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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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エルフたちの思い 2


 どこをどう歩いたかもわらないような森の奥深くにその里はあった。


 例の結界を通りすぎて間もなく、チキの住んでいた里と同じ光景が広がった。違いがあるとすれば家々に灯るあかりの存在……。ここにはたしかに生きているものたちの気配があった。


 住居区らしい場所を抜けるとコケの生えた石畳や石柱がポツポツと姿を見せる。ここは他よりも空気も澄んでおり気持ちが良い。ほのかに光るランタンのあかりが幻想的で、気づけば沈痛な思いが軽くなってなっていた。


「ここはなんだか……不思議なところだな」

「聖地だからだろう。かつてはもっと素晴らしい所だった……」


 先を進むエルエリスの顔は見えないが、その声が愁いをおびているのは伝わる。


 かつては……か。


 ようやく辿り着いた先には崩れた神殿のようなものが建っていた。


「少し待っていてほしい……」


 そう言い残してエルエリスは遮る扉もない瓦礫のなかへと入っていった。


「まさかここが聖地とはな……」


 ティアラが瓦礫に目を向けて悲しげに呟く。


「聖地……ですか?」

「ああ……つまりこの場所はエルフたちにとって霊廟なのだろう」


 霊廟……先祖の霊をまつった建物ということか?


 神殿という印象は間違っていないようだ。しかし今は見る影もない……。


 正直なところ宗教などには興味がないが、自分の家の墓が粉々に砕かれていたらと思うとエルエリスたちの気持ちも少しは理解できた。


「でも……こんなところに部外者の俺たちをつれてきてどういうつもりなんでしょう?」

「わからない。だが……ここは特別な場所のようだ。先ほどから力が満ちてくる……」


 そう言ってティアラは胸元に手をあて瞑想する。覚醒者の印が反応しているようだ――。


『レベルアップボーナスによりランクアップできます』


 は?


 唐突にウインドが開くとレベルアップの表示が現れた。


 何故このタイミングで?


 ザリクが去ってから戦闘なんてしていないし、経験値を稼ぐところなんてどこかにあっただろうか?


「全然おぼえがない……」


 身に覚えのないことに頭を悩ませていると、瞑想しているティアラの胸元が仄かに光を発した。


「ティアラさん?」

「……どうやらこの聖地には女神の残滓が残されていたようだ……私にもうまく取り込めたよ」


 目を開けたティアラは満ち足りた顔をしていた。俺にはさっぱり状況が読めない……。


「あの……取り込めたというのは?」

「ケイジは何も感じないのか?」

「え……いや、なんかレベル上がった的なことは感じましたけど」

「そうか……すごいな」

「?」

「この場所の残滓はたしかに多いが魔力や身体を成長させるほどの量じゃない。普通の人間では少し力が増す程度のものだ……」


 ただし覚醒者ならば大幅成長も見込めるとティアラは自嘲気味に笑った。


「ケイジは女神に愛されているのかもしれないな」

「女神……ですか」


 希にそういう人間もいるそうなのだが、この世界に縁もゆかりもない俺が見ず知らずの女神様に愛されているなんてことはないだろう。たまたま経験値がレベルアップの直前までたまったとかそんなところだろうと結論づけた。


 それはともかく嬉しいレベルアップだ。過剰戦力だと思っていた念力もドラゴンなんて怪物が出てきたことで余裕なんてなくなった。今回は迷わず念力にボーナスをふる。


『アポートが解放されました』


 え?


