今日も悪の秘密結社は平常運転
秘密結社Xのアジトにあるトレーニングルーム。
金銭的な問題で魔王軍ほどは充実していないものの、ソアレの協力により他に類を見ない素晴らしい耐久力を誇る。
今日はどうやら、そのトレーニングルームで、ソアレが開発した発明品のテストを行っているようで……。
「そ〜れ!」
「ああっ!?」
メスガキっぽさ満載のピンク髪少女の拳がモンスターにめり込み、派手にぶっ飛ばす。
地面を転がったモンスターが立ち上がることはなく、そのまま光の粒子となって消えてしまった。
「くすくす♡一号さんってば、ざぁ〜こざぁ〜こ♡」
「くそっ、しっかりノルマのメスガキムーブを達成しやがって………ありがとうございます!」
敗北の悔しさよりも、何か勝るものがあったらしい。
典型的なメスガキを発揮する少女───チェリーちゃんからの罵倒に、しっかりと感謝の言葉を述べる一号君。
もちろん、観戦していた二号君からの視線はとても冷たい。
「うおおおっ!パレットちゃんが現実に!正確にはVRだけど!すげぇ!」
一方、三号君と共に凄まじい熱意のガチ落書きに身を投じていたボスからも、歓声が上がる。
なんと驚くべきことに、ボスの目の前には繊細な画風の青髪少女が立っていた。
(ほぼ)等身大パレットちゃんである。
推しを目の前にボス、大興奮。
「にゃう〜……!」
ボスのお膝の上で丸まっていたミケが、ジャブの猫パンチをパレットちゃんの足元に繰り出す。
凄まじい勢いで眉間に皺を寄せているのは、ボスのデレデレした態度が気に食わなかったからだろう。
その元凶であるパレットちゃんに向けて攻撃するが、相手はただの光の集合体であるため、スカッ……と空振るだけで何も起こらない。
ミケを除き、大盛り上がりの彼らの手には、同様のタブレットとペンが握りしめられていた。
あれこそソアレの発明品だ。
まだ開発段階であるため正式な名称は決まっていないが、その性能は実に面白い。
付属のペンでタブレット型端末に絵を描くと、それがVRとして現実世界に投影されるのだ。
ある程度のサイズ変更や色の指定も可能。
もちろんVRであるため直接的な干渉は行えず、完全に娯楽用のアイテムだ。
しかし、このアイテムの面白い点は他にある。
投影したVR同士ならば、相互に干渉が可能なのである。
そのため先程のチェリーちゃんのように、他者の投影したキャラクターを攻撃し、消滅させることが出来る。
この特性を利用し、ボス達は自分で作ったキャラクターを使用した、一種のトーナメントバトルを開催しようとしていた。
「ボス、絵上手いですね」
「まぁ水彩画シリーズ見まくったからね。このくらいお手のもんよ」
お膝で荒ぶるミケを宥めながら、ボスはドヤ顔でそう話した。
ちなみに水彩画シリーズとは、ボス最推しのパレットちゃんが主人公を務めるアニメ作品の総称である。
タイトルの通り、水彩画をメインとした様々な絵やイラストが作中には登場する。
それを完璧に模写するために、ボスは多大な努力をした。
時には腱鞘炎に悩まされることもあったとか……。
その成果が今、静かに陽の目を浴びたのだった。
「ふっふっふっ。揃いも揃って、ぬるいぬるい!」
仁王立ちでそう言い放ったのは三号君だ。
他者を寄せ付けぬ鬼気迫る雰囲気でタブレットに向かっていたため、しばらく放置されていた三号君だ。
ぬるいとは何だと文句を言おうとしたボスや一号君であったが、三号君の背後に鎮座する大型のイラストを目撃し言葉を失った。
ドラゴンだ。
とても本格的な画風の赤鱗のドラゴンが、そこには佇んでいた。
率直に、「出る作品間違えてるのでは?」とボス。
なんと言うかもっと、殺伐としたファンタジー世界に君臨してそうなドラゴンだった。
「ざ、ざぁこざぁこ……♡」
「無理しないでいいからね……」
涙目でガクブルしながらもメスガキムーブをかますチェリーちゃんに、一号君から慰めの言葉が入る。
いくら映像とは分かっていても、凄まじい画力の暴力によってその迫力は本物顔負け。
ボスでさえドン引きの絵面は中々に珍しい。
