助けてソアえもん!
「───と言うことをしてみたのですが、ボスからの反応はあまり芳しくなく……」
「君はたまに突拍子も無いことをするねぇ」
若干の呆れを滲ませ、やれやれとため息をつく縦セタタートルネックに白衣を羽織った女性。
我らが秘密結社Xのダウナー系美人科学者こと、ソアレさんである。
イリスから事の経緯を聞いたソアレは大いに呆れた。
『恋は駆け引き』
小説から得たその知識を実践すべく、ボス相手に色々とやったそうだが……。
聞いてみると、その内容がまぁおかしかった。
駆け引きというか、一方的に押し付けているだけでは?
それがソアレが抱いた最初の感想だった。
ボスの仕事を膝の上に座って見学したり、恋人繋ぎしてみたり、「あ〜ん」してみたり。
きっと何も事情を知らないボスからすれば疑問でしかなかっただろう。
あるいはカップルのようなイチャイチャができて、無条件に喜んでいたのだろうか。
その現場に居合わせられなかったことを、ソアレはちょっとだけ悔いた。
どちらにしろ間違いなく、ボスの面白い表情が見れただろうに。
「インパクトが足りなかったのでしょうか……。そこで、ソアレに相談です。ボスを惹きつける良いアイディアはありませんか?」
「それを私に聞くのかい……?」
ソアレは困ったように笑った。
イリスを手伝うことそれ即ち、ライバルに塩を送るようなものである。
もちろんソアレがボスに対して抱いている感情は、恋愛的な意味とは程遠い。
けれどお気に入りに想っている事は事実であり、彼とは今後も親密な関係を続けたいと思っている。
そこに"愛"が微塵も介在していないかと問われれば、否と答えざるを得ないのだ。
そしてそれは本人達も承知済である。
堂々とライバルとも言える相手にアドバイスを求めるとは、相当に面の皮が厚いと言うべきか、それとも家族同然の仲間だからと判断すべきか……。
「もう面倒だし、直接ボスに聞けば良いんじゃないかな?」
「ボスが真剣に答えてくれるなら、ここまで苦労はしていません」
「ははっ、確かにね」
仏頂面なイリスの答えに、ソアレは思わず吹き出した。
ボスは日頃のセクハラを重ねる言動から勘違いされがちだが、あれでも中身は本物の紳士だ。
無闇やたらに女の子に手は出さないし、相手が本気で嫌がるような真似は絶対にしない。
そう聞くと素晴らしい男性のようにも思えるが、この紳士性が恋愛面において思わぬ弊害を招いていた。
どんな女性にも平等に接するが故に、特別な相手を作ろうとしないのだ。
彼女無し童貞を嘆いておきながら、明確にアプローチしてくる相手と付き合わないのが顕著な事例だろう。
九尾やイリス、ミューラがそれに当てはまるが、どれだけアプローチしようともボスは紳士的な対応をセクハラで薄めて、最低限の距離感を絶対に逸脱しない。
彼女らが今一歩、関係を進められていないのはこれが原因だった。
仮に真面目な告白をしたり気持ちを確かめたとしても、あのボスが真剣に答えてくれるとは思えない。
実際問題、真面目な答えが返ってきたことはほとんど無いのだから。
「仕方ない。これは仲間としてのよしみで、お困りの君にプレゼントしよう」
「……メガネですか?」
散らばったガラクタの山の中からソアレが掘り出したのは、一見普通に見えるメガネだった。
しかし侮ることなかれ。
ソアレの発明品が"普通"であるはずがない。
「これは……まぁ、言わば嘘発見器の上位互換みたいなものでね。相手が話している内容の真偽、それと隠された本心の意訳を表示することが出来るんだ」
ソアレ曰く、センサーが感知した脈拍やら何やらに加えて、特殊な技術と能力を用いることで、簡易的な読心術に近い機能を搭載。
フレームに内蔵されたプロジェクション機能とレンズの性能を合わせることで、自分の視界にのみ読み取った情報を表示することが可能なのだとか。