 聞き間違えかあるいは俺の知るアポートではないのか、疑問をおぼえたがすぐにそれが俺の知るアポートと同一だと理解した……。


 あれだ……離れたものを自分の手元に転送する的な超能力だ。生前読んでいた魔法と科学が交差する世界の小説で覚えた知識の通りで脚色もなくただそれだけ……しいて違いがあるすれば手元じゃなくてもいいらしい。でも根本的にはものを引き寄せる手段でしかない。


 こんなもんサイコキネシスで十分である。浮遊の後におぼえるようなランクの超能力じゃないはずだ……。


「どうしたケイジ? 浮かない顔だが……」

「あ、いえ……」


 自分の才能のなさに嫌気がさしたとも言えない。こんなん忘れ物を取りに帰る必要がなくなったとか、そのぐらいしか役に立たないだろう……。


 そもそも視認できる範囲しかダメとか……千里眼がなければ忘れ物すら取りに帰れないレベルで使えない。


 一応静止している物体ならどんなものでも引き寄せられるようだが、質量が大きければその分負担も重いようなので、民家を気軽にテントがわりにすることもできなさそう……。


 こんなことならESPにふった方がマシだったか?


 いや、念力が上昇しているのだから無駄ではないはずだ……そう思いたい。


「待たせたな……」


 途方に暮れていたらいつの間にか霊廟から出てきたエルエリスに声をかけられて意識を現実へと戻した。


「その様子だと……あまり効果はなかったか?」

「そんなことはない。貴重な場所に連れてきてくれたことに感謝している」

「礼なら不要だ。戦力の強化は私たちのためでもある」


 それでもと礼を口にしたティアラがかしこまっているところを見ると本当に珍しい場所のようだ。ああは言っているがここに連れてきてくれたのは、エルエリスの好意だったのだろう。結果はどうあれ感謝しよう。


 これで用は済んだと思ったのだが、本題はここからだった。


「会ってほしい方がいる」

「ここにか?」

「そうだ。できれば……ついて来てほしい」


 拒否するつもりは毛頭ないが、意外にも断ることができる雰囲気だった。エルエリスも強制はしないと言う。


「及び腰だな」

「……話しを聞けば巻き込むことになるだろうからな」

「今更だろ? 俺たちはチキを助けるために手伝えることはなんだってするつもりだ」


 ティアラも俺の言葉に頷いた。するとエルエリスが躊躇いがちに口を開いた。


「今更聞くようなことではないが……なぜ出会って間もないチキにそこまでしてくれるのだ?」

「チキが助けを求めているように見えたからだ」


 あの流した涙を見てそう思えた。俺がなんの力もない人間なら悔しいが目を閉じることしかできなかっただろう。だが今の俺には戦える力がある。本当はこんなところで命懸けで戦うことが俺の存在意義ではないのかもしれない。しかし目を背けることなんて出来なかったし決してしたくはなかった。自己満足で終わるかもしれないがそれでもチキを助けたい。その気持ちが俺を突き動かしていた。


「そうか……感謝する」


 あらためて頭を下げるエルエリスの言葉は、心の底から感謝しているように感じられた。いつしか初対面のときの悪い印象は綺麗さっぱりなくなっていた。早くチキと再会させてやりたいとすら思う。


 エルエリスの後について神殿跡に足を踏み入れると、瓦礫の山のなかにおいて一カ所だけ整理された場所があった。そしてそこには地下へと続く階段が見えた。


「普段は幻影魔法で隠してあるがいまは解除してある」


 それほど大事な施設に繋がっているということか……。


 俺たちは壁に掛けられたランタンの光を追うようにくだっていく。随分と降りたはずなのだが、未だに階段は続いていた。


「いったいどこまで降りるんだ?」

「もう間もなくだ……」


 それから数十段ほど降りると、淡い光が差し込む踊り場のような場所が見えた。どうやらそこが入口らしく、階段を降りて入ってみると、地下とは思えない光景が広がっていた。


 そこはだだっ広い地下道だった。壁中が薄緑色の藻で覆われ淡い光を放っていて、地下道全体が生きているようでさえあった。そしてその中央には大樹が一本悠然と生えていた。


 俺たちが吸い寄せられるようにその木に近づくと――。


「よくいらっしゃいました……若きエルフに――賢者殿」


 木の幹に少女のような顔が浮かびあがると、そう言葉を紡いだ。



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