表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の秘密結社は今日も平和です!  作者: ぽんすけ
八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/139

デカ過ぎんだろ……




「うぇえええっ!?ふっ、不審者でござるーーっ!?」



静寂を極めていた森林に女性の絶叫が響き渡り、驚いた小鳥達が騒ぎながら飛び立つ。

バサバサと翼が揺れる音を他所に、驚愕で頬を引き攣らせた袴姿の女性は震える手で、茂みから姿を現した黄金のカブトムシを指差している。

正確には、カブトムシ(着ぐるみ)の腹から顔を覗かせているおっさんを、だが。

おっしゃる通り不審者。

紛うことなき不審者である。



「不審者とは失敬な。おっちゃんは泣く子も黙る"万じぃ"だぜィ?(れっき)とした釣り人よォ」

「どこが"(れっき)とした"でござる!?ちょ、ファントム殿!この変な御仁は知り合いでござるか!?」

「え?いんや、そこら辺でエンカウントした化け物。たぶん怪異の一種かと」

「なんてもの拾ってるでござるか!早く元居た場所に戻してくるでござるよ!」

「オカンか」



まるで捨て猫を拾ってきた我が子に説教する母親かのようだ。

ガチめにドン引きした袴の女性───八雲は、さも当たり前のように隣の怪異を受け入れているボスに、驚きを隠せないらしい。

一応言っておく。

ボスは受け入れたのではない。

諦めたのだ。

このおっさんについて理解しようとする事を。



「この御仁、何者でござるか……?」

「知らん」

「さあ……」

「二人とも正気でござるか?」



割とマジトーンで正気を疑われた。

ボスとウルフちゃんがそろって首を傾げる様子に、八雲はスンと真顔になって気は確かかと問うた。

得体の知れない相手とこんな所まで一緒に来たというのか。



「ごめん、このおっさんは見なかったことにして欲しい。話が進まん」

「ですねぇ。追求するとキリがありませんし……」

「ま、マジでござるか……」



八雲の表情が再び引き攣る。

()()を無視しろと?

チラリと視線を向けると、黄金のカブトムシの着ぐるみを被ったおっさんが渋い声で「どォした〜」と聞いてくる。

うん、無理。

さすがにそこまでのスルースキルは無いので、八雲は内心で悲鳴を上げるのだった。



「それで、八雲はどうしてここに?」

「え?あ、本当にスルーなんでござるな……。え〜、おほんっ。実はつい先日、浮浪先で面白い情報を手に入れたのでござるが───」



八雲によると、数日エヴァントラスから離れて大陸を浮浪していたところ、とある田舎町の怪しい老婆から面白い情報を手に入れたそうだ。

それが、この無人島の湖に住む"主"に関するものだったようで。

遥々日本にやって来て無人島を探索していたらしい。

そして"主"を釣るため湖のほとりに腰掛け三時間。

もしかして場所が違ったのかと思い始めた頃、湖の主とは違う化け物がいつの間にか背後に立っていたと来た。

そりゃあ絶叫したくもなるというもの。



「ほ〜ん……。八雲も主が狙いだったんだ」

「"も"?もしかして、ファントム殿とウルフ殿も湖の主を釣り上げに?」

「ああいや、俺達は財宝探しに。主が目的なのはおっさんの方だよ」

「反応に困るでござるな……」



キメ顔のおっさんと微妙な顔の八雲。

表情のコントラストが顕著だ。



「大和美人な嬢ちゃん、餌は何付けてんだァ〜?」

「ふ、普通の練り餌でござるが……」

「それじゃあだめだァ〜。湖の主はグルメでよォ……あいつが食う餌は()()()くらいだろうぜェ」



おっさんが取り出したのは、なんと驚くべきことに巨大な(こい)だった。

……一体どこからその鯉を取り出したのか?

