13話 芹沢さん
春です。四月です。六年生に進級しました。
といっても、過疎化が進む田舎町の小学校。クラス替えもないため、特に変わり映えもしないのですが。
春の日和を感じながら一人下校していると、通り道の公園のベンチに座っている知り合いを見つけました。
年齢不詳の見た目はお嬢様。芹沢さんです。何やら虚ろな表情をしています。
「芹沢さん、どうしたんですか? パチンコでお金を溶かした人みたいな顔をして」
「パチンコでお金を溶かしたんだよ……」
そのまんまでした。
死んだ顔のまま、右手で何かを捻る動作をしています。
「芹沢さんって何でそんなにパチンコが好きなんですか?」
「え? 全然好きじゃないけど? 依存症なだけ」
この大人、言ってることがやばすぎます。
「なぜ依存症に……」
「長くて複雑な話になるんだけど、聞いてくれる?」
「はい」
「私ね、とあるパチンコ依存症の人を救おうとしてたのね」
「へぇ」
「そのためには、パチンコやる人の気持ちが分からないとなって思ってパチンコを打ち始めたんだけど、そしたらこのザマだよ」
長くもないし、複雑でもない話でした。
「救おうとしてたっていうのは……福祉か何かのお仕事をされてたんですか?」
「まーそんなとこ。お姉さんはね、昔は人を救う尊い仕事をしていたんだ。それが今ではニートのパチンカスだよ、ははっ」
この大人、言ってることがやばすぎますPart2
「芹沢さん、パチンコを打つお金はどこから……」
「同居人がくれる」
ヒモー! まごうことなきヒモー!
芹沢さんは、私が実の親に置き去りにされて家にひとりぼっち取り残されていたところを保護してくれた人です。
幼少期のことだからなのか、トラウマで記憶を封印してるからなのか、私自身にその記憶はありませんがお母さんがそう言っていました。
そんな人が、今ではギャンブル依存症のヒモに……どうしてこうなった。
「お姉さんはね、昔は天使だったんだ……知ってる? エンジェル」
「芹沢さん、パチンコをやりすぎてついに脳が……」
遠い目をしている芹沢さんが可哀想で仕方がありません。
「芹沢さんっておいくつですか?」
「芽依のお母さんと同い年だよ。何歳だっけ?」
「芹沢さん、自分の年齢が分からくなるほど脳が……」
「その異常者を見る目やめて? 力を使い果たして出涸らしになった今でも、天使の力でちょっとした奇跡なら起こせるんだよ?」
いよいよホンモノみたいなことを言い出しました。
最近あったかくなってきましたしね……春は変な人が増えるって言いますもんね……。
「へぇ〜〜〜、例えば、どんなことができるんですか〜?」
「何だその可哀想だからとりあえず話を合わせてあげようみたいな言い方は。そうだなぁ、例えば……他人のスマホから勝手にパチンコの確定音を出したりできるよ」
突如、私のスマホからキュインキュインと聞いたことのない甲高い音が流れました。
「何ですか!? ハッキングですか!?」
「天使の力だよ」
「えぇ、こわぁ……芹沢さんってスーパーハッカーだったんですね……」
「天使の力だよ」
芹沢さんは頑なに天使の力だと言い張ります。
「仮に天使の力だとしても、これが何の役に立つんですか?」
「脳汁が出て幸せになれるよ」
この大人、言ってることがやばすぎますPart3
「せめて、こう、音を出すにしても、もっと誰もが幸せになれる音とか出してみません? これはちょっと対象が限定的過ぎて……」
「分かった!」
私のスマホから赤い帽子を被ったヒゲ面の配管工が1IPするときの音が連続で流れてきました。
「いや、たしかにちょっと嬉しいですけど! ていうか、マジでどうやってるんですか!?」
というか、1UPの音が無限に流れ続けています。
私は今、無限1UPしてます。何これ?
「天使の力だよ?」
「本当だとしても天使の力の無駄使いすぎる!」
「あ」
唐突に音が鳴り止みました。
「今ので天使の力、本当に使い切っちゃったみたい……」
「今ので!?」
芹沢さんがしょんぼりとしてしまいました。
「天使の力が使えなくなった私に、存在価値はあるんだろうか……」
「天使の力を使ってやってたこと、パチンコの音と1UPの音を鳴らすことでしたけどね」
「イチャついてるカップルの男のスマホから、唐突にちょっとえっちな音声を流すことも、もうできないんだ……」
天使の力を使ってやってることが悪魔すぎます。
「でも私は、天使の力がなくっても、芹沢さんのこと好きですよ。恩人ですし」
「芽依……」
芹沢さんが自分のスマホを操作して、いきなり謎の音楽を流し出しました。
「いや何の曲ですか」
「なんか告白されたから、ラブストーリーは突然にを流してみた」
「ジェネレーションが違いすぎて本当に理解不能なのでやめてください」
「尾崎のアイラブユーの方が良かったかな……」
それもまたジェネレーション案件ですが、尾崎は叔父が好きなので私も多少は分かります。
「ていうか告白とかじゃないですから!」
「えー、じゃあ芽依は好きな男子とかいんの? ちょっとお姉さんとお茶しながら恋バナしようよ」
謎の流れでいつもの喫茶店に連行されて恋愛事情を根掘り葉掘りされましたが、ろくに友達すらいない私から浮いた話が出るはずもないのでした。




