黎明の夜明け
薄暗い通路に、コツ……コツ……と足音が響く。
敷き詰められた滑らかな大理石にはステンドグラスから虹色の光が落ち、仄かな日光が窓際を照らしている。
ふと歩みを止めた男は、僅かに開いた窓の隙間から入り込む風で漆黒のマントを揺らしつつ、澄んだ青空を見上げた。
張り付いた胡散臭い表情。
一見すると人当たりの良さそうな穏やかな印象を受けるが、モノクルの奥の瞳に宿る感情は上手く読み取れない。
「───なんか、忙しそうだねー」
どこからともなく聞こえた声に、金髪オールバックの男は表情を崩さぬまま肩をすくめて答えた。
「ええ、まぁ……。ですが、これは私自身が求めた条件ですから。あまり愚痴は零せませんよ」
よく見ると、バルコニーから入り込んだ光が一切当たらず影となった場所に、何者かが佇んでいた。
一体いつからそこに居たのだろう。
姿形は拝むことが出来ないが、うっすらと浮かぶ輪郭からしてかなり小柄に思える。
特にオールバックの男と対比すると小中学生と間違えても仕方がない程の差があった。
「それはそうと、もう出歩いて大丈夫なのですか?封印の副作用が面倒だと聞きましたが」
「君、僕達を舐めすぎ。人間みたいに脆い生き物じゃないんだから、もう不自由の欠片も無いよ」
「そうですか」
恐ろしいことだ。
実際、彼の身体構造は人間どころか覚醒個体すら比較にならない。
人工的でありながら、限りなく完璧に近い肉体を彼は持っているのだ。
人智を超越した力の前では"面倒"と評される副作用も無いに等しいらしい。
「退屈そうですね」
「そりゃねー。あの方からは待機命令出されてるし……リハビリ代わりに用意されたヒーローも雑魚ばっかりだし。マジつまんない」
「じきに楽しいことが起こるではないですか」
「僕は今楽しみたいの」
「それは困りました」
オールバックの男は頭を悩ませるような仕草を見せる。
もちろん、それが盛大なフリである事を誰もが理解している。
この男は見た目ほど人の良い性格はしていない。
むしろ逆だ。
「あの方は何かの開発に忙しいらしくてさぁー……。なんか僕達にまで教えてくれないんだよね、その正体。君は何か知らない?」
「あなた方が知らないことを、私の立場で知ることなど出来るはずがありませんよ」
「あっそう」
何者かは不貞腐れたように壁に寄りかかる。
「では、私はそろそろ……。あまりのんびりとはして居られませんので」
「ちぇっ。一人だけ楽しそうなことしやがって……。え〜と何だっけ、その……"ファントム"だっけ?強いの?そいつ」
影に佇む何者かの問いに、オールバックの男は歩を進めながらこう答えた。
「ええ、もちろん。あなた方もよく知っているはずですよ」
「?」
意味深な答えに、何者かは影の中で首を傾げた。
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