24 -無償の優しさ-
カノンはお腹がすいていた為、どこか食べれるところで遅めの夕食でも取ろうと部屋を出た。
受付のあるカウンター前を通ろうとした時、カウンターの奥からいい匂いがしてきた。
「カノンちゃ~ん、ごはんよ~!」
この声はネオンだろうか。
なんだそのお母さんが息子に言うような話し方は。
内心突っ込みをしていると、奥からフリフリのエプロンを身に着けたネオンがこちらに出てきた。
「おなかがすいたでしょ?ほら、夕食が出来上がってるわよ!温かいうちに食べなさいな。」
「確かに腹減ってるけど、それよりその恰好は・・・?」
鍛えられた体に赤いワンピースの上からフリフリの白いエプロンを身に着けたネオンを見て、思わず突っ込んでしまったカノン。
その言葉に、笑顔でネオンが答える。
「なにって、キッチンに立つんだからエプロンは必須よ。それとも勇者様はメイドがお好みかしら?」
「いや別にどっちでもいいんだけど、夕食頼んでないしそもそも料金には含まれてないよな?」
「なぁに言ってんのよ。宿泊されるお客様に料理をふるまうのは宿として当然じゃない!いいから食べていきなさいよ!」
そう、手招きしてカウンターの奥に案内するネオン。
言われるがまま、されるがままにカノンは案内された方へ足を進めた。
カウンターの奥は従業員専用というわけではなく、自由に使える客間があるらしい。
長方形のテーブルと椅子が並べられ、テーブルの上にはきれいな料理が並んでいた。
「今日は野菜のコンソメスープにガーリックバタートースト、白身魚のムニエルとデザートにプリンよ!美味しく出来たからいっぱい食べて頂戴!」
綺麗な顔立ちに濃い目のメイクのネオンは満面の笑みで料理の説明をしていた。
並べられた食事はどれもおいしそうで、いい匂いにお腹がぐぅぅっと鳴る。
「いただきます。」
席について遠慮なく食べ始めるカノン。
まずはコンソメスープを一口飲んでみる。
野菜の甘味にいい塩加減、コンソメの旨味が口いっぱいに広がる。
カノンは思った以上の美味しさと空腹から夢中で食べ始めた。
もくもくと食べ続けるカノンを見て、ネオンは思わず優しい笑顔がこぼれる。
「そんなに焦らなくても、料理は逃げないわ。おかわりもあるからいっぱい食べて頂戴!」
「・・・・」
そんな言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、カノンはどんどん食べていく。
空になったスープの器に手を伸ばしハッとした時、そっと追加のスープが置かれる。
「あ、ありがとう。」
「いい食べっぷりね。こんなにおいしそうに食べてもらえてアタシ嬉しいわ!いくらでもおかわりしていいのよ!」
「じゃあ、遠慮なくいただきます!」
カノンはお腹がはち切れんばかりの量を食べた。
人生でこんなに食べたのは初めてかもしれない。全部おかわりしたし、トーストに至っては一斤丸々いった気がする。
ふぅ、とデザートのプリンを食べ終わり一息ついたカノンはネオンに感謝を伝えた。
「ごちそうさま、物凄くうまかった。」
「そういってくれてうれしいわ。作った甲斐があるもの。」
ニコニコと笑顔で答えるネオンはエプロン姿で食器を片付けていた。
そのきびきびと動く様子を見ていると、ネオンは独り言のように語りだした。
「アタシね、昔は物凄く貧乏だったのよ。」
唐突に語りだしたネオンの言葉を、カノンは静かに聞いた。
「アタシが幼い頃、魔王が居た頃に町が魔獣の群れに襲われてね。うちも近所も全部無くなっちゃって。
お父さんはそれに巻き込まれて死んじゃってお母さん一人でアタシを育てたのよ。
毎日その場しのぎの食材でおいしい料理を作って食べさせてくれたわ。」
遠い目をしてどこか懐かしそうに見つめ、また口を開く。
「お母さんはね、自分の分を減らしてでもアタシに食べさせてくれたわ。
痩せこけて過労で倒れてもずっとね。
それっきり、お母さんの料理はもう食べることは出来なくなってしまったわ。
ちょうど魔王が討伐されたって聞いた時、お母さんはもういなくなってしまったわ。」
優しく、それでいて悲しい声で言葉を続ける。
「そんな風に親も亡くして頼れる家もないアタシを、ポップちゃんが拾ってくれたのよ。困ってる人を放っておけないって。だからアタシなりにポップちゃんがやってる宿を手伝いながら、お母さんのように困ってる人に料理を振舞ってすこしでも笑顔にしてあげようって思ったの。」
ちょうど洗い物が片付いたネオンはカノンに言った。
「昔のアタシみたいに、身寄りのない子供や困っている人が出ないように勇者のカノンちゃんに頑張ってほしくて張り切っちゃったわ。これからも困ったらここでいっぱい食べさせてあげるから、その分頑張りなさいね!」
先ほどまでの少し暗い雰囲気が嘘のように、いい笑顔でネオンは言った。
その期待と温かな言葉は、カノンの胸にスゥっと入り込みカノンはしっかりと頷いた。
「ありがとう、これからも頑張っていけそうな気がするよ。」
「ふふ、この宿はいつでもカノンちゃんを歓迎するわ。美味しく食べてくれる子に悪い子はいないもの!あ、そうだわ!これ、ポップちゃんとアタシから。」
そう言って、ネオンは銀色に光る腕輪を渡してきた。
「この腕輪はね、今後この宿に来れるようにするものよ。どうしても必要なら腕輪に強く願えば一度だけここに転移できるわ。大事に持っておいてちょうだい。」
「転移?すごいな、魔道具か?そんなものを俺に・・・?」
渡された腕輪をはめてみる。
腕のサイズにぴったりとはまり、手を動かしても違和感がない不思議な感覚だった。
「ふふ、ポップちゃんのお手製よ。アタシもいっぱい手伝ったんだから!」
「ありがとう、大事にするよ。」
不思議と、胸の奥が軽くなる感覚と純粋な優しさに、思わず笑顔があふれるカノンだった。
しばらく日常ムーブが続きます。きっと・・・多分・・・
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