18話 教えて伊崎先生
美紅は家事全般が得意で、美意識が高いです。おそらく叔母に似たのでしょう。将来は叔母のような素敵な女性になるのでしょう。
椛は勉強も運動も得意で、人望が厚いカリスマ的な人間です。おそらく叔父に似たのでしょう。将来には無限の可能性がありそうです。
それに比べて私は……。
「先生、私の良いところって何だと思います? 美紅や椛に比べると、なんか何もないような気がして……」
日曜日、お母さんとお茶しに来た喫茶店で偶然遭遇した担任の伊崎先生に人生相談をしてみることにしました。
カウンター席の左隣に先生、右隣にお母さんといった配置で、こんな風に喫煙者に挟まれてる私も将来きっと喫煙者になるのでしょう。
先生はタバコを吸いながらうーんと考え込む仕草をします。芹沢さんから聞いた話では、この人は○学生のころからタバコを吸っているらしいです。それでいいんですか日本の教育者。
「あー、芽依は、そうだな、運がいい」
「運!?」
予想外の答えでした。
自分が受け持っている児童に良いところを聞かれて……運!?
それでいいんですか日本の教育者。
「私は運だけの女ってことです、か」
そもそも運がいいとも思いませんが。アイスのあたりも引いたことありませんし。
「何を悲観してんのさ。言っとくけど、どんなに努力しても運だけは鍛えられないからな。立派な強みだよ」
「先生は風水とかそういうの信じないんですね」
「あたしが? 信じるように見えるか?」
いいえ、まったく。
「でも、私の運がいいって、それは何をもってそう言ってるんですか?」
「あんたは人に恵まれてるんだよ。そういう奴は、これから先の人生しんどいことがあってもさ、何とかなるようにできてるもんだ」
先生がすぱーと煙を吐き出しながら、遠い目をします。
どなたか、そんな人を思い浮かべているのでしょうか。
「人に……」
無意識にお母さんの顔を見上げると、目が合いました。
私の人生で一番運が良かったことは、きっとお母さんがお母さんになってくれたことです。
「私も運がいいわ。芽依に巡り会えたんだから」
お母さんが微笑んで私の頭を撫でてくれました。
ああ幸せです、お母さんしゅき。
「あんたがそこまで親バカになるのも……ま、意外な話でもないか」
先生が軽口を叩いてけらけらと笑います。
先生とお母さんは中学の頃からの付き合いだそうで、いわゆる腐れ縁らしいです。
「あなたが教師になったことに比べれば、大抵のことは意外じゃなくなるわね」
「そりゃ違いないね」
聞いた話だと先生はヤンキーで髪を真っ赤に染めていたんだとか。返り血で拳を真っ赤に染めたことも一度や二度じゃないらしいです。
「ま、とにかくだ。芽依、他人と自分を比べたっていい。劣等感を抱いたっていいさ。けど、それでただ腐るだけのつまらない人間にはなるなよ。少なくとも、そこでヤニ吸ってるあんたのお母さんはそうじゃなかったよ」
先生が、何だかすごく先生らしいことをおっしゃっています。タバコ吸いながらですけど。
「ふふ、まるで平成のヤンキー先生みたいね」
「うるさいよ」
お母さんのからかうような言葉に、先生は少し照れくさそうに頬を掻いてそっぽを向きました。
なんて言うか、この二人は本当に長い時を共に過ごしてきた、良い友達関係なんだろうなぁと思えた、そんなひと時でした。