注意点としては、あくまで表示される内容は"意訳"であることが前提だが、その精度も素晴らしく明確な誤訳は現状ほとんど無いそうだ。
「これさえあれば、ボスの心の中も思うがままに見放題さ」
「ちょっと気が引けますね……」
「まぁ、物は試しだろう?」
さすがにこれを常用するのは倫理観的にちょっとアレかもしれないが。
ソアレの口車に乗せられ、イリスは一度だけ使うことを決心した。
性能やら使い方やらを確認してから、二人はすぐさまボスの下に向かった。
「ボス、ちょっと良いかい?」
「へいへい。なんじゃらほい」
ぽけ〜っとしたアホ面で通路を歩いていたボスを見つけ、ソアレが早速引き止めた。
顔を向かい合わせた二人は頷き合い、ついにイリスがメガネを装着。
起動を確認してからソアレが問う。
「率直に聞くね。ボスはイリスの事をどう思ってるんだい?」
「え?」
キョトンと目を瞬かせるボス。
何を今更と、さも当然のようにこう答えた。
「テンプレ盛り盛りの最強秘書さん……かな。非常に癖ェです、はい。あとメガネありがとうございますっ」
返ってきたのはいつも通りの回答だ。
けれども、今日こそはその本心を覗いてやる……!!
そんな野心を燃やしつつ表示された眼前の文章を目で追ったイリスは、己の軽率な行動を後悔することになった。
……いやまぁ、ある意味では喜ぶべき内容ではあったのだが……。
『今日もイリスは可愛いなぁ……』
『髪サラサラだ……』
『二人とも良い匂いするんだけど。やっぱうちの女性陣は素晴らしいっすね!』
『メガネ秘書さんだと!?最強かよっ!』
『ビジュが強ぇ』
なんか思ってた倍くらい本音が多かった。
メガネをかけてないソアレとボスには分からないものの、これらはほんの一部だ。
上記を始めとした大量の心の声が次々と眼前に浮かび上がる。
内容的にはイリスとソアレが半々くらい。
こんなにも熱烈なコールを心に推し留めていたとは……普段からセクハラのテンションが高めな理由が判明した瞬間だった。
まさかあれでも抑え気味だったとは、さすがに恐れ入る。
「………」
ボスの本心を目前にし、イリスは茹でダコのように顔を真っ赤に染め上げた。
羞恥心がキャパオーバー。
頭からシューッ……と白煙が立ち昇り、無言で恥ずかしさと嬉しさを噛み締めている。
俯いて垂れた髪の隙間から見える顔は、耳の先端まで朱色に染まっていた。
頭上に疑問符を浮かべ、ソアレに懐疑的な視線を向けるボス。
まるで「どったのイリス」と囁いているかのようだ。
それに対してソアレは、呆れたように肩をすくませるのみ。
イリスの反応から凡その内容に察しがついたのだろう。
実際はこのソアレの予想すら遥かに上回る内容なのだから凄まじい。
「……」
イリスが少しだけ頭を上げた。
乱れた前髪の隙間から覗く瞳は完全に動揺している。
揺れる瞳で、ボスを見る。
相変わらずぽけ〜っとしたアホ面。
続いてソアレを見る。
謎のキメ顔でサムズアップするソアレ。
未だに語りが止まらぬボスの本心を前に、イリスの羞恥心がプツンと音を立てて切れてしまった。
───パリッ!!
「ちょっ!?」
ボスが何か言おうとしたが、もう遅い。
膨張した特大の雷撃が解き放たれ、一瞬で視界を満たす。
世界が色を取り戻した時、そこに残っていたのは立ち昇る白煙と黒焦げになったボスとソアレのみ。
ちなみにイリスは早足で逃亡済みである。
「……結局、何だったん?」
「知らぬが仏、さ」
最後まで何が何だか分からず立ち尽くすボスと、満足のいく実験結果にご満悦な様子のソアレであった。
読心できるメガネって強くないか?
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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