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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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帰らずの森のエルフ 1


 これ以上は武士の情けと思い俺は口を閉じた。


 ティアラも落ち着いたのか涙目からいつもの凛々しい顔つきにもどる。すると……。


「ケイジ、教えてほしい。君はいったい何者なのだ?」 

「え?」

「詮索するつもりはなかったが、あの卓越した魔法を見れば君が名のある魔術師であることは私にだってわかる」


 すっかり忘れていたが素性を隠していたのだった。どうしよう……何か疑われているっぽい。


「えっと……その……」

「すまない。君を困らせる気はなかった。話せない事情があるならそれでもかまわないんだ。ただ……」

「?」

「君はたった一人でハイデーモンを倒してみせた。私の知る限りそんな人間は勇者と呼ばれた伝説の存在だけだ」

「勇者……?」

「むろん君が勇者でないことはわかっている。ただ……君のしたことはそれほどの偉業だと言いたかった」


 ティアラは何故か照れていた。どうやら疑っているわけではなく賛美したかっただけのようだ。


 そんな彼女にこれ以上素性を隠すのも気が引ける。しかし超能力も伝わらなかったところを見ると異世界や神様の存在を口にするのは憚られる。どうしたもんか……。


「本来なら私が戦うべき相手だったのに……お恥ずかしい限りだ」

「どういう意味ですか?」

「君ほどの魔術師なら既に気づいているのだろう。私が聖方教会の者だったということを……」


 なんだそれ? それに……。


「過去形ですね」

「ああ、実際は聖方教会の見習い騎士だったと言うべきか。未熟な私は元素魔法を習得できずに教会を放逐された身だ」


 なんか知らない単語がいっぱい出てきた。


「それでも女神の信徒として使命を果たすために私はギルドに身を置き魔物……そして魔族から人々を守るために戦い続けることを誓った。しかしダメだな……はじめて魔族と対峙してその強さに圧倒された。君が来てくれるまで生き残れていたのはあの魔族の戯れと……女神の慈悲があったからだ」


 いよいよ話しについてこれなくなってきた……。


「女神の慈悲……ですか?」

「ああ、君には見られていたな」


 なんのことだ? 


 俺が疑問を抱えているとティアラはおもむろに下着に手をかけ胸元を見せてきた。その胸の谷間には雫のような痣があった。


「このとおり私は女神の血族――覚醒者らしい。多少あらがうことができたのもこの血のおかげだ」


 いかん……大事な話をカミングアウトしてくれているというのにさっぱり話しについていけない。しかしそれでも彼女が特別だということは理解できた。神様の言葉を思い出す。たしか……。


 彼女たちに手をかせ……と。


 それが誰を指しているのかはわからないが、ティアラのような存在である可能性は高い。ならば俺のすべきことは決まった。あとはどう切り出すべきか……しばし考えた俺は意を決して口を開いた。


「ティアラさんの気持ちはよくわかりました。その使命を果たすための手伝いを俺にさせてくれませんか?」

「え?」

「おなしゃっす!」

「いやしかし君はどこかのギルドの重鎮で何か目的があって――」

「そのことなんですが、実は俺……記憶がないんです!」

 

 面食らっているティアラに俺はまことしやかに嘘を語った。実際この世界の名前すらしらないしまんざら嘘というわけでもない。真実が語れない以上これがベストな言い訳だと信じて俺は熱弁をふるったのだった。


「……そうだったのか」


 我ながらこの嘘どうなんだろうと思っていたらティアラはあっさり信じてくれた。ひょっとしてチョロインなのだろうか?


「どおりでポーションの効能に驚いていたわけだ」


 そういえばそんなこともあった。あれは未だに信じられない光景だ。


「となるとチョーノウリョクとやらも記憶の混濁からくるものだろう」

「え?」

「魔法は体がおぼえていたようで幸いだったな」

「いや、その――」

「君が力をかしてくれるのならば、私は記憶を取り戻す手伝いをすることでその恩に報いよう」

「あっ……はい」


 超能力への誤解は更に深まってしまったが、やるべき目標がとりあえず定まった。


 これで一安心……そう思っていたら――。


「動くな」

「――っ!」

「?」


 はじかれたように立ち上がったティアラが剣の柄から手を離す。するといつのまにやら木々の影に立っていた人影が近づいてきた。年の頃は二十歳過ぎぐらい。モデルのようなスラリとした体型に長いブロンドの髪がよく似合う美女だった。しかしよく見れば特徴的な尖った耳が彼女の正体を明かしていた。


