錯綜する意思
会議が終わり退出する者たちが多い中、その男は高そうな会議室の座席に深く腰掛けたまま、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
イナズマと共に、一足早くシャイニング・ウィザードの気配を察知していた彼。
格好はヒーローと言うよりも傭兵に近く、薄くも性能の良いベストにはサバイバルナイフなどの武器が収納されていた。
茶色の短髪に、目元の切り傷がトレードマークだ。
彼の名はガルバン。
ハグトーレに雇われた現在7位のプロヒーローだ。
(相変わらず口だけは達者だねぇ……)
ガルバンは心の中でそう呟く。
言わずもがな、ハグトーレのことだ。
実際は利権しか目にない欲の塊の癖に、口は達者で話術だけ見ればそれなりの能力がある。
心にもないことをさも本心かのように話し、役員やヒーロー達を納得させかけていた。
さすがにシャイニング・ウィザードの参戦は意外だったが……。
何にせよ、惜しい奴だと思う。
もう少し性格さえ良ければ、正統派のまさに"正義の味方"とやらになれたのだから。
「……」
視線を感じて見てみると、向かい側に座っていた迅雷ヒーロー、イナズマが鋭い瞳でこちらを見つめていた。
(お〜こわ……)
ガルバンはそうやって軽く笑い飛ばす。
おそらくハグトーレのチグハグさを見抜いたのだろう。
自分との関係を薄々理解した上で、何が目的だと問い詰めているのだ。
勘の良いこった……とガルバンは内心苦笑いした。
好んで針のむしろになる趣味はないので、ガルバンは素知らぬフリをしてそそくさと会議室を後にした。
◇◆◇◆◇◆
(困ったものだ……)
イナズマは頭を悩ませていた。
そそくさと逃げるようにして退出したガルバンからは視線を切り離し、代わりに深々とため息をつく。
シャイニング・ウィザードの介入は想定外だった。
いつも奔放で掴みどころの無い彼女だが、まさか今回の宣戦布告案に賛成するとは……。
一体、何が目的なのだろう。
先程、会長であるシュヴォルテと、意味深な視線を交わしているのをイナズマは目撃していた。
問い詰めることは出来るだろうが………どちらも、はぐらかされて終わりだ。
……そして、ハグトーレも怪しい。
何かと黒い噂の絶えぬ役員だ。
元より嫌いなタチの人間だったが、今回は特にキナ臭い。
「よし、ついにファントムとの直接対決だな!僕達の力を見せつけてやろう!」
「………はぁ……」
隣の勇者は何も考えていないようだが。
いつも通り爽やかな笑顔でキラキラを振り撒きながら、宿敵たるファントムとの直接対決に燃えている。
良い意味でも悪い意味でもブレない男である。
イナズマは、耐え難い頭痛を感じたので一旦考えるのを諦めた。
◇◆◇◆◇◆
(う〜ん、困っちゃったな……)
こちらも席を立たず、難しい顔で悩む栗色の髪の少女。
アイドルグループ"デモンソウルズ"のセンターを務める、ルーシィその人であった。
彼女達デモンソウルズのメンバーはもれなく、アイドル業とヒーロー業を兼任している。
彼女は代表としてこの場に呼ばれていた。
(ファントムさんに宣戦布告かぁ……)
正直、ルーシィは今回の件にかなりの勢いで反対だった。
隣に居た父親に制止されて会議中に文句は言えなかったが、その分、頭の中で湧き出るハグトーレに対する罵詈雑言は限りを知らない。
まだちゃんとお礼も出来てないのに……とルーシィはしょげた表情で考える。
ファントムは今回の宣戦布告に乗ってくるのだろうか。
もし全面戦争になった場合、ファントムは負けてしまうのだろうか。
もし負けたら………当然、ヴィランなのだから専用の拘留施設に収容されるだろう。
そうなれば、いかにトップヒーローと言えど簡単には会えなくなってしまう。
(………あれ。でもそれなら、裏を返せばいつでも会いに行けるようになる訳で……)
一生、閉じ込めておくべきでは?
