無人島でお宝探しデート!
ある日〜♪
森の中〜♪
クマさんに〜♪
出会った〜♪
「うおわあああああっ!?」
『グオオオオオオッ!!』
絶叫して全力疾走で逃げ回る、我らがボス。
背の低い雑木や雑草を薙ぎ倒しながらその背を追うのは、何と全長3m近い化け物クマだった。
某童謡のクマさんとは似ても似つかないがっしりとした体躯に、焦げ茶の体毛。
瞳は小さいながら野生味を感じさせる鋭さを秘めており、涎を撒き散らす大きな口には鋭利な牙がズラリと並んでいた。
こんなクマさんには出会いたくないグランプリ、問答無用のナンバーワンである。
木々の間を全速力で駆け抜けていたボスは、視界の端で微かに動いた"合図"をしっかりと確認し、思いっきり前方の地面に向かって跳び込んだ。
見た目的には跳び込み前転の要領だ。
ボスが地面を蹴って跳び出すと同時に、僅かに下がった頭上を通り越して、強烈なハイキックがクマの頬にぶち込まれた。
「どっせい!」
気合いと共に蹴り抜くと、焦げ茶の体毛に覆われた巨体はグラリと体勢を崩し、激しく地面に叩き付けられた。
あまりの重さにビシビシと大地に亀裂が広がる。
規格外の大きさを誇る化け物クマは、そのままピクリとも動かなくなってしまった。
どうやら今の一撃で気絶したらしい。
ヒビ割れた地面に着地した少女はクマが動かないことを確認してから、灰色の尻尾をブンブンと荒ぶらせてボスの元に駆け寄る。
「いやぁ、助かったよ……。ありがとう、ウルフちゃん」
「どういたしまして、ですぅ!」
ご褒美のなでなでを存分にしてもらい、非常にご機嫌な様子の獣人少女。
我らが秘密結社Xの物理最強枠、ウルフちゃんである。
服に付着した砂埃を払いながら立ち上がったボスに寄り添い、ウルフちゃんは幸せそうな表情で尻尾をブンブン、狼耳をピコピコ。
「それにしても、まさかこんな怪物級のクマが出るなんてね……。ちょっと信ぴょう性増してきたんじゃないの?」
「ですね!」
ニヤけるボスにつられて、ウルフちゃんも満面の笑みで答える。
ここは都心部から大きく離れた、南部の方にある小さな無人島だ。
もちろん何の目的も無くぶらぶら散歩してたどり着けるような場所ではなく、ボスとウルフちゃんもまた、とある理由があってこの島を訪れていた。
ボスは懐から古びた地図を取り出した。
「う〜ん……もう少し先かな」
「……あ、これさっきの大きな岩のところじゃないですか?」
「あほんとだ。じゃあちょっとズレてたね」
地図には円形に広がる森と、いくつかの目印が記載されている。
その中でも特に異彩を放っていたのは、森の奥地に刻まれた歪なドクロマーク。
これは、ボスが独自のルートで手に入れた『お宝の地図』だった。
端に書いてある文章によれば、このドクロマークの場所には、大昔の海賊が残した財宝がたんまりと埋まっているらしい。
ボスがこのお宝を求める理由はただ一つ。
そう、ロマンである。
"大昔の海賊が残した宝"とは、なんて男心をくすぐる言葉なのだろう。
実質ワ〇ピースだ。
そりゃあ探しに行くに決まってる。
この地図を手に入れた時、ボスは「世はまさに大海賊時代───」になるのも納得する胸の昂りを覚えた。
いつでもボスを突き動かすのはロマンなのだ。
……あとお宝の保存状態によっては、秘密結社Xの軍資金になるのでは?
という若干の雑念も混じっていることは内緒だ。
秘密結社Xの財政難は未だに健在。
ボスのバイト代だけではいつまで経っても心もとない。
「わぁ……。ボスさんボスさん、見てくださいこれ!」
「おぉ……。昔は、誰かここに住んでたのかね」
小枝を片手に探索を続けていたウルフちゃんが発見したのは、既に倒壊した木製の小屋だった。
表面をびっしりと蔦や苔が覆っており、ここ最近で人が使ったような痕跡はどこにも見受けられない。
潰れた屋根の隙間からリスのような小型動物がこちらを見つめている他、珍しい色の蝶が眼前を横切って小屋の奥へと消えて行った。
先程の巨大クマもそうだが、どうやらこの森では独自の生態系が発展しているようだ。
本島から隔絶され、人も滅多に立ち入らないからだろうか。
基本的にどの生物も通常の個体よりも大きく、そして異質な特徴を得ていた。
きっとあのリスのような生物も、見かけによらず何らかの変な体質を持ち合わせているのだろう。
しばらく小屋の周りを探索していると、不意にウルフちゃんが自慢の狼耳をピクピクッと反応させた。
「どしたの?」
「……あっちから何か聞こえますぅ」
ウルフちゃんによると、小屋の奥の方から木の枝を踏んだような、微かな音が聞こえたらしい。
ちなみに、ボスにはさっぱり分からない。
なのでウルフちゃんの先導に従って、慎重に森の中を進んでいく。
目の前で狼耳がピクピクと動く様子は実に可愛らしく、無性にモフモフしたい衝動に駆られたが……。
さすがにこの場面でモフるほど、ボスは空気の読めない男じゃない。
衝動をグッと抑えてウルフちゃんの背を追う。
やがて背の高い茂みにたどり着いた。
それをそっとかき分けて、目の前に飛び込んできた光景にボスは思わず息を呑んだ。
「ボスさんボスさん、何ですかあれ……!?」
「いや、でかっ……!?」
ボスとウルフちゃん、二人分の驚愕が僅かに空気を震わせる。
茂みの先。
ぶっとい大樹にそいつはしがみ付いていた。
キラキラと太陽光を反射する黄金のボディ。
大樹をがっしりと掴んで離さない脚は本家に比べて図太く、反り立った角は実に雄々しい。
夏が過ぎ去ってもなお、ムンムンとした暑さを携えた無人島の森の中で、ボスとウルフちゃんは幻の"巨大黄金カブトムシ"に出会ったのだった……。
ヘラクレスかな?それともコーカサスかな?
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