恋は駆け引き、らしい
皆さんお久しぶりです(*^^*)
日々の暑さもだいぶ落ち着いてきた、秋の穏やかな昼下がり。
我らが秘密結社Xのクール系有能秘書ことイリスさんは、自室にてゆったりと小説を読んでいた。
この前、ボスと出かけた際に気分で買った恋愛モノの小説である。
イリスの趣味としては少し外れているものの、煽り文が秀逸で読んでみたくなり、表紙買いしたパターンだ。
肝心の内容も、良い意味で予想を裏切るような展開でとても面白い。
「ふむ……」
ページをめくる手を止めて、イリスは太字で書かれた一行をじっと見つめる。
どうやらこの場面ではメインヒロインの恋愛に対するスタンスについて描かれているようで、太字の部分はその中でも特に重視している事のようだ。
『恋は駆け引き』
要約するとこんな感じだろう。
言葉にすると平凡だが、作中ではこの「駆け引き」についてより具体的に言及しており、中々興味を引かれる話題となっていた。
じっとその一行をしばらく見つめた後、不意にイリスは小説をパタンと閉じ、机の上に置いた。
そしてデフォルトのジト目のまま立ち上がり部屋を出る。
てくてくと秘密基地感溢れる廊下を歩いて向かったのは、我らがボスのお部屋だ。
部屋の前に着くと、コンコンとノックだけして返事を待たずに扉を開ける。
「あれ、どったの?イリス」
正面の横長の机にて書類とにらめっこしていたボスが顔を上げ、キョトンとした瞳でイリスを見る。
どうやら珍しくお仕事中だったようだ。
「いえ、何でも。……もし邪魔でなければ、傍で見ていてもよろしいでしょうか」
「お。なんだねイリス君、もしかして俺の仕事っぷりに惚れちゃった?」
冗談めいた仕草で「なんてね〜」と付け足しつつ、ボスは速やかに傍らにあった予備の椅子を自身の隣に移動させる。
そして、ポンポンと座席を叩いてイリスを誘った。
ウェルカムの合図である。
楚々と近付いたイリスがそれに腰掛けるかと思いきや、さらっと用意された椅子をガン無視して、なんとボスのお膝の上に腰を下ろした。
ふにんっ……と柔らかい実に素晴らしい感触と布越しの体温が、ボスの太ももに伝わってくる。
「………ファッ!?」
ボス、書類を片手にアホみたいな表情でアホみたいに間抜けな声を上げた。
まだ目の前で何が起こっているか理解出来ていない様子だ。
ふわりと香った女性特有の甘い匂いが鼻腔を刺激し、位置を調節するためにイリスがモゾモゾと動く度、信じられない程に柔らかな感触が形を変え、ボスを狂わせようとしてくる。
どんなマッサージよりも素晴らしい感覚だった。
そっと寄り添った肩は自分との対比のせいか、いつもより幾分か小さく見え、間近でふるふると震える細いまつ毛は自然と視線を引き寄せる。
きめ細やかなシミ一つない肌。
形の整った唇。
服の隙間から見える鎖骨のラインと、控え気味に主張する膨らみ。
ボスのお粗末な脳みそでは目の前の情報を処理し切れず、もはやオーバーヒート寸前だった。
頭の中では、グルグルと意味の無い思考が無限に渦巻いている。
「「………」」
二人して無言の間がしばらく続いた。
何を思ったのか、イリスは無表情のままボスのおててを握り、形を確かめるようにモミモミ。
そして指の間に自身の指を滑り込ませ、恋人繋ぎでニギニギ。
ボスの呆然とした瞳を正面から見つめる。
デフォルトのジト目は一切変わっていないので、ボスからすれば何が何だか分からず、頭上に大量の疑問符を浮かべることしか出来ない。
「「………」」
またしても無言の間。
状況が微塵も把握出来ず、ボスは思わずといった様子で口を開いた。
「あの……何かありました?」
「?いえ、特には」
「そか」
もうボス分かんない!
キョトンとした真顔で返され、ボスは内心で根を上げた。
てっきり何か悲しいことがあって人の温もりを感じたかったとか、暇だったとか。
もしかしたら寂しくて構ってもらいに来たの!?
ついにデレ期来た!?
とかちょっと期待してたのだが……別にそんな事はないようだ。
ますますどうしてこうなったのか謎でしかない。
これには某白い悪魔も首を傾げざるを得ないだろう。
わけが分からないよ───と。
それからしばらく、イリスさんはボスのお膝に座ったまま仕事風景を間近で眺めていたそうだ。
ちなみにボスの仕事はちっとも捗らなかった。
開幕早々イチャコラするボスとイリスさん……。爆ぜろ。
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