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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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エルフたちの思い 1


「いったか……」


 俺は安堵している自分の姿に歯がみした。


 あのままドラゴンを解き放たれていたらどうなっていたか……。


 あの黒いブレスはそれほどを危機感を覚える威力だった。高位魔法よりもはるかにやっかいで、気を抜いたら確実に抜かれていた。あんなものを何度も防げる自信はなかった。ましてや守りながら戦うなんてこと出来る自信はない。


 緊張がとけるとチキの姿が見当たらないことに気がつき俺は再び歯がみした。


「ケイジ……また助けられたな」

「いえ……」

「チキなら……きっと無事さ」

「そう……ですね」


 霧をはらしたときには既にいなかったのだ。逃げきった可能性は高い。ザリクもチキのことを有用だと認めていたのだから、召喚魔法の影響範囲から事前に逃がした可能性は十分に考えられる。


「チキをさらった理由はおそらく里に侵入するためだ。ならばまだ活かされているはず……」


 そう言ったのは近寄ってきたエルエリスだった。エルエリスは俺の前で立ち止まると深々と頭を下げた。


「私を含め、同胞を守ってくれたことに感謝する」

「ああ……被害が最小限に抑えられてよかったよ」


 森から出てきたエルフたちに切り傷などは見受けられるが、ブレスの影響は避けられたようだ。


 千里眼で周囲を警戒してみたがゾンビエルフの姿は見当たらなかった。聞けばザリクが消える直前に撤退したらしい。ただ切り伏せたゾンビの死体が十数体は転がっていた。彼等の亡骸は二度と利用されないように焼いて森へとかえすそうだ。


 指示を終えたエルエリスが再び向き直る。俺たちも彼女の言葉を待っていた。


「まだ名乗っていなかったな。既に知っているようだが私はエルエリス……」


 長い名前だったのでエルエリスと呼ばせてもらう。俺たちも名乗りチキからその名を聞いていたことを話した。


「そうか……その様子ならばチキはまだ殺されてはいないのだろう」


 エルエリスがほっと胸をなで下ろす。


「どういう意味だ?」

「あの悪魔はおそらくネクロマンサーだ。戦力として使うなら死兵の方が扱いやすい。だが屍では感情が希薄になる。例え演技でも君たちが出会ったチキのように喜怒哀楽を表現することは難しいはずだ」

「そうか……」


 それは思い至らなかったが、エルエリスが安堵した理由を知って俺たちも安堵した。そういうことならば生存している可能性も高い。そう言えば……。


「チキが無事だと確信があるようなことを言ってたな?」

「ああ……悪魔はおそらく里に侵入して結界を解くためにチキを活かしているはずだ」

「あの幻影魔法のことか?」

「そうだ」

「でもあれは里のものしか通さないんだろ?」

「出入口はな」

「つまり……それ以外なら通れるってことか?」

「ああ……広範囲ゆえ結界にもほころびは存在する」


 エルエリスたちもそこから侵入してきたらしい。


 魔法の感知力に優れているエルフならその場所を探し出して通ることも可能だとエルエリスは話した。ゾンビではその感知力が落ちるらしい。つまりチキにはまだはっきりとした利用価値があるということだ。


「そういえばザリクは……里に案内しろとか言ってたよな。あれはどういう意味だ?」


 エルエリスは躊躇いがちに口を開くと……。


「それは……私の口から話せない。だがついてきてもらえればあるいは……」


 誘っておいて迷いを見せるエルエリスに、近くにいたエルフが戸惑いを見せる。内輪もめか?


「すまない……確約はできないがついてきてほしい」


 一方的な申し出だったが、はじめて会ったときのような高圧的なものではなく、助けを求めるような切実さが感じられた。


「ティアラさん……」

「行こう……このまま闇雲にチキを探すよりはいい」


 エルフたちの隠し事は気になるが、それ以上にチキを探す手がかりがほしいので、俺たちの意見は一致した。


「わかった。ついていくよ」

「かたじけない」


 深々と頭を下げるエルエリスも安堵した様子だった。しかし周囲反応からすると歓迎はされていないようだ。それほどの秘密があるということか……。だがエルエリスはその秘密よりもチキの心配をしているようだった……。


 数名のエルフが先に戻り、残りは怪我人の介抱をしながら里へと戻っていく。その道すがら俺は気になっていたことをエルエリスに聞いてみた。


「チキと私の関係か……なんと言えばいいのだろうなぁ」

「チキはお姉ちゃんみたいなこと言ってたけど……」


 どう見ても血のつながりが見当たらない。顔つきも違うしチキが成長してもこんな生真面目そうなできる女っぽくはならないだろう。


「そうか……チキがそんなことを……」


 表情をゆるめたエルエリスがはにかむ。こんな顔もするんだなぁ……。


「血は繋がっていないが……私も妹のように思っている。あのとおりまだまだ世話のやける子供だからな」


 それからエルエリスは昔話をポツポツと語り出した。


「元は同じ里に住んでいたんだ。しかしかねてより戦いを嫌う仲間たちが里を出て行った。チキの家族もそのなかにいた……」


 戦い?


 気にはなったが今はチキについての話しを優先したかったので質問はひかえた。


 長寿である妖精族は出産率があまり高くない。それゆえ年の近い子供というのはあまりいないそうだ。そのため幼かったチキの面倒を見ていたのがエルエリスだったのだそうだ。


「チキの家族が出て行ってからも私たちは頻繁に会っていた。里同士の交流はほとんどなく絶遠というのが暗黙の了解だったのだが、チキに魔法をおしえてくれとせがまれてしかたなく……な」


 まんざらでもない顔でそんなことを言われても説得力はない……だが微笑ましい。


 それが方便か本気かはわからないが、チキに魔法の才能があるのはエルエリスも知っていたので内緒で会っていたそうだ。当時成人していなかったエルエリスから見ても、チキのまわりには積極的に魔法のことを教えてくれるような人物はおらず、才能の芽を育ててやりたいという理由もあってエルエリスは承諾したそうだ。


 そしてその交流はつい最近まで続いていたという……。


「ある日を境にチキは待ち合わせ場所に現れなくなった……」


 それがおそらくザリクに捕まった日なのだろうとエルエリスは悔しそうに呟いた。


「あの日、すぐにでも確認していれば……」


 悔やんでも悔やみきれないのだろう。絶遠状態の里にも行けず、内緒で会っていたこともあり、不安はあれど誰にも相談できずに今日まで至ったことをエルエリスは悔いていた。


 俺たちは安易な同情をすることもできず、エルエリスの懺悔を黙って聞いているしかできなかった……。



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