巨大カブトムシの正体
無人島の森の奥地に聳える、立派な大樹。
ボスとウルフちゃんは、そこで黄金に輝く巨大なカブトムシを見つけた。
「ぐへへ……あのカブトムシ捕まえれば、金欠とは一生おさらばだぜ……!」
「あ、ボスさんが悪い顔に……!」
模範的な悪役面で呟くボスに、並んでカブトムシの様子を伺っていたウルフちゃんが目を輝かせる。
ボスの悪巧みしている時の顔が大好きな彼女にとって、久々の悪役面は思わぬご褒美となったようだ。
黄金のカブトムシそっちのけで、ボスのかっこいい横顔をじっと見つめている。
「よし、そーっと近付こう……」
「はいですぅ……!」
小声でそう言って頷き合い、ボスとウルフちゃんはそっと物音を立てぬよう茂みから出た。
抜き足差し足忍び足。
足元を注意深く観察して小枝などを躱して進み、少しずつ大樹に近づいて行く。
黄金のカブトムシがしがみ付いているのは、地上から約2mくらいの高さだ。
ジャンプすれば届く程度の高さだが、そのジャンプのタイミングがどうしてもロスタイムになってしまい、逃げられる可能性が一気に跳ね上がる。
はてさて、どうしたものか……。
そこでボスが考えたのが"おとり作戦"だ。
まず、ボスが頑張って黄金のカブトムシを捕まえにかかる。
これで捕まえられれば良いが、まぁ高確率で逃げられてしまうだろう。
ボスを避けてカブトムシが飛び立った瞬間。
待ち構えていたウルフちゃんが持ち前のフィジ強を発揮し、出だしを潰す形で捕獲する。
決して逃れることの出来ない二段構えだ。
ある程度まで大樹に近付くと、ボスは視線のみでウルフちゃんに合図し、こくりと頷く。
「とりゃあっ!」
わざと大きな声を上げて、ボスが黄金のカブトムシに飛びかかった。
さあ逃げろ!
その巨体では初速はさして速くあるまい!
どの方向へ逃げたって、うちのフィジカルオバケからは決して逃れられんぞ───!!
と、ボスは心の中でほくそ笑んでいたものの。
ボスの思惑とは裏腹に、黄金のカブトムシはいつまで経っても逃げなかった。
そのままカブトムシの背中に飛びつくことに成功したボスは、思わずといった様子で目をぱちくりさせる。
固く、冷たい。
肌に触れたその感触に思考が割かれるより前に、ボスは振り返りウルフちゃんと目を合わせる。
ウルフちゃんもまた、脚をたわませた体勢のまま固まっていた。
まさか一発で捕まえられるとは。
予想外の誤算だが、考えてみれば捕まえられたのだからそれに越したことはない。
随分と遅れて、ボスとウルフちゃんはそろって喜びの声を上げる。
「やっ────たぁああああ!?」
ところが。
ボスがガッツポーズを掲げようとした瞬間、突如として追加された重さに耐えられなかったのだろうか。
ズルッとカブトムシの足が滑り、大樹から剥がれてしまった。
ふわりと内臓が浮かぶ感触。
ジェットコースターに乗っている時のような肝が冷える感覚に続いて、目の前の大樹がどんどんと伸びていく。
……否、ボスがグングンと落ちているのだ。
「おぐぇっ!?」
そして、背中から地面に落下した。
ボスの口から潰れた悲鳴が押し出される。
カブトムシを腕いっぱいに抱き締めていたせいで、欠片も受け身が取れなかったのだ。
その衝撃は中々のものがあっただろう。
実に良い笑顔でくたばるボス。
「ぼっ、ボスさーーんっ!?」
慌てて駆け寄ったウルフちゃんであるが、すぐにその異様な光景に気が付き思わず足を止めた。
よく見てみるとゾワゾワと全身の毛が逆立っており、狼耳と尻尾も驚くほどピンと伸びていた。
頬を引き攣らせて嫌悪感の混じった珍しい表情だ。
ウルフちゃんはすぐさま黄金のカブトムシを片手でぶん投げ、ボスを救出。
人工呼吸ならぬ目覚めのキッスで王子様を起こそうとしたところ、唇が触れるよりも先にボスが目覚めてしまい、ウルフちゃんの願望は叶わずに終わった。
何とも言えない残念そうな表情で、ウルフちゃんはボスを抱き起こす。
「ボスさん、大丈夫ですか?」
「もち。それより、カブトムシは!?逃がしちゃった!?」
「あぁいえ、捕まえはしたんですけど……」
ウルフちゃんの歯切れの悪い答えに、ボスは首を傾げる。
乾いた笑みを浮かべ、目を逸らすウルフちゃん。
それはまるで、自分の見た現実を受け入れられないかのようだった。
頑なにその場を動こうとしないウルフちゃんを疑問に思いつつ、ボスは地面に倒れた黄金のカブトムシの元に駆け寄った。
先程からピクリとも動かない事が気になったのだ。
もしや落下の衝撃で致命的なダメージを与えてしまったのだろうか?
心配になったボスは慌てた様子でカブトムシを掴み、こちら側にひっくり返す。
そこでボスは初めて、ウルフちゃんがあそこまでドン引きしていた理由を知るのだった。
「……何見てんだよ」
渋いおっさんが居た。
……いや、"居た"という表現が正しいのかどうか分からないのだが。
黄金のカブトムシの腹には円形の穴が空いており、そこから実に渋いおっさんの顔面が覗いていた。
顔はめパネルみたいな感じだ。
彫りが深くて、とても良い歳の取り方をしたシルバーグレーのおっさん。
声もまた素晴らしく、腹の底に響くようなイケおじボイスが耳を楽しませる。
ボスの目がスン……と据わった。
何というか……決して見てはならない、この世の深淵を覗いたかのような気分だった。
「……」
ボスはそっとカブトムシを元の体勢に戻して、得体の知れない"何か"を見なかったことにした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
感想等々、何かしらのリアクションをいただけると、作者は大変喜びます。狂喜乱舞です。ぜひともお願いいたします!( ^ω^ )




