お願いマッスル!
「おっかないねぇ……」
音楽プレイヤーのような小さな機械を手に、イヤホンで何かを聞いていたソアレが乾いた笑いを零す。
耳から微かに漏れ出るのはラジオのような音声で、声の主は相当焦っているのか、矢継ぎ早な言葉が交わされている。
まさかヒーロー協会の通信が傍受されているとは、誰も思うまい。
各地の戦局が事細かに報告され、ヒーローの動きなど筒抜けも良いところ。
これを聞くに、司令部は相当てんやわんやな状態らしい。
「お〜い!ソアレ、そろそろ行くぞ〜!」
「はいはい」
警備が手薄になったことを確認したボスが、日陰で涼んでいたソアレを呼ぶ。
ついに突入のタイミングが来たのだ。
メンバーの点呼を済ませ、一斉に突撃。
まさか敵が真正面からやって来るとは思っていなかったらしく、警備に当たっていたヒーロー達から驚愕の声が上がる。
「お、お前たちは……!」
「邪魔っす!」
「どわあああっ!?」
まず先陣を切った八咫烏ちゃんの暴風が、正面入口に常駐していたヒーロー達を吹き飛ばした。
ガラリと空いた真っ直ぐの道を、ボス達はガラス張りの自動ドアに向かって駆け抜ける。
「待たれい!ここはこの俺、マッスルマンが通さんぞ!」
最初の関門は、ヒーロー協会が誇る"三英傑"が一人、マッスルマンだ。
数多くのヒーローを従え、秘密結社Xの前に立ち塞がる。
同時に、ボスが命令するよりも先にマッスルマンに飛びかかった者が居た。
「むぅっ!また会ったな……!」
「ボスさん、こいつは任せてくださいですぅ!」
灰色の尻尾をたなびかせる狼少女、ウルフちゃんだ。
ウルフちゃんの飛び蹴りを上手くガードし、マッスルマンは緊迫した表情で頬に汗を垂らす。
「ふぅうう〜〜っ!!」
集まってきたヒーロー達を遮るようにして、左右に簡易的な雪の壁が構築された。
「ボス様、頑張ってくださいぃ〜!」
背後から追おうとするヒーローに冷気を吹きかけ、足止めをしながら、小雪ちゃんは小さなおててを振ってボスを送り出す。
「ふぅ〜ん?ヒーローのクセに、よわよわのおザコさんだね〜♡」
何をされたかは知らないが、メスガキっぷりを遺憾無く発揮したチェリーちゃんの前で、数人のヒーローが四つん這いとなり震えている。
どうやら精神的に屈服してしまったらしく、武器を捨ててひたすらに何かを懇願している様子が見て取れる。
その数は、チェリーちゃんが"♡"付きの言葉を発する度に増えているような……。
メスガキ、恐るべし。
「にゃあ〜!ミケに触れていいのは、ご主人様だけなのにゃ〜!」
影に潜ったかと思えばあらぬ場所から姿を現し、爪の斬撃を飛ばしてヒーローを倒す。
ミケの変則的なヒットアンドアウェイにかなり翻弄されているようだ。
ヒーローの陣形が乱れ、追っ手は確実にボス達から遠ざかっていた。
この四人は言わば殿。
ことが終わるまでボス達の元に増援が駆けつけないよう足止めしつつ、撤退の際の逃げ道も確保しなければならない、超重要な役割である。
「よしっ、行くぞ!」
「「「おお〜!」」」
ボスの掛け声にエックス戦闘員がメインとなって応え、ついに秘密結社Xの面々はヒーロー協会へと足を踏み入れた。
◇◆◇◆◇◆
ボス達がヒーロー協会内部に殴り込む様子を横目で見届け、ウルフちゃんはお飾りの狼ハンドを脱ぎ捨てる。
「………前回から、ちょっとはマシになったみたいですねぇ」
「ほう、やはり分かるか」
マッスルマンは少し嬉しそうに眉をピクリと動かした。
確かに、言われてみればマッスルマンのバルクが、前回よりも少しビルドアップしているような………気が、する……?
しないでもない。
正直、分からない。
しかし、筋肉を日々鍛え抜いている同志の間では何か通じるものがあるらしく、ウルフちゃんは称賛を。
マッスルマンは理解してくれたことに対する感謝を頷きで表現する。
周りのヒーロー達は何が何だか分からない様子だが。
「俺はお前に負け、感銘を受けた。そして同時に思い知らされた。筋肉には限界など無いのだと………信じ続ける限り、筋肉は必ず答えてくれるのだと!!」
ヒーロー達の呆れた視線が物語っている。
「何言ってんだこいつ……」と。
あまりの暑苦しさにミケは体毛を逆立てる程だ。
しかし、やはりウルフちゃんだけは謎の共感があるようで、得意げな笑みを浮かべながら拳を打ち鳴らしている。
「……だが今の私では、まだお前には勝てないだろう」
バルクアップしてもなお、マッスルマンはまだウルフちゃんには敵わないと判断したらしい。
少しの努力では埋められない差がそこにあることを、彼はきちんと自覚していた。
だから頼ることにしたのだ。
苦渋の選択ではあるものの、ヒーローとして守るべきもののために。
チラリと視線を向けられた背後のヒーロー達が、ハッと我に返って慌てて能力を発動させる。
初動にもたつきがあったのは、決して暑苦しいマッスルマンの笑顔を直視出来なかったからとか、そういう訳じゃない。
ないったらない。
なんか無駄にむさ苦しいなぁ……とか思ってないから、うん。
……それはさておき。
「私はドーピングに手を出してしまった。笑いたければ笑うがいい。嘲られても仕方あるまい。……だが、俺はヒーローとして、守らなければならないものがあるのだ!!」
マッスルマンは雄々しく叫び拳を握り締める。
いや、ドーピングって言うか、ただ能力で強化しただけ………とヒーロー達は微妙な表情だ。
マッスルマンの肉体に色とりどりの光が降り注ぐ。
施されたのは、様々な強化系の能力。
筋力アップや敏捷性アップと言った基本的なものから、肉体の硬度を高める付与系の能力まで。
ヒーロー協会の中でもサポートに特化したヒーローが集まり、マッスルマンを強化したのだ。
ゲームで言うと一種のバフみたいな感じ。
決してステロイドとかじゃない。
至って合法な強化方法だ。
にも関わらず、あたかも違法薬物にでも手を出したかのような懺悔の仕方をするマッスルマンに、ヒーローから微妙な視線が集まる。
「面白いですぅ……!かかってきな!ですぅ!」
が、狐耳と尻尾を荒ぶらせ、やる気満々な戦闘狂がここに一匹。
前回はワンパンで沈んでしまったものの、今こうして目の前に立つマッスルマンは、自分と殴り合うにふさわしい相手だと認識したのだろう。
普段見せている可愛らしい笑顔が嘘のように、爛々と野性味を輝かせた瞳と笑みで。
ウルフちゃんは、激しい闘いに身を投じた。
マッスルマンの熱気で、小雪ちゃんの雪とか溶けちゃうんじゃないかな……。
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