ボス達は漏れなくその疑問が頭の隅に浮かんだものの、ツッコんだら負けだと思い、全員仲良く脳内から余計な思考を追い出した。



「これ、竿折れません……?」

「安心しろォい……どの道、主がかかればどんな高級竿だろうが即座にお陀仏よォ〜」

「何も安心出来ねぇ……」



ボスが頬を引き攣らせる。

おっさんの話からかなりの大物だと予想はしていたが、通常の釣竿では太刀打ち出来ないとなると……。

以前出くわした海獣・クラーケン並の化け物が、この湖には住んでいることになる。

餌の限られる井の中の蛙状態でそこにまで至ったというのが恐ろしい話だ。

八雲が餌を付け替え、再び湖の中に垂らす。



「これで本当に釣れるでござるか……?」

「おっちゃんを信じろォい」

「今のところ信じられる要素が皆無なのでござるが」



とにかく見た目が酷い。

誰がどう見ても変人だ。

即通報案件である。

八雲の半目がおっさんに突き刺さる中、不意に垂らしたばかりの釣り糸がピクピクッと反応を示した。

直後、信じられない程の力でグンッと引っ張られる。



「うえぇっ!?何でござるか!?」

「来たぞ、主だァ〜!」

「はやっ!?なんか釈然としないでござるーっ!」



餌を変えた途端、即座にヒット。

自分の三時間の耐久はなんだったのかと、八雲はえも言えぬ不服感を力に変えて思いっきり釣竿を引っ張る。

だが、しかし。



「ちょ、これ、重すぎではござらんか!?」

「よっしゃ、俺達も加勢するぞウルフちゃん!」

「了解ですぅ!」

「よぉし、気を緩めるなァい!ケツを引き締めて腰を沈ませろォい!」

「いや応援してないであんたも手伝えよっ!」

「この格好じゃ無理に決まってんだろォ」

「じゃあ何でその格好で来たの!?」



本当に謎だ。

主が目的なのに、自分一人じゃ釣りすら出来ない格好で来たと?

