紅葉狩りだぁ!
「ぜぇ……ぜぇ……ま、まだまだぁ!」
「膝が笑ってますよ、ボス」
棒切れを杖代わりに、震える足取りでふらふらと歩を進めるボス。
隣を歩くイリスから呆れ混じりのツッコミが入る。
普段からの運動不足が祟ったのだろう。
一人だけあからさまに体力の消耗が激しく、ひぃひぃと悲鳴を上げる様は非常に情けない。
一方で……。
「ふんふふ〜ん♪ あっ!ソアレさんソアレさん、見てください!あそこにおっきなキノコ生えてますよ!」
「ま、待ちたまえウルフ君、少し休憩を……」
おっと、こちらにも体力皆無のインドア派が居た。
我らが秘密結社Xのマッドサイエンティスト、ソアレさんである。
白衣の下のクソダサTシャツを汗でびっしょりと濡らしつつ、荒い息を繰り返している。
そんな彼女の手を引くのは、メンバーの中でも特に元気なウルフちゃんだ。
平地を歩くのと変わらない勢いで緩やかな斜面を駆け登り、路傍に生えた巨大キノコを観察している。
周囲では他にも、八咫烏ちゃんと小雪ちゃんが手を繋いで仲睦まじく歩いていたり。
ミケがボスに構ってもらうため子猫形態に変化したり。
チェリーちゃんに触発されたエックス戦闘員達が奮起したりなど。
見ての通り、本日は秘密結社Xのメンバー総出での、大規模なお出かけを実施しているのである。
「も、もうちょいで着くと思うから……はぁ、はぁ……皆、頑張ろー……」
「大丈夫ですか?」
「もち……」
本当だろうか?
頑張ろうと言った本人が一番頑張れそうにないのだが……。
今にもぶっ倒れそうな青い顔でサムズアップするボスに、イリスは心配と疑わしさが混在する瞳を向ける。
本日彼らが訪れたのは、都内から少し離れた場所に佇む標高1000mも無い小さな山だ。
ここは何を隠そう、かの最古参ヴィラン・九尾の息がかかった土地であり、滅多に人間が訪れることのない幻の秘境。
ボス達は人里離れたこの地に、紅葉狩りにやって来たのだった。
事の始まりはつい先日。
魔王が旅行に行ったと、ゼロから伝え聞いたことがキッカケだった。
ゼロによると、なんと魔王は嫁達を連れて、所有する山のロッジに4泊5日の旅行に行っていたらしいのだ。
旅行中には贅沢な肉をふんだんに使ったBBQも行われ、オシャレなロッジを背に高級肉を堪能する姿が、とある有力な情報筋によって隠し撮りの写真付きでゼロにリーク。
そのゼロからの共有でボスも知ることになった。
まず"所有している山"って何やねんとツッコミたいところだが、ボスがそれ以上に羨ましく思ったのがBBQだ。
高級肉を始めとした豪華ラインナップの食材に囲まれ、とても楽しそうに食卓を囲む魔王軍の面々。
財力の差を感じると同時に、ボスは嫉妬した。
そして決心した。
うちもBBQで夫婦みたいなイチャラブしてやらぁーーっ!!と……。
「もちろんアルコールも完備……!火照る体!溶ける理性!そしておあつらえ向きの小さな密室!酒の勢いは間違い!?そんなの知ったことか!いざ、酒池肉林のパラダイスへ……!!」
「元気そうなので置いていきましょうか?」
「すんません、見捨てないで」
おや、お恥ずかしい。
どうやら心の声が漏れ出ていたようだ。
イリスの冷ややかな瞳がボスの後頭部に突き刺さる。
今ここでイリスさんに見捨てられると目的地に到達出来ず、志半ばで野垂れ死ぬ可能性が特大。
少なくとも到着するまではイリスさんに見限られる訳にはいかないのだ。
いや到着してからも構っては欲しいのだが。
「───あっ!ボスさんボスさん、見えてきましたよ!」
先行していたウルフちゃんが、最後尾のボスにも聞こえるよう叫んだ。
どうやらこの急勾配な斜面を登り切れば、目的地はもうすぐそこのようだ。
ボス、最後の力を振り絞ってラストスパート。
リュックに乗っかったミケの些細な重さを感じつつ、今までよりもさらに力強く地を踏みしめる。
そして───。
「おお……こりゃ凄いな」
「はわぁ〜……とっても綺麗です〜!」
「頑張った甲斐があるっすね〜」
ボスに並んで、小雪ちゃんと八咫烏ちゃんも感嘆のため息をつく。
目の前に広がっていた光景は息を飲むほど美しかった。
紅と黄色が入り交じった巨大な傘に、ぽっかりと空いた小さな空間。
幾重にも散り積もった落ち葉が、大自然のレッドカーペットを作り上げ辺り一面を染め上げている。
奥に見えるロッジはアンティークな作りで趣があり、どこか儚げな景色とは非常にマッチしていた。
それ以外に何も無い。
けれど、この"何も無い"というのがまた風情を感じさせて素晴らしい。
八咫烏ちゃんの言う通り、大変な思いをして登山してきた甲斐がある絶景がそこには広がっていた。
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