そんな黒い考えが一瞬頭を過ぎるが、慌ててぶんぶんと頭を振って邪な思考を追い出した。
父親からの心配の声に大丈夫と答えてから、乱れ気味だった思考を改める。
(大丈夫……あの人が負けるわけないもん)
ルーシィは思い出す。
満身創痍の自分を華麗に助け出してくれた彼の横顔を。
あの、凄まじいまでの戦いを。
ファントムならば、きっと何とかしてしまうのだろう。
ルーシィはこの前の事件を通して、ファントムに対して単なる尊敬以上の感情を抱いていた。
有り体に言えば、脳を焼かれたのである。
おかげさまで今後ルーシィはとんでもない方向に突き進み、我らが秘密結社Xのボスですら手を焼く、ある意味での問題児へと進化を遂げるのだが………それはまた別の話だ。
◇◆◇◆◇◆
最後に会長を見送り、空になった会議室にハグトーレは佇んでいた。
その顔面には気味の悪いニタニタした笑みが張り付いている。
ついに計画も最終段階に進んだ。
シャイニング・ウィザードが現れた時は心臓が止まるかと思ったが、まさか今回の宣戦布告を後押しされるとは……。
ハグトーレからしても予想外だった。
事態はかなり好都合な方向に傾いている。
自分でも怖いくらいだ。
(ぐふふ……!)
しかし、この計画が成功した暁には、自分はさらなる名誉と立場を得る。
もちろん金も。
近くない将来自分が手に入れるものを想像し、ハグトーレは笑い声を漏らす。
正直、かなり気持ち悪かった。
小太りなだらしない体格と表情のせいで、見た目は完全に小物の悪役である。
まぁ根っからしてその通りなので、反論のしようもないのだが。
「………ったく、堪んねぇな……」
「どこへ行っていた」
「イナズマを撒いてたんすよ。旦那、あいつ薄々気づいてるぜ?」
会議室に戻ってきたのはガルバンだった。
気疲れした表情の彼をハグトーレは笑い飛ばす。
「放っておけ。今更どうする事も出来まい」
「そうですかねぇ……」
ガルバンは後頭部を掻きつつ、チラリと隣に佇む無表情の少女に目を向ける。
相変わらずピクリとも動かず、何を考えているか見当もつかない。
「本当に大丈夫なんすか?こいつ」
「お前は雇い主に従っていろ。払った前払いの料金……忘れた訳ではあるまい?」
「へいへい」
ハグトーレから渡された前報酬は、相場の約五倍近かった。
口止め料など諸々も含めてとの事だったが、この破格の対応にガルバンは即座に乗った。
もちろん最後まで従い、計画を成功させてこそ残りの報酬が支払われるので、今さら裏切るつもりなど毛頭ないのだが……。
今度はスクリーンの向こう側………照明が落とす影に視線を向けた。
そこにはいつの間にか、六人の人間が佇んでいた。
……果たして本当に人間なのだろうか?
そう疑問に思ってしまうほど、彼ら(?)の発する雰囲気は異質だった。
冷たい。
とにかく冷たいのだ。
バイザーを装着している者は分からないが、目元が露わになっている数人はもれなく瞳にハイライトが無い。
どこか淀んでいて、生気を感じさせない。
ガルバンは彼らを見る度に、心の奥底がひんやりと冷たくなるのを感じた。
傭兵時代に培った経験によるものだ。
こいつらは、危ない。
本能がそう警鐘を鳴らしていた。
「ふふふっ………あの方からいただいたこの戦力があれば、秘密結社Xを潰すなんぞ造作もない……!」
ハグトーレの下品な笑い声が会議室に静かに響く。
しかし彼は見誤っていた。
これからまさに、自分が敵対しようとしている組織の恐ろしさを───。
補足:1位と2位のヒーローは絶大な権力を有しており、ヒーロー協会全体を監視するような独立した立場にあります。故に建前上はヒーロー協会所属ではあるものの、その実権は会長と同等程度であり、何者にも侵害されない唯一無二の絶対的な権利を持ちます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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