ボスの素顔、解禁……!
フードを脱ぎ、仮面に手をかけたボス。
簡易的な留め具が外され、ついにその素顔が露わになる。
「……」
妨げなく晒された深紅の瞳を細めつつ、ボスは手に持った仮面をじっと見つめる。
能力を解除。
すると、薄っぺらい無機質な仮面は端から光の粒子に分解されて消滅してしまった。
ボスが常時身につけていたあの仮面もまた、ボスのコピペ能力によって生み出された複製品だったのだ。
「やっとか……。待ちくたびれたぜぇ、ファントムちゃんよぉ!」
狂気で頬を歪ませたブレンが、鉈のように骨太なナイフを振り払い叫ぶ。
爛々とギラつくその瞳は、ボスを見つめて決して離さない。
思わず呑み込まれてしまいそうな底知れない漆黒。
邪悪を体現したかのごとき殺気がボスの肌を刺す。
しかし、ボスの瞳は一切揺れることなく静寂に満ちていた。
まるで波風一つ立っていない水面のようだ。
仮面を外したことで露わになったボスの素顔は、驚くべきことに凄まじく整っていた。
以前どこかで言っていた通り、正統派なクール系イケメンとでも表現するべきか……。
普段のおちゃらけた雰囲気からは想像も出来ないような、イケた顔面の持ち主だった。
「……特撮よろしく、変身中は攻撃してこないタイプか?余裕だな」
「目の前に人参が垂らされると分かってたら、わざわざそこから動くわけねぇだろ?俺ぁ楽しみたいのさ、殺し合いをな!」
ボスが新たにコピペしたのは飾りっけのないダガーだ。
完成したその柄を握ると同時に、全身から稲妻が溢れ出しスパークする。
対してブレンはボコボコと変形した異形の腕を振り回し、手のひらから毒々しい液体を大量に放出。
その矛先は当然、構えたボスの方に向く。
「おらァ!!」
押し寄せた液体がドパァンッ!!と波打ち、津波のように盛り上がってボスに覆い被さる。
刹那、一筋の青い稲光が閃いた。
津波の上部に風穴が空く。
それを認識した時には、ブレンは首に重い衝撃を感じていた。
「ぐあっ……!?」
ミシッ……!と首の骨が軋む音。
地面を転がる合間にブレンが垣間見たのは、いつの間にか背後に回ったボスが脚を振り抜く姿だった。
ブレンが即座に受け身を取って体勢を立て直す。
顔を上げた時には、稲妻を迸らせたボスが既に眼前に迫っていた。
「ぐっ……!はっはァ!!流石だぜぇ、ファントムちゃァアん!!」
途端に、ブレンの体から吹き出した黒霧。
一段と増した威圧感をビリビリと感じつつも、ボスは動きを止めない。
雷速で駆け回りダガーを振るう。
「───おっと!」
ギィインッ!!と耳障りな金属音が響き渡り、衝突したナイフとダガーの間で火花が散る。
はためく漆黒の外套に隠された左の貫手がボスの頬を掠めた。
人間がギリギリその光景を認識出来る頃、ボスは既に雷速でブレンの背後へと回っていた。
ところが……。
────ギンッ、ガギィインッ!!
