きによってグニグニと形を変えるそれは、抱き枕だった。

我らがボスの姿が精巧に印刷された、等身大の抱き枕だった。

続けて未だに暗いままだった部屋に目を向ければ、そこには異様な光景が広がっていた。

壁一面にこれでもかと敷き詰められた大量の写真。

その全てがボスの姿を収めており、こちらに笑いかけたり手を差し伸べたりしているものもあれば、全く見当違いな方向を見つめていたり、猫と戯れている写真まである。

加えて、デフォルメされたボスの姿が印刷されたクッションが、ベッドの端に三つ。

机の周りには様々な収集品がダンボールやプラスチックボックスに収納されており、一番上には見覚えのあるハンカチがメモと共にジップロックにしまわれていた。

ベッドの手前にあるちゃぶ台には、数枚の写真とメモ帳らしきものがいくつか置かれており、唯一開かれたメモ帳は書いている途中だったのか文章が途中で切れている。

内容は省くが、日時曜日などを等間隔に記録。

どうやらボスに関する情報が記載されているようだ。



「えへへ♡」



おそらくメンバーが見たら卒倒するであろう部屋の中で、ルーシィはボスの抱き枕を抱き、ゴロンと寝返りを打つ。

すると、天井にびっしりと貼り付けたお手製のタペストリーが目に入った。

もちろん、描かれているのはボスである。

その中の一つと目が合い、ルーシィはポッ……と頬を染めた。

脚がせめて少しでも興奮を逃そうとジタバタ暴れる。



「ファントムさん………大好きだよ……♡♡」



ルーシィは異質な部屋で愛を囁く。

じっとりと含んだ感情の重さを感じさせる彼女の言葉は、開きっぱなしの扉を通じて廊下へと抜けていく。

果たして彼女の想いが本人に届く日は来るのだろうか……。








ルーシィが白ギャルでシャルルが黒ギャルです。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

誤字脱字報告、感想等やブクマ、評価など、ぜひともよろしくお願いします!!(*^^*)









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