行け、バビロンX!
「さて、御託はここまで……。一応私も"仕事"という名目で来ているのでね。いつまでも遊んでいてはあの方に怒られてしまいます」
緊張感の欠片も感じられないコントを繰り広げる秘密結社Xの面々を見かね、オールバックの男はそう宣言した。
片手を掲げ、ピッ!と指し示せば控えていた覚醒個体達が一斉に侵攻を開始。
地面を揺らして砂埃を巻き上げながら秘密結社Xの面々に襲いかかる。
「面倒な……」
顔を顰めたイリスが全身から雷を迸らせ、特大の稲妻を解き放つ。
バリバリッ!!と膨張した放電によって先頭を行く二体の覚醒個体を吹っ飛ばした。
第三者がそれを認識した時には既にイリスはその場におらず、砕けた細かい大地の残骸が宙を舞う。
雷速の飛び蹴りだ。
凄まじいスピードでぶち込まれた足裏が胸にめり込み、異形の覚醒個体が堪らず吐血する。
「やれやれ、物騒なお客さんだね」
全身に炎を纏った男と、緑のスライムを彷彿とさせる液状の覚醒個体がソアレの元に。
どうやらスライムの方はただの流動体ではないようで、ズリズリと這った地面は腐った卵のような匂いを放ちながら溶け落ちてしまった。
ソアレは軽いバックステップで攻撃を躱しつつ、ポケットから取り出した赤色のスイッチをポチッとな。
すると驚くべきことに、ボロっちい廃墟の壁がところどころ回転し、内部から機関銃やスナイパーライフルのような物体が飛び出してきた。
物騒なのは一体どちらなのか。
「ちょっと待って何それ!?」
「いざという時のための秘密兵器さ。いやぁ、役に立って良かったよ」
「ソアレさん、ちょいと後でお話ししましょうね!?」
いつの間にかアジトを魔改造されていたボスさん、敵の攻撃を頑張って避けながら必死に叫ぶ。
一度、アジトがどんな改造を受けたのか絶対に把握する必要がある。
「一号君、二号君。アレは君達が使いたまえ」
「あ、マジっすか!?」
「よっしゃあ!ありがとうございます、ソアレ様!」
ご指名を受けた一号君と二号君が、ひゃっほーう!!と大はしゃぎで廃墟の方に走っていく。
とても二人で扱い切れる数ではないが、総合的な取り扱いを中央パネルに集約しているため、上手く活用すれば少ない人数でとてつもない戦力となるだろう。
まぁそこら辺は二人に任せるとして……。
「待ちたまえ、ボス。最後にもう一つだけ」
「まだあんの!?」
まだ中に残る大切な大切な小雪ちゃん達を守るため、アジト全体を絶対防御である紫のキューブで覆おうとしたボスに、ソアレがストップをかけた。
まだ何かするつもりなのか。
半裸の女性が液体を操作し作り上げた水の刃を真剣白刃取りで受け止めながら、ボスは愕然とする。
聞いてない。
何も聞いてないのだ。
報・連・相!これ大事!
「まぁまぁ、君も気に入るはずさ」
「本当かな……」
半裸の女性をノックアウトしたボスが、疑わしげな視線をソアレに向ける。
しかしそんなものは何のその。
ふっ……!とマッドな笑みを浮かべたソアレは、天に右腕を掲げ渾身のフィンガースナップ。
それに合わせて、廃墟の前方の地面がガコンッ!と一段低くなった。
軽い振動を繰り返しながら低くなった地面が側方に収容され、横幅10m程の大きな穴が露わになる。
これはカタパルトだ。
「おや……」
オールバックの男も興味深そうに見守る中、その穴から射出されたのは男児のロマンそのものだった。
太陽の光を反射して輝くメタリックボディ。
角張った肩パーツにはデフォルメした秘密結社Xのロゴが刻まれており、各部のクリアパーツは黄金に塗装。
背部から噴出したエネルギーにより擬似的な飛行を可能とし、展開した機械的な翼からはエネルギーフィールドが展開される。
額のX印は、我らが秘密結社のトレードマークだ。
「こっ、これはッ……!?」
迫真の表情で拳を握るボス。
もちろん片手間に覚醒個体をボコるのも忘れない。
ボスから求めていた反応を頂戴したソアレは、上機嫌にマッドな笑みを浮かべながら叫ぶ。
「さあ行け、"バビロンX"!!栄えある初舞台さ!」
主人の命令を受け、紅の瞳を輝かせたバビロンXが背部からパージしたパーツでロングソードを構築する。
そう、実はソアレ。
序盤で失敗した実用的な巨大ロボの開発を、密かに続けていたのだ。
そして完成したのが、このバビロンX。