再度、攻撃がパリィされた。
どんな角度からどのような攻撃をしようと、凄まじい精度でブレンが先回りし確実に攻撃を捌いている。
まるでそこに攻撃が来ると、事前に分かっているかのような動きだ。
立て続けに金属音が鳴り響いた末、不意を突いたボスのサソリ蹴りが見事にブレンの顔面にヒット。
たたらを踏んだブレンは血の混じった唾を「ぺっ」と吐き出す。
「へいへい、こんなんじゃ軽すぎるぜ!愛しのハニーに寝起きのキスでもしてんのかァ!?おらっ、もっと熱いのをぶち込んでこいよォ!!」
空いた左手でクイクイッとボスを招く。
挑発でよく使われる仕草だが、こと今回に関してはブレンにその意は全く無いだろう。
本気でもっと強烈なアタックを求めている。
ブレンは思いっきり振りかぶったナイフを力強く振り下ろした。
凄まじい轟音と共に地面が派手に砕ける。
かろうじて避けたボスだが、直後に胸ぐらを掴まれてしまった。
問答無用で引き寄せられ、強烈なヘッドバット。
常人ならば確実に頭蓋が砕けるであろう威力に、さすがの本気モードのボスも顔を顰める。
額には淡く血が滲んでいた。
「オラオラァ!!」
胸ぐらを掴まれたままサンドバッグのようにナイフで滅多打ちにされ、終いには体重を乗せた叩き付けだ。
しっかりと太い腕で喉を圧迫され、吐血。
苦悶に歪む表情と愉悦に満ちた表情が交差する。
「……おっ!?」
ところが、その直後にはボスの姿が掻き消えた。
力をかける対象を失ったブレンが前方につんのめったかと思えば、側面から吹き付けた暴風に押し退けられ派手に地面を転がる。
「おわっ、とぉ!?」
突き立てたナイフでガリガリと地面を削りつつ勢いを殺すと、ブレンは振りかぶった腕を地中に突っ込んだ。
腕に密着した土の隙間から淡い閃光が溢れ出す。
────ドゴォオンッ!!!
轟音。
爆音。
地面が捲り上がる大規模な爆発が生じ、辺り一帯を瞬時に更地に変化させた。
砕けた瓦礫が散弾のように飛び散る中、ブレンは神経を極限まで研ぎ澄ます。
コンマ数秒の静寂。
ブレンはそれを確かに察知した。
「───あァッ!?」
満を持して振り払ったナイフは虚空を切った。
驚きのあまり、ブレンは素で声を上げてしまった。
その瞳は驚愕で満ちている。
事実だけで言えばブレンの勘は正しかった。
確かにボスの居場所を的中させたのだ。
しかし、ボスの方が一枚上手だった。
リンボーダンスのように体を倒すことでギリギリ斬撃を回避したボスは、地面に手をつき、つま先を立てた強烈な横蹴りを繰り出す。
それは言わば貫手が突き刺さるのと同義。
脇腹から臓腑まで鋭利な痛みが貫く。
吐血は必須。
しかし、ブレンの狂気に満ちた笑みは深まるばかりだった。
「そうっ!これだッ!!この痛み!この昂り!これこそ闘いの醍醐味だよなァアア!!!」
ハイになって叫ぶブレンの眼前で、パリッ!と稲妻が瞬く。
いつの間にやら、体勢を立て直したボスが左の手のひらをブレンの腹に密着させていた。
視線が交差する。
直後、ブレンの腹を凄まじい衝撃が貫いた。
発勁を彷彿とさせる強烈なインパクト。
ブレンの体は易々と吹っ飛ばされ、地面を転げ回る。
さらに雷速で迫るボスを、ブレンが迎え撃とうと転がる勢いを利用して起き上がった瞬間。
後退の勢いが不自然に弱まり、やがて完全に止まってしまった。
明らかに物理法則を無視した動き。
「!?」
ブレンが眉を顰めた刹那、今度は凄まじい力で前方に引っ張られた。
まるで万力に引かれているような……。
「"震天"ッ!!」
引力×雷速に迫る加速×空間を砕く打撃。
暴力的なまでの数字を掛け合わせた最強の妖怪直伝の打撃が腹にぶち込まれ、ブレンは危うく白目を剥く所だった。
空間のヒビが修復される中、千切れ飛んだ紫の炎がゴゥッ!と野太い唸り声を上げる。
「ゴブッ……!!」
多量の吐血。
手のひらから零れ落ちた血がビチャビチャと地面を染める。
「ゲホッ……はっはァ!!まだまだァ!!」
