21話 七月六日
明日は色々と特別な日です。
「明日は絶対勝てる。何故なら七月七日だから!」
「そう言って毎年負けてるじゃない」
ウキウキの芹沢さんをお母さんが冷ややかな目で見ます。よく知りませんが、七月七日はパチンコ屋さんが盛況になるそうです。
七月七日と言えば世間一般では七夕でしょうか。と言っても私の住んでる北の国では何故か八月七日に七夕を祝うので、あまり関係ないのですが。
私にはギャンブルも七夕も関係ないのに何故明日が特別なのかというと、美紅と椛の誕生日だからです。あと、神社のお祭りがあります。
お祭りは三日間開催され、初日は友達と、二日目は家族と行くのが神谷家の恒例になっています。三日目は基本的に自由というか、大抵お小遣いが底を尽きているため家でゴロゴロしていることが多いです。
いえ、お祭りの話は今はどうでもいいのです。それよりも問題は、二人への誕生日プレゼントです。
去年は『私が一人で卑猥じゃないのに卑猥に聞こえる言葉を言い続けるだけのASMRボイス』をプレゼントしましたが、これが大変不評でした。というか、お母さんにめちゃくちゃ怒られた苦い記憶があります。
今年はお母さんの事前チェックが入った結果、ハンドメイドアクセサリーをプレゼントすることになりましたが、手先が特別器用でもない私は絶賛苦戦中です。
家で作業をすると二人にプレゼントがバレてしまいますので、お昼過ぎからお母さんと一緒に芹沢さんのお家のアパートへとやって来ているのです。
というか、芹沢さんの家に来たのは久しぶりでしたが。
「せ、芹沢さんって子持ちだったんですね……」
部屋の隅っこで、小さな女の子が体育座りでずっとじーっとこちらを見てくるのです。おそらく一年生か二年生でしょうか。
「いや、全然私の子じゃないんだけど。訳ありで先週から預かってるだけ」
「そんな話、初耳よ」
どうやらお母さんも知らなかったようです。
「いやー、別に言う必要ないかなーって」
「ふぅん。で、こんな小さい子を放っておいて明日パチンコ屋に行こうとしてるわけ?」
「い、行かないよぅ……さっきのは言ってみただけだけよぅ……」
お母さんに睨まれ、芹沢さんはたじたじです。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
コミュ障の私でも年下相手なら余裕のパーフェクトコミュニケーションが取れます。まずは自分から名乗らず一方的に名前を聞くことで、私の方が格上であることを知らしめることにします。
「……まりあ」
「まりあちゃんですか。何年生ですか?」
「一年生」
「ほほう、ちゃんと受け答えできてえらいえらいですね。私の名前は神谷芽依。六年生です。芽依お姉様と呼んでくれてもいいですよ」
えへんと胸を張ると、まりあちゃんが抱きついてきました。
「ほわぁ!? ど、どうしたんですか、まりあちゃん!?」
距離感の縮み方が急激過ぎて、うろたえてしまいます。
「……ご、ごめんなさい、その……お姉ちゃん、欲しかった、から」
まりあちゃんも無意識での行動だったのか、慌てて離れて照れくさそうにしています。
か、か、か、可愛いー!
「お母さん、この子をうちの子にしましょう!」
「ダメに決まってるでしょ」
呆れてため息を吐くお母さんを、まりあちゃんが潤んだ瞳で見つめていました。
「お母さん……?」
「ほら、まりあちゃんもお母さんのことお母さんって言ってますよ! 連れて帰りましょう!」
「却下。私の娘はあなただけよ」
それはそれで嬉しいー!
「そんなことよりも、早く作らないと間に合わないわよ」
「うぐぅ……」
レジンを使って二人をイメージしたアクセサリーを作ろうと考えたところまでは良かったのですが、そこから行き詰まってしまっています。
「というか何でもっと余裕もってやらなかったんですか! 私のバカバカ!」
「これに懲りたら今年の夏休みの課題は早めに終わらせることね」
「ふはは! そんなの無理無理カタツムリですよ!」
やけくそ気味に自嘲爆笑する私です。お母さんやめてください、その哀れみの眼差し、死んでしまいます。
それから必死にデザインを考え、作成し、終わったころにはもう夜の八時を過ぎていました。
「つ、疲れたっピィー!」
疲労と達成感により語尾が終わっていますが、人間誰しも極限状態ではこうなるので仕方ないのです。
「お疲れ様。よく頑張ったわね」
お母さんが頭を撫でて褒めてくれます。
「ほわぁ、うれしっピ……」
「でもその語尾はやめなさい」
「はい……」
怒られましたっピ。天国から地獄とはこのことですか。
「おつー、カレー作ったから食べてけー」
それから四人で芹沢さんが作ってくれたカレーを食べました。カレーはキッズのまりあちゃん用に味付けされた甘いもので、どこか懐かしさを覚える味でした。
「お疲れ……お疲れ……おつカレー……ってこと?」
まりあちゃんの発言に場の空気が凍りつきました。
愛らしいキッズが言う分にはこの寒いダジャレも許されますが、ジジイが言ってたら極刑です。
「まりあちゃん、中にジジイとか入ってないですよね?」
「な、ないない! 入ってたとしてもせいぜいオヤジだよ、あはは!」
何故かまりあちゃん本人ではなく芹沢さんが弁明します。
いや、オヤジが入ってても普通に嫌すぎますけど。
「そ、そんなに……サムかった……?」
まりあちゃんがしょんぼりとします。
誰ですか、こんな可愛い子を落ち込ませる悪い奴は。
「い、いえ! カレー食べて熱くなってきたから、むしろちょうど良いと言いますか! ナイスですよ、まりあちゃん!」
「寒いって言ってるようなものじゃない」
テンパりながら弁明する私にお母さんの容赦ないツッコミが刺さります。
食事を終えるとお母さんはおもむろに立ち上がり、外へと出て行きました。おそらく食後のヤニタイムでしょう。
「もう帰っちゃう?」
まりあちゃんがお母さんの背中を寂しげに見送ります。
「もうすぐ帰りますけど、あれはタバコ吸いに行っただけなので、もうちょっとだけいますよ」
「……タバコを?」
タバコを吸う人が物珍しいのか、まりあちゃんがとてとてと歩いて外に出て行ってしまいました。いや、家の近くとはいえあんな小さい子が一人で出るのはまずいでしょう。
芹沢さんは食器を洗っていて気がついてなさそうでしたので、慌ててまりあちゃんの後を追いました。