基礎スペックや武装は初期とさほど変わらないが、量産が視野に入るほど安定した生産ラインが確立しており、暴走の危険性も皆無と言える程に突き詰められていた。
ちなみに搭乗者は三号君である。
飛来したバビロンXによるロングソードの一振で、覚醒個体が一気に薙ぎ倒される。
「ちょ、ソアレさん!あれ俺も乗りたいんですけど!」
「構わないけど、君はまず因縁を片付けたらどうだい?」
「ぐぅ……」
ギリギリ「ぐぅ」の音は出た。
だって因縁とか言われましても……。
チラリとオールバックの男の方を見ると、彼もまた感心したように暴れ回る巨大ロボを見上げていた。
入り乱れる戦場にも関わらず、その中心に立つ彼は棒立ちで腕を組んだまま。
無防備にも程がある。
当然、それが見たまんま無防備では無いことくらい、ボスは理解していた。
「ふんぬっ!!軽い軽い!鍛え方が足りないですぅ!」
ボコボコと肥大化した拳を片手で受け止め、反撃のラッシュを異形の覚醒個体に叩き込んだウルフちゃんが、狼耳を荒ぶらせながら叫ぶ。
その間にも軽く身を屈めて斬撃を回避し、非常に躍動感溢れるカポエラのような動きで敵を蹂躙する。
相当テンションが上がっているのか、その大立ち回りは加減を知らない。
強烈な飛び蹴りを繰り出して着地したウルフちゃんが、狼耳と尻尾をぶわっさぁ!とたなびかせた。
「はあっ!」
その横を、八咫烏ちゃんが放った暴風が駆け抜ける。
覚醒個体を巻き込みつつ、その暴風は無言で佇むオールバックの男をも呑み込んだ。
ところが……。
暴風が男に命中した途端、目を疑うようなことが起こった。
「なっ……!?」
跳ね返ってきた。
そう表現するのが正しいだろう。
一瞬にして、暴風の進行方向が変わったのだ。
オールバックの男を起点にしてそっくりそのまま跳ね返ってきた暴風が、覚醒個体を呑み込み八咫烏ちゃんに迫る。
予想外の挙動に一瞬驚いたものの、八咫烏ちゃんはすぐに我に返り同じ暴風によって跳ね返ってきた暴風を相殺した。
制御を失った風が吹き抜ける中、舞い上がっていた覚醒個体一体がドチャッ!と地面に落下。
そのまま動かなくなった。
「おーい、あいつに攻撃する時は気を付けてねー!〈全反射〉とかいうチート能力持ってるからー!」
「了解っすー!」
全反射。
名前の通り、受けた攻撃をマルっとそのまま跳ね返す能力だ。
発動条件は薄っぺらい膜のようなシールドに触れること。
オールバックの男は、常に全身にそのシールドを纏っている。
そのため攻撃を当てるのは困難を極めるのだ。
「中々頑張りますね。ですが……この物量差、どう覆すおつもりでしょう」
オールバックの男が手を掲げると、まさにウルフちゃんが殴ろうとしていた筋肉ムキムキな覚醒個体の前に、半透明の薄いシールドが構築された。
ウルフちゃんは反射的に拳を止めようとしたが、あまりに寸前だったことで間に合わず、思いっきりそのシールドを殴ってしまった。
直後、ウルフちゃんの頬を強烈な打撃が穿つ。
「ぺっ……!なるほど、さすが私の打撃ですぅ!」
口内出血したらしく、血の混じった唾を吐き捨ててウルフちゃんが呟く。
続いてオールバックの男は空中に角度を付けたシールドをいくつも展開。
そこに覚醒個体がビームを吐き出した。
シールドの間で乱反射したビームの威力が増幅、バビロンXの胴体に命中する。
幸いなことに貫通はしなかったが、一部のパーツが黒煙を上げて破損してしまった。
「おや、存外硬いものですね……」
男は顎に手を当てて関心した様子を見せる。
反射の能力の応用。
とてつもなく面倒な相手であることは言わずもがな。
覚醒個体のみならまだしも、この男が居ることによって迂闊に手が出せなくなってしまった。
自分の攻撃を反射されて自滅するのが一番避けたい。
当然、攻めは慎重にならざるを得なかった。
「このっ……!」
向かってきたボスの攻撃をヒラヒラと躱しながら、オールバックの男は胡散臭い光を宿したその瞳をすっ……と細める。
モノクル越しの瞳は、こことは別の光景を写していた。
もうもうと白煙を立ち昇らせる、魔王の城を。
なんか不穏な終わり方ですね……。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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