違和感あるけど……楽しいから、ヨシッ!
最近、ボスは妙な頻度でルーシィちゃんと出くわしていた。
ある日は買い出しの帰りに偶然スーパーの外で出会い、途中まで一緒に帰ることに。
道中聞いた話によると、どうやらダンスレッスンの帰り道だったらしい。
「実はあの後、アニメ版も一気見しちゃって……もうめっちゃハマりました!オーちゃんが可愛すぎて〜!特に二期六話、あれエグかったです」
「分かる。てぇてぇの過剰供給で直視出来んかった」
「ですよね〜!」
なんとルーシィちゃん、原作を買ってから『水彩画シリーズ』にどハマりしたらしく、たった数日で三期まであるアニメ版と映画版まで全て視聴。
公式キャラクターブックまでしっかりと履修したそうで。
ボスの早口マシンガントークにも余裕で付いてくるという圧倒的実力を身に付けており、二人の会話は以前のぎこちなさを完全に捨て去った。
オタクは同じ趣味を持つ相手にはとことん弱いのだ。
散々盛り上がった挙句、ボスは別れ際にあれだけ渋っていた連絡先をあっさりとルーシィちゃんに教えてしまった。
しかし、仕方あるまい。
「え〜、もっとお話ししたいのに……」
としょんぼりした様子で、ちらちらと物欲しそうな瞳でこちらを見つめるのだから。
一度同族の側面を見せた相手には、痛い目を見るまでとことんガードが緩くなる。
オタクの残念な特性である。
しかもボスに言わせれば、「美少女(美女)による痛い目は、むしろご褒美」だ。
もう無敵状態だった。
自分の立場も忘れてあっさり連絡先を交換。
「やった!帰ったらすぐ写真送るので、無視しないでくださいね?あっ、パレメモのフレンドIDも送ります!そうだ!今度、一緒にリアイベ行ったりしませんか?」
興奮した様子のルーシィちゃんが、矢継ぎ早に言葉を紡ぎながらボスに迫る。
本来ならば、連絡先も含め頻繁にアイドルと接することなんて、オタクとして許されざる行為だ。
しかも相手はヒーローを兼任している。
間違いなくボスが最も距離を取るべき属性の相手である。
それでも………それでもボスは、断りきれなかった。
なにせ、数少ないリアルで繋がりのあるオタ友。
その素晴らしい関係性をボスが自ら捨てるなんて愚行、易々と出来るはずもなく……。
結果的に、ヴィランの親玉としてはより愚行と言わざるを得ない行動を取ってしまうに至る。
また別の日には、某勇者君とエンカウントしてしまい意気消沈したボスを、ルーシィちゃんはファミレスに連れて行き慰めた。
ひたすらに甲斐甲斐しく接してボスの傷心を癒そうとするその姿は、まさに聖母と言うにふさわしい。
最近のギャルって、バブみも兼ね備えてるんすね……。
危うく惚れてしまうところだったボス。
ただ少し妙だと感じることがあった。
「確か、オムライスですよね。ファントムさんがいつも頼んでるの」
「……あっ、そう言えばブルーベリー食べれないんでしたっけ。じゃあ別のデザートにしましょう」
「ポイントカードが無い?たぶん、お札の間に挟まってるんじゃないですか?この前、本屋さんで出した時にそこに入れてましたし……」
などなど。
「あれ、俺それ話したっけ……」というような事が、何故かルーシィちゃんの口からぽんぽん出てきたのだ。
特にポイントカードの話など、心当たりのあるタイミングは思い出したものの、その時にルーシィちゃんは居合わせていなかった。
まるで隣で見ていたかのような口振りだが、あの時は間違いなく一人で買い物をしていた。
何とも言語化することの出来ない奇妙な違和感が、ボスの胸に僅かな曇りを生む。
またまたある時は、ルーシィちゃんとのお出かけの後にハンカチを無くしてしまい、お気に入りの柄だったためボスはちょっぴり残念に思っていた。
ところが数日後にルーシィちゃんから連絡があった。
なんと、ハンカチが彼女の荷物に紛れ込んでいたと言うのだ。
それを聞いたボスは一安心。
後日改めて会う約束をして、ハンカチを受け取りに行くことに。
「いやぁ、ごめんね?」
「いえいえ!こちらこそ気付かずにごめんなさい」
どうやら洗ってくれたらしく、シワ一つ無い綺麗な状態でハンカチが返ってきた。
せっかくこうして会ったので、何もしないまま解散は少し悲しい。
そこでボスとルーシィは電車で隣の市まで移動し、大手アニメグッズ販売店で買い物デートをした。
ボスは「デートではないです、はい」と否定するだろうが、少なくともルーシィちゃんは「やばっ、デートじゃんこれ!テンションぶち上がるぅ〜♪」と大喜びしていた。
時にはボスが夜更かしを繰り返して、目の下にクマがある状態でルーシィちゃんと出会うこともあり。
「もうっ!ファントムさん、夜更かしはダメだよ?最近、カップラーメンばっかり食べてるでしょ。野菜もしっかり食べないと」
年下の女の子にオカンみたいな説教をされてしまったボス。
既にイリスさんや小雪ちゃんからも全く同じ説教をされたばかりなので、それはもうボスはぐぅの音も出ない。
ルーシィちゃんの口調が変わったのもちょうどこの時期だった。
敬語から素の言葉遣いに戻ったようだ。
それだけボスとの距離が縮まった……ということだろうか?
この時のボスは気付いていなかった。
おそらく寝不足で脳みそが回転していなかったのだろう。
どうして、ルーシィちゃんはボスの食生活まで知っていたのだろうか……。
───そんな心に謎の違和感が募る日々が、およそ一ヶ月程続いた。
別に直接的な悩みに発展する訳では無かったので、ボスは自分の思い違いだと気にも止めていなかった。
それよりもオタク仲間が増えたことの方が大いに嬉しく、違和感の元など詮索する暇もなく忘れてしまっていた。
……まさか裏でとんでもない事が行われていようとは、この時のボスは知る由も無かった。
オタク友達ってマジで大切だと思うの。
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