いやもう本当に、謎だ。

て言うかさっさとその着ぐるみ脱げ。



「あっ、折れたでござるぅ!?」



凄まじい攻防の末、木の釣竿はあっさりと折れてしまった。

バギィッ!!ともがれた釣竿の先は勢いよく水中に引きずり込まれ、二度と上がってくることはない。

シュンと落ち込む八雲であったが、直後に穏やかだった水面に異常が発生した。

謎の波紋が広がり、ズモモッ……!と湖の中央が大きく盛り上がったのだ。

みるみるうちに水が押し退けられ、撒き散らされた水滴がキラキラと周囲を彩る。



「「「………」」」



おっさんを除く三人は絶句した。

25mプールを軽く上回る巨大な湖に住む主。

元々、尋常ではない大きさだと予想はしていた。

それにしても、これは……。



「───デカ過ぎんだろ……」



ボスがぽつりと一言。

そう、あまりにも大きすぎた。

ついに姿を現した湖の主。

見た目はまんまナマズだ。

特徴的なのっぺりとした顔に長い髭。

丸々と肥えた腹は水の膜を帯びて艶めきを放ち、クリクリとした可愛らしい小さな瞳はしっかりと陸上の敵を捉えている。

肝心のサイズは……大きすぎてよく分からないが、だいたい25mプールにピッタリと収まる大きさと考えればちょうど良いかもしれない。



『………』



どうして、釣り糸を引きちぎったのに自ら姿を表したのか。

その疑問が釣り人達の脳裏に浮かぶより前に、大型のナマズは無言のまま接近してきた。

そのスピードはかなりのもので、完全にこちらをその立派な腹で押し潰す気満々だった。

ボス達が慌てて森林の方に後退すると、遅れてナマズの腹が湖のほとりに叩き付けられ、砕けた岩や土の破片が宙を舞う。



「なっ、なにぃいーーーっ!?」

「陸上を走ってますよ、あのナマズ!」

「まさかの両生類でござるか!?」



前足(ヒレ)を上手く使い、陸上に上がったナマズがドスドスと地を揺らしてボス達を追う。



「むぅ……!先手必勝でござる!」



バックステップで距離を取った八雲が、一転して鋭い踏み込みで一気に距離を詰め、目にも止まらぬ抜刀でナマズの腹を切り裂かんとする。

ところが。



「むっ!?これは……!」



なんと、スルリと黒光りするナマズの肌を裂いた刃が、途中で止められてしまったのだ。

硬いというのもあるが、凄まじい馬鹿力でその場に押し止められているかのような感触。

それに対して、妙に冷静だったおっさんが追加の解説を寄越す。



「主は一見太ってるように見えるが……その中身は八割が筋肉だァ。そう簡単には切れやしないぞォ〜」

「なるほど……さすが"主"と呼ばれるだけあるでござるな!」



刀を引き抜き、寝転がり攻撃を避けて八雲は距離を取る。



「筋肉には筋肉で勝負ですぅ!」



木々を利用して高く飛び上がったウルフちゃんが、渾身のラ〇ダーキック。

パワーにはパワーでぶつかる。

ウルフちゃんらしい回答だが、結果は思いもよらぬものだった。



「ええっ!?」



ウルフちゃんが土手っ腹に蹴りをぶち込むと、返ってきたのは引き締められた筋肉の硬質感ではなかった。

むしろその反対。

トランポリンのようなしなやかな柔らかさだった。

グニィッ……!とウルフちゃんの体が深く沈み、凄まじい弾力で思いっきり跳ね返せれる。



「うむむっ……!奇妙な手応えですぅ!」

「主は筋肉のパワーと脂肪の弾性を使いこなすゥ……正面からの攻略は厄介だぜェ」

「それなら……!」



今度はボスの番だ。

コピペ能力で紫の炎を手のひらに生成し、ナマズに向けて放り投げる。

ナマズは緩慢な動きで髭を動かしたかと思えば、向かい合わせた髭の間でバチッ!と青白い光が迸った。

次の瞬間、発生した稲妻が炎を切り裂き大地に命中する。

雷が当たった場所は黒焦げになっていた。



「電気も操れるでござるか!?」

「まさかの電気ナマズかよ……」



設定盛りすぎじゃね?