瞳をギラつかせて、ブレンはナイフを振り払う。
その挙動は微塵も衰えていなかった。
むしろ冴え渡っているくらいだ。
逆袈裟斬りの要領で刻まれた傷から血が吹き出す。
「ぐえっ……!」
ブレンはボスの首を握り締め、ギリギリと凄まじい力で締め上げる。
おそらくそのパワーはプレス機にも匹敵するだろう。
メキメキと嫌な音が鼓膜を震わせる。
さらにブレンの腕はボコボコと膨らんでもはや原型を留めておらず、ボスの頭部を呑み込まん勢いで肥大化していく。
「おオらァアッ!!」
宙ぶらりんで無防備な状態のボスの腹に、ナイフが深々と食い込む。
おそらく内臓に達する、深い……それはもう深い斬撃だ。
ボスは派手に吐血。
鮮血が変形した腕を伝ってブレンの眼前に滴り落ちる。
変形した腕の一部が盛り上がり、化け物の口が構築された。
その口は埋もれつつあったボスの頭を食いちぎらんと、鋭い牙をギラつかせる。
「ゲホッ……食われて、たまるかっ!」
ボスがそう口にすると同時に、右手に持ったダガーが光の粒子となって消失。
光の粒子は、コピペ能力によって西洋風の片手剣に姿を変えた。
逆手に持ったそれを、ボスは呑気に大口を開ける化け物の口に突き刺した。
「ぐあっ……!」
ブレンの表情が歪む。
拘束が緩んだその一瞬の隙を逃さず脱出すると、そのままブレンの腕に脚を絡みつけ、関節とは逆方向に体重を乗せて思いっきり倒した。
瞬間、ボギィッ!!と耳を打つ異質な音。
日常生活ではまず聞くはずのない異音だった。
近いのは木の枝を折る感触だろうか。
その何倍も野太く生々しい音が鼓膜を打った。
ボスが飛び退くと、ブレンは変な方向に折れ曲がった腕を押さえて後ずさる。
さすがに怯んだのか?
否。
俯いた顔が上げられると、そこに張り付いていたのは不気味なまでに歪んだ笑みだった。
「最っっ高だぜェ!!ファントムちゃんよォオオオオッ!!!」
再構築された腕が荒ぶって元の形に戻り、さらに肥大化する。
ドンッ!と地を踏み砕く程の踏み込みで迫るブレンの威圧感は、鬼気迫るまさに"化け物"そのものであった。
もちろんボスも負けていない。
構えた片手剣から眩い光を迸らせ、渾身の突きを繰り出す。
「うおおおおおッ!!」
「はあああああッ!!」
片手剣の切っ先とナイフが勢いよく衝突。
凄まじい衝撃波が撒き散らされ、生じた火花が次々と背後に送られていく。
「はっはァ!!どうしたどうしたァ!!腰が引けてるぜェ!!」
ブレンの全身から吹き出す黒霧は、まるで恐怖を象徴する"闇"そのものであるかのようだった。
押し付けられる凄まじい圧力に、ボスの腕がジリジリと下がっていく。
勝敗が決する───。
まさにそう思われた刹那、メラッと湧き上がりボスの周囲を照らす輝きがあった。
揺蕩う紫色の炎。
そう、九尾の炎である。
ボスがコピーした中でも最上級の能力。
その炎が、ボスの背中を押す。
「はっ、あ、ああああッ!!」
瞬間、ピシッ……!と響き渡った澄んだ音。
よく見ると、片手剣の切っ先が触れたナイフの刃に小さなヒビ割れが生じていた。
それは一瞬で拡大し、瞬く間にナイフ全体に広がっていく。
そして。
「うおっ……!?」
ガジャアアンッ!!と音を立てて、ナイフが粉々に砕かれた。
一切の勢いを削がぬまま、紫の炎を帯びた光り輝く切っ先がブレンに迫る。
反射的にかざした異形の腕をぶち抜き、ブレンの左肩に切っ先がくい込んだ。
顔面に当たるはずの攻撃を咄嗟に躱した時点で恐ろしいことこの上ないが、その代償は大きかった。
────ザンッ!!
肉を裂くえも言えぬ感覚。
直後、大量の血と共にブレンの左腕が宙を舞った。
ボス、まさかのイケメン……。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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