ボス、アイドルの現地ライブへ
「いや〜、もう始まりますよ!やばいっすね!」
「ついにやなぁ!あかん、めっちゃテンション上がってきたわぁ!」
とんでもないハイテンションで会話を交わすお二人。
片方はお馴染みの覆面を被った二号君なのであるが、その格好があまりにも馴染みが無さすぎた。
虹色の派手な配色がなされたハッピを羽織り、背中にはでかでかと「怠惰」の文字を背負い。
額にはハチマキを、そして両手にペンライトを装備している。
そんな二号君と興奮したように話している長身のお兄さんもまた、ほとんど同じような格好をしていた。
違うのは背に背負った「色欲」という単語だけだ。
「ファントムはん、今日は付き合ってくれて、ほんまにありがとうな!」
糸目のイケメンがそう言ってボスの背中をバシバシ叩く。
だいぶ興奮しているようで、その力はいつもより若干強かった。
「こっちこそ助かったよ。ライブには一回行ってみたいと思ってたんだけど、いかんせん一人だとな……。て言うか良かったの?俺、全然エアプだけど」
「かまへんかまへん。むしろ今日を機に沼ってもらおう思てるから、覚悟しといてや〜」
ぜひともお手柔らかに頼みたいものだ。
それから糸目イケメン──ラプラスの家所属ヴィランの"テンパライ"と二号君から、コールやペンライトの振り方などの最終レクチャーを受けつつ待っていると、ついにその時は訪れた。
会場の照明が最低限を残して落ち、代わりに舞台の上にライトが集中する。
僅かな静寂を挟み、儚げなメロディのイントロが静かに奏でられた。
「───何度でも、そう何度でも〜♪」
ロングトーンが終わり、一転。
明るいリズムと共にブシューーッ!!と七色の煙幕が立ち上った。
観客席からの野太い声援がスタジアムを揺るがし、数秒ごとに点滅し色を変えるペンライトがまるで荒波のように激しく波打つ。
「みんなーーっ!今日は私たち、"デモンソウルズ"の五周年アニバーサリーライブに来てくれて、本当にありがとーーっ!!」
「盛り上がってる〜?さあ、もっっとぶち上げてくよー!」
「やっぱり最初はこの曲だよね!行くよ〜〜っ!!」
『おおおおおーーーっ!!』
奏でられるアイドル達の歌声に合わせて、ペンライトが息ぴったりなウェーブを見せる。
一番最初に満員のスタジアムを駆け抜けるのは、七人組アイドルグループ・"デモンソウルズ"のファーストシングルにも収録されたこの曲。
とある有名なドラマの主題歌としてリリースされ、僅か一ヶ月で空前絶後の再生数を叩き出した伝説のラブソングだ。
七人の異なる歌声が完璧に混じり合い、サビに突入した途端に思わず鳥肌が立つような………息をするのも忘れてしまいそうな程の、凄まじい迫力を持った歌がスタジアムを支配する。
これにはボスも全力でペンライトを振り、コールせざるを得なかった。
(やばい、死ぬほど楽しい……)
一瞬で現地ライブの沼に片足を突っ込んだボスだが、それ以上に狂喜乱舞していたのが、隣のテンパライと二号君である。
ライブ自体は阻害しないように細心の注意を払いつつ、全くの初対面であろう前後左右の人と完璧に息を合わせ、コンパクトなオタ芸を披露する余裕さえ見せている。
だがあくまで迸る自我は最低限だ。
自分達は数多いる彼女らのファンの一人に過ぎない………その精神が彼らには確かに刻まれていた。
なんて素晴らしいファンの鏡なのだろうか。
……さて、今回はライブの中身はここで省略するが、ボスを含め三人とも存分に心行くまで楽しめたことだけは言及しておこう。
しかし、本題はこれからである。
事件はライブ終盤に起こった。
皮肉なことに、アイドルの現地ライブよりもこの事件の方がボスにとって印象に残ってしまったのは、もはや残念としか言いようがない。
◇◆◇◆◇◆
本編では全スキップされたライブをしっかりと楽しんだボスを含む三人。
ラストのデビュー曲を歌い切り、スタジアムを満たしていた熱気が最高潮に達した。
あちこちからファンの雄叫びが響き、ステージ上のアイドル達もそれに応えるように満開の笑顔を振りまく。
二時間にも及ぶライブを終えた影響で、全身汗でぐっしょり、息も上がっている。
しかしファンサは笑顔で止めることなく、心の底からこの瞬間をファンと共に楽しんでいることが伝わってくる。
………だが、どんな事にも終わりがあるのだ。
最後の一曲と事前に宣言していたこともあって、時間が経つにつれて熱気が後ろ髪引かれる想いに変わっていく。
そこで、誰かがポツリと呟いた。
「アンコール!アンコール!」
最初は一人か、せいぜい指で数えられる程度だった。
しかしその波紋はすぐに広がり、スタジアム全体を揺るがす程の巨大コールに変わっていた。
『アンコールっ!!アンコールっ!!』
ライブ定番のアンコールである。
テンパライと二号君もまた、ペンライトを振りながら声を張り上げてアンコールを求めている。
二人に促されてボスもペンライトを振り始めた。
「……も〜、皆ってばしょうがないなぁ!」
『おおおおーーーっ!?』
アンコールを受けたデモンソウルズの面々が顔を見合せて、笑顔で頷き合った。
思わせぶりな言葉にファン達から期待の声援が上がる。
そしてまさに、本当の最後………アンコール曲が始まろうとしたその時。
「さあ、行くよ!本当の本当に最後っ、盛り上げて───」
────ドパァンッ!!
突如として響き渡った、重く鈍い重低音。
あまりにもライブ会場には似つかわしくない無機質な音に、スタジアム内は先程までの歓声が嘘のようにシンと静まり返った。
パラパラと、砕けたスポットライトの破片がセンターの女の子の前に降り注ぐ。
ほとんどの観客だけでなく、ステージ上のアイドル達すら唖然呆然としていることが、これは演出なんかではないと淡々と物語っている。
「………は〜い、そこまでぇ」
引き留めようとするガードマンを押し退けてステージに上がったのは、合計二十人に及ぶ、いずれも素人とは思えないガタイの男達だった。
問題は、ハッピを脱ぎ捨てた全員が過剰な程の武装をしていたことだ。
黒塗りのマシンガンは全員が標準装備。
中にはガトリングらしき物を担いでいたり、小型拳銃を防弾チョッキに大量に差し込んでいたり、火炎放射器のようなものを抱えている者も居る。
ライブ会場に持ち込むにしては随分と物騒な一式に、ファン達からどよめきが起こる。
───ドパァンッ!!
それを黙らせたのは、前に出たリーダーと思われる男が放った一発の弾丸だった。
再び割れたガラスがアイドル達の足元に散らばる。
「───さあ、ここからは俺達の楽しい楽しい"ショー"に付き合ってもらおうか」
リーダーの男がニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
この人達どうやってバレずに武器を中まで持ち込んだんだとか、ライブ終わるまで真面目にハッピ着てたのシュールだな……とかツッコミどころ満載でワロタ
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