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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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泣けないエルフ


 残された世界には耳障りな悪魔の笑い声だけが響いていた。


 地表が黒く染まり、世界が終演を迎えたかような惨状だった。爆心地はいまだに黒い炎に覆われて、生命などいかに儚いか思い知らせれるように燃えていた。


 チキはその凄惨な世界の跡を枯れた世界樹のてっぺんから見下ろしてた。


 ブレス余波も届かない先でなんの感情の色も浮かべずにじっと見つめていた。しかし心の中ではいつも枯れることのない涙を流していた……。


 彼ならばあの悪魔を倒してくれるのではないかと淡い希望を抱いていた。しかし結果は……。


 ごめんなさい……勝手に期待して身勝手に巻き込んでしまった。


 出来ることならザリクに捕まり操られ、沢山の同胞と家族を手にかけた自分を裁いてほしかった。そしてあの悪魔が倒れ、呪縛から解放されたら……殺してほしいと頭を下げるつもりでいた。


 もはや償うべき相手もおらず、死ぬことだけがチキにとっての生き甲斐だった。


 目を閉じて思い浮かぶのは同胞たちの苦悶に満ちた死に顔……耳鳴りのように聞こえてくる叫び声……そしてその声はまた増えていく。


 姉のように慕っていたエルエリス……出会ったばかりだが馬の合うティアラ……そしてケイジ……。


 あの夜、森の騒ぎに気づいたザリクによって偵察に出されたチキは、ハイデーモンと互角に戦う人間というありえない光景を目にした。その人間は空を自由に飛び回り、高位魔法をも寄せ付けず、ついには空をも消し飛ばすような大魔法で悪魔を討滅した。


 この人間なら自分を縛る悪魔も倒せるのではと、絶望のなかではじめて希望がわいた瞬間だった。


 しかし関係のない人間を巻き込むことには抵抗もあった。だがチキの迷いなど悪魔の一言で無駄になる。ただ見てきた状況を知らせろという命令だけで、チキは見てきたことを包み隠さず話さなければならなかった。


 最初は失笑された。当然だろう。ハイデーモンにたった一人で立ち向かえる人間など存在しない。少なくともチキは知らない。ザリクすら信用しなかった。あの現場を見るまでは……。


『この焼け跡を見るに高位魔法は不発のようねぇ……それでも人間風情なら骨も残らず消滅できる……臆病な聖方騎士が単身で戦うはずもないし、アナタが見た時点にすでに壊滅していたのでしょうねぇ……あとは弱ったタルウィが油断して倒されたのでしょう』


 木々は灰となり焼け野原になった場所を歩きながら、自分の考えに納得したザリクは、興味が失せたとばかりにその場を去った。チキを残して……。


 その後チキは念のため、生き残ったとおぼしき二人に接触するように仕向けられた。


 それは万が一のための保険。計画の邪魔になるようなら消す必要があると命令された。


 だからチキはできるだけ自然な形で接触して里まで誘導した。感情の抑制を解かれ、不都合な真実を隠してケイジの力を試すように仕向けられた。


 ほんの一時だがケイジたちと素で接していられたときは楽しかった。


 エルフを敬遠する人間は多いが二人はまるでそんな素振りもなく対等に接してくれた。それどころか出会って間もないはずなのに、気の知れた友と語っている気すらしたこともあった。


 自分が悪魔に捕まることなく里も無事だったら彼等のパーティに押しかけて都市までついていったかもしれない。そんなことを考えていると楽しかった。しかしそれもザリクが描いたシナリオ通りに進むにつれて罪悪感にかわっていった。


 そして最悪の事態を招いてしまった……。


 森の焼けた臭いが風にのって流れてくると、胸が締め付けられる思いだった。


 ごめんなさ――。


 チキが心の中で何度も何度も口にした言葉は目の前の光景を見て止まった。


 しつこく焼け跡に残っていた黒い炎が一瞬で霧散すると、頬を凪いでいた風が突風にかわり吹き抜ける。チキは落ちそうになる体を慌てて支えた。


 信じられない……。


 たしかに森は焼き払われた。しかし河辺の周辺の自然だけ不自然に残っていた。そこだけ何事もなかったかのように……。


 チキの目にはあの晩の光景と重なって見えた。悪魔の業火からティアラを守り、一瞬で消し飛ばしたその力と……。


 そしてその中心で火傷すらおわずに悠然とたたずむ少年の姿を見て、表情が奪われたはずのチキの唇から笑みがもれていた。



 眼下でおこったことはザリクにとっても信じられないものだった。


 ありえない――ありえるはずがない。


 高位魔法すら凌駕するカオスドラゴンのブレスを防げるわけがない……それなのにそれなのに、骨すら残るはずがない人間が火傷一つおわずに立っている。


 エルフの戯れ言だと失笑したあの人間の力はザリクの予想を凌駕していた。


 未だに起きた事態が理解できない……こんな筋書きでは――。


「――っ!」


 ザリクは思わずその場を飛び退いていた。


 あの人間と目が合った瞬間、ここが人間などには手の届かないはるか上空だということも忘れて――いや、違う。奴は飛行魔法が使えたはずだ。ならばここは安全ではない。


 違う。そうではない。なぜハイデーモンである自分が人間ごときに怯えなければならないのか?


 しかしあの人間に睨まれていると思うと脂汗がにじみ出てくる。


 何故だ? 


 赤子のような微弱な魔力しか感じられない人間相手になぜ自分は怯えている?


 わからないわからないわからない――。


 人類の脅威たる悪魔が矮小な人間に恐れを感じるなどあってはならない――。


 なかば錯乱しかけたザリクの耳に大気をゆるがす咆哮が響く。見ればカオスドラゴンがその姿を胸まで出そうとしていた。


「ちぃ――――っ!」


 ザリクが魔法陣に触れるとドラゴンはその巨体を押し返されるように魔法陣の中へと消えていった。同時にザリクが落ち着きを取り戻す。


 そうだ……まだ自分には奥の手がある。だから人間などに負けるはずがない。


 自信を取り戻したザリクはようやく悪魔らしい笑みを浮かべた。


「正直驚いたわぁ……たいしたものねぇ……ご褒美に見逃してあげるわぁ……でもぉ……次はぁ……ないわよ?」


 ザリクは魔力により転移魔法陣を描くとほどなくしてその場から消えたのだった。不気味な笑い声だけを残して……。



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