一方その頃、魔王軍は
「"凍てつく世界"」
「"ブラッティ・バレッド"!」
絶対零度の冷気と血の散弾が入り交じり、大挙して押し寄せてきた覚醒個体を完膚なきまでに吹き飛ばす。
人間が石ころのように宙を舞う中、その間を駆け抜けたチャイナ娘が"気"を凝縮して淡く発光する右腕を引き絞り、そして思いっきり突き出した。
「粉・砕ッ!!」
「……ッ!!?」
上半身だけ異様に筋肉が発達した覚醒個体の腹に拳がめり込み、その体がくの字に折れ曲がる。
ズンッ!とチャイナ娘の足元に深い亀裂が入ると同時に、覚醒個体の体を凄まじい衝撃波が突き抜けた。
発勁を彷彿とさせるそれは、背後に溜まっていた他の覚醒個体を易々と吹き飛ばして地面に転がした。
ハイキックで白目を剥いた覚醒個体をどけ、気を纏った拳を素早く連打。
打ち出された衝撃波によって、触れずとも次々と敵をぶん殴っていく。
「あぁもうっ!キリないですよこいつらぁ!」
敵の攻撃を躱して昇〇拳をお見舞いしたチャイナ娘───綾桜が独り言ちる。
本来、決して人が立ち入ることがないこの魔王城近辺。
しかし現在は過去一で人が入り乱れていた。
まぁこいつらを"人"と言うべきかはまた別問題なのだが……。
何の前触れもなくいきなり大挙として押し寄せてきたのは、滅びたはずの大犯罪組織・Zが生み出した生きる兵器。
総数50に迫る覚醒個体達だった。
「うきゃっ!?」
「綾桜、喋ってると舌噛むぞ!」
後ろから綾桜の服の襟を引っ張ったのは魔王様だ。
よく見てみると透明化した胴長の覚醒個体が密かに接近しており、危うく脇腹をナイフでぶっ刺されるところだった。
奇襲が失敗したその覚醒個体は、それを嘆くことなく再度隠密に徹してその場から消えてしまった。
キラリと太陽の光を反射したナイフの切っ先を綾桜も目撃したようで、青い顔で頬を引き攣らせる。
「……ハルト、城は大丈夫だった?」
「おう。こっちほど数は多くなかったからな。2、3体残ってるが、そいつらはジーニアに任せときゃ問題ない」
魔王軍の天才科学者様は、新作の巨大ロボを実践で試したくてうずうずしていた。
今頃はきっと、トレーニングルームに覚醒個体をおびき寄せ、その性能を存分に堪能している頃だろう。
隣に着地した愛する青薔薇姫ことシルヴィアの頭を軽く撫で、さりげないイチャイチャワールドを生成する魔王様。
こんな時でもラブラブさは抑えられない。
「しかし……いつか来るとは予想してたが、思ったより早かったな」
「うむ。特段急ぐような事でもなかろうに……」
遅れてやって来た真っ赤なドレスの女性───セレスティアの言葉に、シルヴィも頷く。
「ん。もしかして、焦ってる?」
「焦ってるって……何をです?」
「知らない」
この襲撃自体は、魔王を含めヴィラン連合に所属する面々は全員が予想していた。
何せ"ヴィラン連合"という存在自体が、組織Zからすれば仇のようなものなのだ。
復活したとなれば、まずヴィラン連合を潰しにかかってくるだろう事は分かっていた。
しかし、今回の襲撃はどうもタイミングが早計に思えてならない。
今のところ、ヴィラン連合が幅広く持っている裏社会のネットワークに、"組織Z"が引っかかった痕跡はほとんど無いからだ。
それ即ち、組織Zは裏社会の勢力に頼らず孤立に近い状態で戦力を蓄えている、という事になる。
もちろんヴィラン連合とて万能ではないので、見逃しや干渉しないエリアで細々と裏で糸を引いている可能性も捨てきれない。
けれど組織Zを牽引するあの男ならば、決してそのような行動は取らないだろう。
むしろ表立ってそのネットワークをズタズタに引きちぎるくらいのことは、平気でするタイプだ。
この狡猾さは昔は無かった。
一度敗れた事で考えを改めたのだろうか。
……ともかく、何が言いたいかというと。
「もしかしたら、目的は別にあるのかもな」
「ん、その可能性が高い」
「面倒ですねぇ……」
「面倒だ……」
襲撃そのものが、彼らの目的ではないのかもしれない。
何ならこれはある種の陽動作戦かも。
覚醒個体50程度で、魔王軍の元にやって来たのが何よりの証拠だろう。
まさかこの程度で魔王軍が屈するとは敵も思っているまい。
「……ま、復活したってのは本当みたいだな。気を抜かずに行くぞ」
「ん」
「はいです!」
「うむ」
魔王様とその嫁である幹部達の勢ぞろい。
中々見れるものではない。
改めて気を引き締め、魔王達は群がる覚醒個体の処理に勤しむのであった。
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