裏切り者と観測者
───都内、某所にて。
ラプラスの家もまた、同じタイミングで覚醒個体の襲撃を受けていた。
もちろん最終兵器たるエルムグラムが守護する領域である。
たかが覚醒個体ごときに遅れを取るようなことはなく、九尾にも迫る勢いであっという間に敵を殲滅してしまった。
沈黙した覚醒個体をサイコキネシスで一箇所にまとめ、ラプラスはため息をつく。
"安堵"とは程遠い。
視線を巡らせると、倒壊した建物は見当たらないが負傷者は少なからずおり、命を惜しまない人海戦術の恐ろしさが垣間見える。
「彼は───エントリッヒは、一体何をするつもりなのですか?」
ラプラスは上空に視線を向け、そう問うた。
エントリッヒ。
かつて世界を震撼させたその名に聞き馴染みがないという世代も、少しずつ増えてきたのだろうか。
「さぁね。僕らには、あの方が何を考えてるのかなんてさっぱりだよ」
「知る必要がない、と言い換えた方が良いかしら。関係無いのよ、私達はあの方のために力を振るうだけだから」
答えたのは男女の声だった。
太陽の光を浴びて地上に影を落とすその二人組は、おそろいの金髪と片翼を携えていた。
男の方は身長がかなり高く、スポーツマンを彷彿とさせる引き締まった肉体で、爽やかな男子高校生をイメージさせる。
学校に彼のような生徒が居たらきっとモテたに違いない。
そして女の方もこれまた高校生程の年齢であり、モデル顔負けのスタイルに自信の溢れた得意げな笑みを浮かべている。
身長は男の方に比べて低いが、しかし放つオーラは同等かそれ以上。
エネルギッシュな片翼の形状が瓜二つなだけではなく、顔のパーツも比べて見ればそっくりだった。
それこそ双子かのように。
「あの男はまだ懲りていないので?あぁ、なんて迷惑な暇人なのでしょう」
ラプラスの横で、「嘆かわしい……」と大袈裟な仕草を見せるエルムグラム。
それに対して、左翼を持つ女は軽蔑した瞳でこう吐き捨てた。
「ふんっ、裏切り者のくせに口だけは達者ね。あんた、あの方の前に這いつくばって許しを乞う準備はよろしくて?」
「はて、珍妙なことを……。以前、私に完膚無きまでに敗れたのをお忘れで?」
「過去のことなんて興味無いね!僕らは強くなった!あの方の研究は凄いんだぞ?なんたって僕らの強化だけじゃなくて、とんでもないもんを───」
「アル?」
「うっ……。ごめん、姉ちゃん」
調子に乗って色々とベラベラ喋りかけた弟を、姉が睨み付け制止する。
それはまだ禁句である。
せっかくの作戦を台無しにするつもり?と、口の軽い弟にお姉ちゃんはお怒りのようだ。
"アル"と呼ばれた青年はバツが悪そうに視線を逸らす。
「……とにかく。裏切り者のあんたは私達が絶対に潰すわ。我らの汚点がのうのうと生きていられるのも今日までよ」
片翼の少女の左腕に赤色のエネルギーが集束する。
バチバチと放電するそれは一見すると電撃のようであったが、その性質は全く違う。
「……ミル君、やめた方が良いですよ」
「はぁ?やめてください、でしょう!?」
ラプラスの忠告を、"ミル"と呼ばれた少女はガン無視してエネルギーを帯びた手のひらをかざした。
すると、僅かに空間が歪んだ。
そう錯覚するほどの圧力が真上から降り注ぎ、体にのしかかる。
「……大口を叩くからにはどれ程かと期待したのですが……やはり、名前負けでございますね♪」
一般人ならば全身からトマトジュースのように血を吹き出して絶命してしまうような圧力の中で、エルムは平然と純白のエネルギーを手のひらに集束させる。
さすが最終兵器。
少女が舌打ちするとほぼ同時に、集束されたエネルギーが解き放たれた。
直後、ドゴォオオオンッ!!!と通常時では考えられない爆発が巻き起こる。
爆煙が立ち込め、余波で積み重なっていた瓦礫や覚醒個体達がゴロゴロと地面を転がる。
「……申し訳ありません、マイロード。奴らを逃がしてしまいました。処遇は如何様にも」
「構いません。彼らも元々、逃げる前提で組んでいたようですから」
跪いたエルムに、ラプラスは軽く返す。
最初からここで戦う気は無かったのだろう。
三日……。
それが彼らの提示した侵略開始までの期限だった。
「今回はどうやら、我々も傍観者とはいかなそうですね」
「はい……。お恥ずかしい限りでございます……」
シュンとした表情で、ラプラスに付き従うエルム。
二人は足元を這う白煙を切り裂いて、大慌てであろう仲間達の元に向かうのであった。
お久しぶりです。裏切り者とか汚点とか、色々と気になる単語が飛び交ってますね……。果たしてどういう意味なのでしょうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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