「ひょっとして……エルフ?」

「そのようだ……どおりで直前まで気配を感じとれなかったはずだ」

「?」

「君は……忘れていのだったな。妖精族であるエルフの使う精霊魔法はこのての魔法を得意としている。姿は見えないが今も私たちのことをどこからか狙っているはずだ。どうだ……魔力で位置はわからないか?」


 そんなものわかるわけがない。俺は悟られぬ程度に首をふり、両手をあげて立ち上がるとエルフも足を止めた。


「人間がなにゆえこのような森の奥にいる?」


 警戒はしているようだが、いきなり腰の剣を抜いて斬りかかってくる様子はなさそうなので両手をおろした。ティアラも緊張をといて話し合いをしようと態度をあらためたようだ。


「私はギルドの依頼で森の様子をうかがいに来ただけだ」

「ほう……まるで異変に気がついたかのような口ぶりだな?」

「そのとおり。最近になって近隣の魔物被害が相次いでいる。ギルドはこの森で何かがおこっているのではと危惧して調査に乗り出した。けっしてそちらの縄張りを荒らすつもりはない」


 エルフの顔つきが変わる。なまじ美人なのでその冷たい眼差しは凍てつくように見えた。


「ぬけぬけと戯言を言えたものだ……ここより東の森が昨晩大火で消失した。お前たちの仕業ではないかのか?」

「あの焼け跡を見たのなら話しは早い。私たちは昨晩その場所で……魔族と遭遇した」

「魔族……だと?」

「そうだ。名持ちのデーモン……タルウィと名乗るハイデーモンに襲われたのだ」


 エルフの眉間に皺が寄る。


「ふざけるのもいい加減にしろ……笑えぬ冗談だ」

「事実だ。あの焼け跡も奴の使用した高位魔法によるもの。魔法にたけたあなた方ならわかるはずだ?」

「……たしかに尋常ではないない火力で一気に焼かれたふしもある。だが高位魔法ならあの程度の被害で収まったはずがない。それとも……その大火が広がる前に消し去ったとでもいうつもりか?」

「そのとおりっ」


 ティアラが俺をみて誇らしげに頷いた。


 え? 俺にどうしろと? 


 エルフの視線もおのずと俺に向けられる。するとすぐに顔をしかめた。


「その子供がどうだと言うのだ?」

「彼が魔法で大火を消火し、そして……ハイデーモンを討ち滅ぼしたっ」


 ドヤ顔のティアラがなんか可愛いけど、エルフの顔はいよいよ怒気をはらませていた。


「赤ん坊以下の魔力しか感じられないこの人間がハイデーモンを倒しただと? 馬鹿にするのもいい加減にしろ……」


 急に冷めた眼差しで見たかと思ったら片手をあげる。すると――。


「うをっ――!」


 風を切る音共に数本の矢が地面に突き刺さっていた。


「この程度の攻撃に反応できないようではデーモンにすら敵うはずがない」


 え? なに? 試されたの? ていうかレジストはどうした? 


 いつもなら呼んでもないのに顔を出して俺の身を守ってくれるというのに……。


「やはり怪しい奴等だ……武器を捨てて投降しろ。さもなくば力尽くで捕らえるっ!」


 どこに隠れていたのか木々の影からぞろぞろと姿をあらわしたエルフたちに囲まれそうになったそのとき――。


 不意に感じた湿気が瞬く間に周囲に霧を発生させ視界を覆う。


「この霧は――っ!」


 目の前のエルフが言い終えないうちにその場を飛び退いた。遅れて光に覆われた矢がエルフのいた場所に突き刺さる。


 なんだいったい?


「行こうっ!」

「――っ!」


 いつの間にか霧の中から現れた少女が俺の手をつかみ引っ張っていた。


「早くっ!」

「ケイジっ!」


 傍らにはティアラの顔もあり、俺は連れ去られるようにその場を逃げ出すのだった。



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