恋する乙女は怒らせると怖い
ついに毎日投稿50日目です!
デモンソウルズのツアーライブがあり、しばらくルーシィちゃんと会えない日が続いていた。
今日はやっと活動に一区切りがつき、久々にボスとのデート(ルーシィ視点では)が出来るとのことで、ルーシィちゃんのテンションはいつもの数倍高い。
「あの……ルーシィちゃん?」
「ん?どしたの?」
「………うっす、なんでもないっす」
明らかに、ルーシィちゃんの距離が近かった。
いつもとは違い、ピタリとボスに寄り添うようにして、傍から見ても分かるほど幸せそうなオーラを振り撒いている。
首を傾げてサングラスの奥からじっと見つめる瞳に、ボスは思わず目を逸らして答えた。
スポーツキャップにポニーテールという珍しい組み合わせはギャップを感じさせて、なんと言うか………とても素晴らしいです、はい。
「えっと……まだ開店時間まで少しあるけど───」
ボスがすかさず距離を取りつつ、ちょっと寄り道でもしてく?と提案しようとしたその時。
人混みの向こうで、何やらザワザワと騒ぎが起こり始めた。
ボスとルーシィちゃんは二人してきょとんと頭上に疑問符を浮かべる。
そいつは人混みをかき分け、ズンズンと歩道を突き進む。
『ぐふふっ……!俺は都心のリア充共に脳を焼かれ、負の感情が蓄積した結果、変異・進化した超怪人!その名も非リアザウルス!』
「えぇ……」
なんかとんでもない野良の怪人が現れた。
二メートルを優に超えるであろう巨体はトカゲのような鱗に覆われており、ギョロギョロと忙しなく動く縦割れの瞳孔はまさに爬虫類そのもの。
横長の口をかっ開き、細い舌をチロチロと動かしている。
イメージ的には二足歩行のコモドドラゴンみたいな感じだ。
『こんな田舎はもう嫌だ!そう決意し、大学デビューと共に上京したは良いが……都会に出てきて、あらビックリ!なんだこのリア充の多さは……!!どこへ行っても彼女連れのチャラい男共ばかり!』
「いやそんな事は無いと思うけど……」
『俺だって頑張ったさ!講義で隣の席になった女の子に声をかけまくった!しかし返ってくるのは遠慮気味もとい、若干引き気味な愛想笑いのみ!結局、女友達の一人すら出来なかった!』
「うわぁ……」
ボスと周囲の主に男性諸君から同情の視線が寄せられる。
想像しただけでだいぶきっつい。
きっと彼なりに努力したのは本当なのだろう。
それでも、努力の方向を僅かにミスってしまい、結果として華々しい大学デビューから一転。
灰色の大学生活に突入したのだと思われる。
『俺は憎い!公共の場でイチャつくカップル共が!TPOも弁えず、やたらとくっつきたがるリア充共が!!社会の風紀を乱すお前らは、この俺が粛清してやる!』
ギャオオオオンッ!!と恐竜らしい雄叫びを上げ、悲しみを背負った非リアザウルスが重々しい足音を立てて歩道を走る。
もちろん、頭部と尻尾を荒ぶらせて向かうはボスとルーシィちゃんの元である。
『リア充、滅ぶべし!!』
敵意がボスの方に向き、唾液にまみれた鋭い牙がガパッ!と開いた。
怪人化した経緯はギャグ色が強いものの、研ぎ澄まされた鋭利な牙の殺傷力は本物である。
あんなものに噛み付かれたらひとたまりもない。
咄嗟にルーシィちゃんを庇うために前に出ようとするボス。
しかしその前に、ボスの手を退けてルーシィちゃんが一歩前に進んだ。
「………」
表情は見えなかったものの、ボスは彼女が醸し出す雰囲気を感じ取り思わず動きを止めた。
直後、ルーシィちゃんが迫る非リアザウルスに向けてフィンガースナップ。
すると……。
───ボボッ!!
いきなり非リアザウルスの顔面が炎に包まれた。
『ぐああああっ!?』
一瞬で視界が染め上げられ、彼もまたかなり驚いたことだろう。
急速に周囲の酸素が失われ口をパクパクさせた非リアザウルスが、眉間に皺を寄せた表情でもがき苦しむ。
水中で空気を欲するかのように腕をジタバタさせる非リアザウルスの元に、いつの間にかルーシィちゃんが歩み寄っていた。
ボスが「危ないよ!」と声をかけるよりも前に、彼女の見事なかかと落としが非リアザウルスの顔面に突き刺さり、そのまま後頭部から地面に叩き付けられた。
「おぉう……」
あまりに容赦の欠けらも無い一撃に、ボスから何とも言えない声が漏れた。
ルーシィちゃんは周囲からのドン引きの視線をものともせず、かろうじて鎮火し荒い息を繰り返す悲しき男の元に近付く。
そして、焼け焦げてくすんだ色の煙を上げるトカゲ頭から少し横にズレた位置を、思いっきり踏み付けた。
ちぎれた炎に混じって細かい何かが飛散する。
コンクリートだ。
炎を纏ったルーシィちゃんの右足が、コンクリートをあっさりと踏み砕いたのだ。
最初は強気だった非リアザウルスの表情がみるみるうちに青ざめていく。
「あのさぁ………今、大事なデート中なんだけど。見て分かんない?邪魔しないでよ」
瞳孔ガン開きのおっかない表情で、そしてドスの効いた低い声で諭された非リアザウルス君。
涙目で小さくコクリと頷くことしか出来なかった。
「これは、お仕置ね?」
ルーシィちゃん、わざわざ助走を付けて炎を纏った右足を思いっきり振りかぶる。
ボスと紳士諸君が「まさか……!?」と戦慄した表情を浮かべた、次の瞬間。
────ゴギィイイインッ!!
と、実際にはもっと重い音だったが、ボスと野次馬の男達の脳内では、何か硬い金属同士がぶつかり合ったかのような悲痛な音が響いた。
青を通り越して白い顔をした非リアザウルス君の体が僅かに浮かび上がる。
直後、彼の口から「うぼぁ……」と何か青白い塊が吐き出された。
ボスを含むこの場に居合わせた全ての男達は、本能的に己の股間を守るべくキュッと内股になった。
「───ごめんね〜、ファントムさん!それじゃあ行こっか!」
「あっはい」
「?どうかした?」
「いえなんでも」
くるりと振り返った時には、先程までの瞳孔ガン開きは嘘のように収まっており、いつも通りの可愛らしい笑顔に戻っていた。
元気いっぱいに微笑んだルーシィちゃんは、内股で動けないボスの腕を取りグイグイと力強く引っ張る。
ボスは密かに決心した。
ルーシィちゃんは絶対に怒らせないようにしよう………と。
ボスも股間蹴り上げられないようにしないとね……。
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