示された期限
「ふんっ、つまらん連中じゃ」
心底退屈そうに鼻を鳴らし、九尾は動かなくなった覚醒個体の首を掴んで適当に投げ捨てる。
場所は百鬼夜行が治める城下町の一角。
そこには非常に悲惨な光景が広がっていた。
辺り一面の死屍累々。
濃い血の匂いが入り交じった砂埃が風に巻き上げられ、どこかへと吹き抜けていく。
瓦礫のてっぺんに君臨した九尾の正面には見事に粉砕された外壁が見え、隣の地区へと繋がるその奥にも動かなくなった覚醒個体がまるでボロ雑巾のように打ち捨てられていた。
踏み付けにされた異形の覚醒個体は半身が焼け爛れていて、鼻を突く異臭が立ち込める。
目の前の光景は悲惨としか言いようがないが、覚醒個体による被害という面では、この百鬼夜行の領地が最も少なかったと断言出来るだろう。
大抵は外壁を破った段階で九尾にボコボコにされた。
積み重なった瓦礫の山は、九尾がちょっと調子に乗って暴れすぎた結果だ。
もしかしたら九尾の方が襲撃者よりも街に損害を出しているかもしれない。
「わっちらが出る暇も無かったでありんすねぇ」
「ああ。恐ろしいこった……」
先走った主人を追い掛けて来てみれば、もう既に事は終わりかけていた。
ライオネル親分と幻狐がやった事といえば、何とか九尾の元から逃れ侵入を成功した覚醒個体の始末だ。
当然、数はそんなに多くなかった。
「もうちっと骨のある奴が居ればのぅ……」
「所詮量産型……姉さん相手にサンドバッグが務まるような強さを求めるのは、さすがに酷でありんすよ」
「問題はそうと分かっていながら、捨て駒よろしく中途半端な数を送ってきたことだな」
ライオネル親分の言葉に幻狐も頷く。
量産型の覚醒個体をいくら送り込んだところで、九尾の首が取れないことくらい敵さんは百も承知だろう。
言葉通り"捨て駒"になってしまう。
ライオネル親分が言いたいのは、腐っても覚醒個体という充分に戦力となり得る駒を、こうも簡単に捨てる意味とは?という事である。
さすがに量産型と言えど数に限度はあるはず。
組織Zにとってはコードナンバーシリーズに次ぐ貴重な戦力だ。
それを捨て駒にするだけの意味が、今回の襲撃には隠されているのだろうか。
「なぁ〜んか、きな臭いのぅ……」
顎に手を当て名探偵ばりに考えを巡らせるが、敵の行動が不可思議すぎて特にそれっぽい考えは浮かんでこない。
まぁ生半可な作戦では、今のヴィラン連合に勝ち目はないと思うのだが。
「───それ、自分が無知だって宣言してるようなものだよ?本当に愚かな畜生だね」
「あ゛ぁんっ!?」
どこからともなく聞こえてきた罵倒に、九尾が声を荒らげて反応する。
言うに事欠いて"畜生"とな?
ピキった九尾が紫の炎を纏わせた拳を引くと同時に、いつの間にか眼前に迫っていた和装の少年が空中で足を振り上げた。
両者共に狂気じみた笑みと、妖しさを孕んだ鋭い眼光で相手を睨む。
繰り出した拳と蹴りが衝突した瞬間、ドゴォオオンッ!!と凄まじい爆発が巻き起こった。
紫と赤が入り交じった爆炎が噴火のごとく立ち昇り、衝撃波を辺りに撒き散らす。
「姉さん!」
「姉御!」
瞬時の判断で後退した幻狐とライオネル親分が、熱風で顔を顰めながら主人を心配する声を上げる。
「くふふっ!随分と懐かしい面じゃ……!いつまで経っても懲りんのぅ!」
「煩いな……君ほどじゃないよ」
爆煙を振り払い姿を現した九尾は、全くもって無傷であった。
しかしそれはいきなり強襲してきた少年も同じようで。
上空で浮遊しつつ、刺々しい言葉を吐き捨てる。
その装いはかなり異質であった。
和装をベースにした身軽な服に鈴が付いた刀を所持しており、短い黒髪も合わさってかなり整ったビジュアルに見受けられる。
しかし背中から生えた一対の翼が、その一貫性を粉々にぶち壊していた。
天使のような純白の翼ではなく、橙色に発光するエネルギーの塊のような翼である。
「なるほど、本命はお主か」
「そう……と言いたいところだけどね。今日はあくまで宣戦布告さ。特に前回煮え湯を飲まされた君とラプラスには、丁重な挨拶が必要だとあの方からお達しがあったんだ。ま、僕個人としてもやられっぱなしは性に合わないしね。嫌がらせの一つでもしてやろうと思って」
「かーっ、相変わらず性格悪いのぅ!」
「君には言われたくないね」
少年は小馬鹿にするように肩をすくませると、今度は大仰に腕を広げこう宣言した。
「時は来た。我ら"Z"は完全復活したのさ!始まるよ、君たちと僕らの全面戦争が……!楽しみだね!」
少年は右手の指を三本立てて続ける。
「三日後、僕らは行動を開始する。これは心優しい僕らが与える"猶予"さ」
「はんっ!随分とお気楽じゃのぅ!」
「馬鹿だね、強者は常に余裕を持つものなのさ」
「笑わせるのぅ、散々余裕ぶっこいて惨敗した馬鹿が!あの失敗から何も学ばんとは!」
「……相変わらず口だけは達者だね」
今度は少年がピキった。
頬を引くつかせつつ、左手でフィンガースナップを構える。
「これはささやかなプレゼントさ。それじゃあ、三日後にまた会おうじゃないか」
少年が指パッチンした瞬間。
死屍累々と地に横たわっていた覚醒個体達の亡骸が途端に膨れ上がる。
内側から漏れ出す閃光はまるで小さな花火のようであった。
直後。
─────ドゴォオオオオオンッ!!!
百鬼夜行が治める城下町の一角で、辺り一面を焦土に化す程の超巨大爆発が巻き起こった。
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