覚醒個体とハイな外国人
黒霧を切り裂き、姿を現した大柄の外国人。
漆黒の外套をはためかせ、狂気的な笑みをギラつかせる。
「お前は……」
ボスはその男に見覚えがあった。
あれは確か……。
弾かれ、距離を取って着地した男をボスはじっと見つめる。
どうやらボスが自分のことを覚えてくれていたことが嬉しかったようで、男もまた鉈のように骨太なナイフの峰で肩を叩きつつ、歪んだ口角で喜びを露わにした。
ところが。
「……誰だっけ」
「あぁ!?」
ボス、まさかのド忘れ。
結構ガチめの困惑を滲ませた表情で、はてと首を傾げる。
先程までのシリアスな雰囲気なんて何のその。
これにはハイになっていた大柄の男でさえも、思わず萎えざるを得なかった。
「おいおい、そりゃないぜぇ〜……。俺だよ、おーーれ!この顔に見覚えあんだろ!?」
「なるほど、心理的に揺さぶってくるタイプの新手のオレオレ詐欺か。最近のは斬新だなぁ」
「うっそだろ?マジで覚えてないのか?」
割と本気でショックを受けたらしく、見るからにしょげた仕草をする大柄の男。
さらっとそれを無視して、ボスは男の左右に佇む二人組に視線を巡らせていた。
片や、囚人服のように簡素なデザインの服を身に纏い、首にバーコードのような刺青を彫った細身長身の男。
目にハイライトが入っておらず、不気味な気配を感じる。
もう片や、ダボダボの明らかにサイズが合ってないパーカーを羽織った少女。
こちらはシャツの腹部に大きな穴が空いており、そこから見える少女の腹には鋭い牙の並ぶ化け物のような口がくっ付いていた。
前髪が長すぎて表情は窺えない。
以上二名の様子を確認したボスは、フード越しに後頭部を掻きながらため息をついた。
「……いや、悪かった。今思い出したよ」
もちろん嘘だ。
本当は初めから覚えていた。
しかし男はボスの嘘など知ったことでは無いようで、ぶつくさと垂れ流していた文句をスッと引っ込めた。
「あの時……デモンソウルズのコンサートに割り込んできた武装集団のボスだろ?」
「あん?あいつらそんなグループ名だったのか……。まぁ、そいつァどうでも良いよな!んで、ご名答ぅ!俺の名前は"ブレン"!会いたかったぜぇ、ファントムちゃんよぉ!!」
ブレン。
この男は以前、ボスが訪れた天下のアイドルグループ・デモンソウルズのコンサートに乱入し、立てこもり事件を起こした。
あの時はボスやラプラスの家所属ヴィランのテンパライ、秘密結社Xの面々の活躍によって事なきを得たのだが……。
しかし残念ながら逃がしてしまった肝心の主犯こそ、まさにこの男。
ブレンなのである。
「……お前が、なんでこいつらと一緒に居るんだ?」
ボスが真剣な表情で問う。
ブレンの左右に佇む男女。
この二人は、本来存在するはずがない人物なのだから。
「んまぁ、簡単に言えばビジネスパートナーってやつさ。"覚醒個体"……だっけ?まぁ安心しろよ、俺ぁノンケだからな。こいつらには別に興味ねぇんだわ」
「……」
ちょっと言い方が引っかかるものの、特段嘘をついている気配も感じられなかった。
本当に彼は組織の中枢までは入り込んでいないのだろう。
もしかしたら、組織の者が傭兵のように雇ったのかもしれない。
可能性としては充分にありえるだろう。
「489号に……862号か。随分とまた開発が進んでるじゃないの」
苦々しい表情で皮肉を込めて吐き捨てたボスだが、それが無意味なのは自分がよく分かっている。
彼らの生みの親がこの場に居ない以上、何を言っても馬の耳に念仏である。
「何がどうかはさっぱり知らねぇが………ま、御託はここまでにしようぜ?せっかくの殺り合いだ!楽しんでいこうかァ!!」
男の体からブワッ!!と黒霧が吹き出すと共に、二体の覚醒個体がボスに襲いかかった。
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