ボスは「うわぁ……」と呆れたように呟く。

これまた面倒な相手を寄越したものだ。

再び突進してこようとするナマズを前に、迎え撃とうとする八雲とウルフちゃんだが。



「ん待てェい!闇雲に対抗しても体力を消耗するだけだ……ここはおっちゃんに任せとけェい!」



一歩前に出たおっさんが、仁王立ちでナマズを迎え撃つ。

一体このおっさんに何が出来るのか。

そう思ったボスや八雲だったが、直後にその考えは間違っていたのだとおっさん自ら証明することとなる。



「待ってたぜェ、この瞬間(とき)をよォ〜……!」



何をするかと思えば、頭上にピンと両手を伸ばしたおっさん。

クロールの構えだ。

そして勢いよく跳躍すると、クルクルと回転。

回転は次第に速度を増して、もはやおっさんの顔すら識別不可能なレベルにまで加速していった。



「"黄金の角(ゴールデン・ドリル)"ゥ!!」



ギュルギュルと回転する黄金の角ドリル。

あの格好のまま戦うのも驚きだが、こんなギャグみたいな絵面でナマズをどうにか出来るのか。

ゴクリと生唾を飲んで見守るボス達であったが……。



『(パクっ)』



見事な放物線を描いて、黄金のカブトムシはナマズの口内へと消えて行った。

咀嚼することなく飲み込まれ、一時的な静寂が場を支配する。



「食われたーーっ!?」

「そんな綺麗に行きます?」

「一体何だったんでござるか……」



唖然とした空気からは一変、ボスの鋭いツッコミが今は亡き(?)おっさんに突き刺さる。



「おいおい、人を勝手に殺すんじゃねェよ〜」



ところがだ。

なんとおっさんは生きていたらしい。

腹の底から響くような渋ボイスがナマズの腹から聞こえたかと思えば、途端にナマズが苦しみ始めた。

何事かと身構える一同を置き去りに、苦しみ悶えたナマズが水中に戻ろうとする。

しかし少し行動が遅かったようだ。



「ブルゥアアッ!!」



奇妙な掛け声で、ナマズの腹をぶち破って飛び出してきた黄金のカブトムシ。

撒き散らされた肉塊がグロい。



「なるほど、中身は普通なパターンね……」



ボス、納得。

外からの攻撃にはめっぽう強いが、中身は普通と変わらない耐久力で、それが弱点となるパターンの敵だったようだ。

土手っ腹をぶち抜かれたナマズは苦しそうに悶え、地を転げ回っている。

水中に戻るのは諦めたらしい。

そのまま起き上がり、怒りで僅かに眉間を寄せている。



「まだ動くのか……」

「主の生命力はピカイチだァ。……それより、おっちゃんからプレゼントだぜェ〜」



血にまみれたおっさんが手渡してきたのは、同じく鮮血で濡れた水色の小さな宝石だった。

ネックレスに付ける程度の大きさのそれを受け取り、ボスは首を傾げる。



「これなに?」

「財宝へと続く、硬い扉を開ける鍵みたいなもんさァ」

「マジかよ」

「えぇ……。なんでそんなもの、おじさんが?」

「主の体内で拾ったのよ……あいつは光り物を好んで呑み込むからよォ」

「何そのカラスみたいな生態」



どうりで血に濡れている訳だ。

受け取った宝石を、ボスは微妙な表情で眺める。



「行けィ、坊主……。財宝はすぐ目の前だ」

「いやでも、さすがにナマズ放置しては行けないでしょ」

「あ、もう退治したでござる!」

「はやっ!?」



ボスが視線を向けると、確かにナマズは地に伏せてピクリとも動かなくなっていた。

傍らで血を払い納刀した八雲が、いい汗かいたと額を拭う。

あれぇ……?

なんか苦戦するみたいな流れじゃ……?



「ファントム殿、後処理は拙者に任せるでござるよ」

「あ、そう?」



袖をたくし上げてそう言った八雲の好意に甘えて、ボスとウルフちゃんは本来の目的である財宝の元に行くことに。

宝の地図の端に書いてある通り、二人は主の居なくなった湖に潜って洞窟を探した。

しばらく当たりを探すとそれっぽい場所があり、大きく息を吸ってからその中に進むと、数秒ほどで大きなカーブを描き下へと進路を変えた。

そのまましばらく進むと……。



「ぷはっ……」

「ふぅ……。まさか地下にこんな場所があったとは……」



水を滴らせながら水面から上がったボスとウルフちゃん。

彼らの目の前には、明かりの無い地下洞窟が広がっていた。

コピペ能力で明かりを灯して、慎重に先に進む。

地下洞窟は一本道だった。

岩壁は明らかに人工的で生物の気配が無く、何にも出会うことなく最奥までたどり着いた。

二人の前に立ち塞がったのはかなり古びた扉だ。

表面を苔が覆っており、刻まれた文字や紋様はほとんど読むことが出来なかった。

しかし中央にはめ込まれた赤黒い宝石だけは今も尚、輝きを秘めており、おっさんから貰った水色の宝石をかざすと、相互に光を交換し合い僅かに宝石が押し込まれた。

すると今までビクともしなかった扉がズズッ……と動き、重々しくその口を開いた。

奥には苔むした狭い空間が広がっていて、そこには所狭しと古びた宝箱が散乱していた。

目的のブツを前に、ボスとウルフちゃんは目を輝かせる。



「ボスさんボスさん、ついに見つけましたよ!」

「うおおおっ!やべぇ、早く開けようぜ!」



テンションマックスな二人が一番手前にあった宝箱の元に走り、一斉に手をかける。

そして息を合わせて、蓋を持ち上げた。

そこには。



「「………」」



()()()財宝が敷き詰められていた。

ほとんどが錆びていたり、破損していたり、触れればボロボロと崩れ落ちたり。

まともな形で残っているものは何一つ無かった。

下手をすれば持ち帰るために動かしただけで崩れてしまうかもしれない。

他の宝箱の中身もおおよそこんな感じなのだろう。

つまり、ボスの目的である資金の調達は限りなく不可能に近くなった訳で……。

残念無念。



「……ま、何だかんだ楽しかったし、いっか」

「ですねぇ。ボスさん、また一緒に冒険しましょうね!」

「おうよ」



報酬は得られなかったものの。

「古の海賊が遺した財宝」を見つけるという目的は達成し、"冒険"としては大成功を収めた二人だった。





結局あのおっさんは何だったんでしょうね……。


・デカ過ぎんだろ………『新テニスの王子様』より

・ライダーキック………『仮面ライダー』シリーズより

・待ってたぜェ!!この瞬間をよォ!!………『疾風伝説 特攻の拓』より


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

感想等々、何かしらのリアクションをいただけると、作者は大変喜びます。狂喜乱舞です。ぜひともお願いいたします!( ^ω^ )









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