唯一、匂いがしないために欠片も動揺していないミケだけが、呑気に欠伸をしてボスに甘えている。
「ドラゴンは、ロマンです」
三号君、したり顔でそう首肯する。
間違いない。
ゆっくりと首をもたげて放たれたドラゴンの炎ブレスが、トレーニングルームを阿鼻叫喚で包み込む。
果たしてトーナメント戦とはなんだったのか。
一瞬にして巨大ドラゴンのレイド戦に早変わりした。
まるで悪の親玉かのようなセリフで仁王立ちする三号君。
一号君の描いたモンスターがまたしても一撃で消し飛んだ。
「やぁやぁ、新しい発明品を持ってきたよ───わぁお」
パシュッ……と気の抜けた音でトレーニングルームの入口が開き、ソアレが入って来た。
大暴れする赤竜を前に、表情を変えず取って付けたような驚きを示す。
眠たげな表情のまま白衣のポケットをまさぐり、発見した小さなリモコンのスイッチをポチッとな。
すると、一瞬にして投影されていたイラスト映像が全て光の粒子となって消えてしまった。
開発者権限である。
ミケを除く全員から「アッ!?」と名残惜しそうな悲鳴が漏れる。
「ボス様ぁ〜!」
しかし感傷に浸る間もなく、ソアレの後ろから遅れてやってきた小さな影が、てってけて〜!とトレーニングルームを駆け抜ける。
百姓を彷彿とさせる衣装に、雪模様の頭巾を被った可愛らしい幼女───我らが秘密結社Xのマスコット枠、小雪ちゃんだ。
小さな足で精一杯に走り抜け、満開の笑顔でボスの背中に飛び付いた。
ピクリと猫耳を揺らしたミケが顔を顰めるが、そんなのはお構いなし。
というか気付いていない。
紅葉のような小さなおててで、大好きなボスの頬を弄ぶ。
「問題なかった?」
「はいです〜!」
体を揺らしたりして、しがみついた小雪ちゃんとじゃれていると、カルテ片手にやって来たソアレが若干の呆れを含んだ視線をボスに向ける。
「経過は良好だよ。もう肉体が不安定になることは無いだろう」
「そっか。ありがとね、ソアレ」
「礼には及ばないさ。おかげさまで良い実験になったしね」
そういう割には、視線はどこか釈然としていない。
「………困ったね。ボスが女の子に挟まれている姿を見るのは、どうにもつまらない物がある」
「え、それって……」
もしや嫉妬ってやつですか!?と期待が募るボス。
いやぁ〜、困ったなぁ!そっかぁ、ついに俺も女性から嫉妬されるような男になっちゃったかぁ〜!と、凄まじく調子に乗っている。
もしイリスさんがこの場に居たら、顔面殴打か電撃を喰らっても文句は言えまい。
しかしソアレから返ってきたのは、ある意味でそれ以上に残酷な答えだった。
「これでは、初心な童貞の反応が楽しめなくなってしまうではないか」
「ひどいっ!?」
思わず「鬼かっ!」とツッコむボス。
神妙な表情でとんでもなくどうでも良い心配をするソアレに、ボスは己の頬が引き攣るのを感じた。
確かに……とても残念な事ではあるが、ボスは万年非リア童貞陰キャ男子だ。
それはこの世の理、森羅万象さえ認めた紛れもない事実である。
だがしかし。
公然と、それを弄び楽しんでいることを明言するなんて。
いやもうほんと、ありがとうございますっ。
「?」
小雪ちゃんの無垢な瞳がボスの後頭部に突き刺さる。
この視線が忌避に変わった時、ボスは生きていける気がしなかったので、決して内心はおくびにも出さなかった。
KMT(小雪ちゃんマジ天使)。
「こほんっ。……まぁそれは一旦置いておいて……その荷物は?」
咳払いでなんとか誤魔化しつつ、ボスは気になっていたソアレの背後のカートに目を向ける。
まるでソリが引くようにソアレの背後を追従していたカートには、何やら大量のアイテムが敷き詰められていた。
「ああ、これかい?新作の発明品だよ」
ソアレはニヤリとマッドな笑みを浮かべて、乱雑に積まれた山の中から一つのアイテムを取り出した。
VRタブレット、現実でも実装してくれませんか
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