盛大な前振り
今日も今日とて、世界征服のため住宅街を闊歩するボスとエックス戦闘員の諸君。
いつもとは違う道を通り、のどかな雰囲気漂う川辺にやって来た。
ランニングする青年や買い物帰りらしき主婦、ランドセルを背負った少年らなど多彩な装いの人々が行き交う、平和を象徴するかのような場所だ。
なだらかな斜面を降りた先にある、質素な原っぱでキャッチボールをする親子の会話を聞き流しながら、ボスは伸びをしてぽつりと一言。
「う〜ん。やっぱ、これだよなぁ〜」
ググッと腕と背を伸ばしつつ、ボスは感慨深そうにそう言った。
何でもない日常を過ごす人々に囲まれながら、のんびりと散歩をする。
気ままに放浪して、何か思い付けば世界征服に手を付ける。
インスピレーションが得られなければそれまで。
そんな緩みに緩みまくった世界征服を目指す日々が、こうして戻ってきたのだ。
「この前まで、色々と忙しかったですもんね……」
苦笑いする一号君。
我らが秘密結社Xのボスこと"ファントム"が誘拐されるという一大事から、二週間が経過した。
頻繁に遊びに来ていたミューラの相手も一段落し、やっと以前と同じ平和な日常を過ごせるようになった。
世界征服を目指している組織のボスが、平和な日常を送ってどうする。
そう言いたくなる気持ちも分かるが、こればっかりは許して欲しい。
元々うちはこんな感じの緩い雰囲気なのだ。
それに、異空間で繰り広げられた最恐の三つ巴。
あれを見た後では、余計に何の変哲もない平和な日常が恋しくなるというもの。
「それで、今日はどうするんです?」
「どうしようかねー」
「……もしかして、何も考えてないんですか?」
「うん」
さらっと無計画で歩き回っていたことを明かしたボス。
エックス戦闘員達から何とも言えない呆れの視線が注がれる。
「まぁまぁ、たまにはノープランで行き当たりばったりも良いじゃないの」
「"たまには"……?」
「細かいことは気にするなッ!」
「えぇ……」
腕を組み、雄々しい表情で言い切ったボス。
たまにはと言うか、大抵の場合ノープランだった気がするが……。
どうやらマジレスを受け付けるつもりは無いらしく、空気を読んだエックス戦闘員達はそろって口を噤んだ。
「でもそうだな、確かに最近あんまし目立ててない気がするし……。今度ソアレに頼んでみようかな」
「ちょ、それを言うなら俺達ですよ!エヴァントラスの時もお留守番でしたし!」
「そうそう、こちとら出番がめっきり減っちゃったんすよ!?」
「ここらでド派手な功績残さないと忘れられちゃいますって、俺ら!」
「そ、そんな事ないと思うけど……」
エックス戦闘員達のあまりの熱量に、今度はボスが若干引き気味だ。
確かに天空都市エヴァントラスでの戦いの時、彼らは戦力的に頼りないとのことでお留守番を強いられた。
おかげさまで丸々一章分の出番が削られてしまったのだ。
ここで存在感を出しておかなければ、後々にさらなる不当な扱いへと発展しかねない。
今こそ強いインパクトを与えなければならなかった。
完全なモブに成り下がらないために。
エックス戦闘員達は、それはもう必死だった。
「えっと、ちなみにどんなの欲しいの?」
「モビ〇スーツですかね」
「さすがにそれは無理だと思う」
「ですよね」
真顔で頷き合うボスと二号君。
確かにインパクトはピカイチだが、モビ〇スーツはちょっと技術的にも著作権的にも難しいだろう。
隣で三号君も苦笑いを見せる。
「まぁ冗談抜きにしたら、威力が高いド派手な武器が欲しいですね」
「それな。俺らの場合、フィジカル的にまず敵いませんし」
「なるへそ……。確かに遠距離武器は欲しいな〜。やっぱロマン砲よ、ロマン砲」
「ソアレ様なら絶対に作り上げてくれるかつ、絶対に爆破オチするんだろうなぁ……という圧倒的信頼感」
「「それな」」
全員がそろって頷いた。
ソアレの発明品の爆破率は異常。
特に一番最初の試作品は爆破しがちだ。
もちろんその後に改良を重ねてちゃんとしたアイテムが誕生するので、爆破オチも発明を進める上では重要な過程だ。
毎回巻き込まれる側からすればたまったもんじゃないが。
「まぁ威力だけは絶対の信頼性があるよね」
「分かります。下手したら使ったこっちが危なくなる規模の破壊力ありそう」
「ね。そんでキャパオーバーになった装置がボカーン!って爆発して────」
ボスがふざけて指をパッと開き、爆発したかのような仕草をした、ちょうどその時。
正面にある、川を横断してかかった橋の上で閃光が瞬いた。
直後。
────ドゴォオオンッ!!
本当に爆発した。
轟音が鳴り響き、勢いよく爆炎を内包した黒煙が立ち昇る。
阿鼻叫喚の叫び声が飛び交う中、ボスとエックス戦闘員達は唖然呆然。
口から言葉が出ない代わりに、エックス戦闘員達はバッ!とボスの方を向いた。
「ボス!?」
「ちょ、何やってんすか!」
「いつの間に爆弾を……」
「いや違う違う、何もやってないよ!?」
あたかも市民に手を出した外道であるかのような反応に、ボスは慌てて否定する。
確かにタイミングはバッチリだったが、違うものは違うのだ。
「それよりほら、助けないと!」
「あっ、そっすね!」
「あの橋古いから落ちちゃうかもしれないですよ」
「尚更早く行かないとじゃん!」
ボスの声掛けで、ハッと我に返ったエックス戦闘員諸君。
大慌てで黒煙を上げる橋に向かって走り出したのだが………そんな彼らの前に、立ち塞がる者が居た。
「おお?なんだ、お前ら」
ズチャッと着地し、ボス達を睨めるような視線で見つめるそいつは。
加工したダイナマイトを全身に纏ったかのような奇抜な見た目。
胸部には時計を思わせる歪な装飾がなされ、窪んだ瞳は燃え盛る炎のように鮮やかな赤色だ。
装甲の下には、赤と白の導線が血管のように這っている。
今まで出会ったどんなヴィランよりも不気味な姿形をしていた。
「……なるほど、あれをやった犯人はお前だな?」
「おうよ。こいつはい〜い力だぜ?やりたい事が何でも出来ちまう」
首に刻まれたタトゥーをつつきながら、そいつはいやらしく嗤う。
「お前らも、俺が作る芸術の一部にしてやるぜェ!」
ボンッ!と手のひらで小規模の爆発を引き起こして、謎の怪人が襲いかかってきた。
さてさて、これは一体何の"前振り"なのでしょうか……。
・モビルスーツ………『機動戦士ガンダム』シリーズより
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