23 -勇者と印-
「受付のネオンと申します。この度は宿カマンベールへお越しいただき有難うございます。」
とても洗礼された美しい動きでのあいさつにカノンは立ち尽くしていると、ポップ少年がカノンに問いかける。
「ところで、勇者様はこの宿にご宿泊に?」
「あ、あぁ。今日泊まれるところを探してふらふらしてたら偶然ここが目について・・・」
「うんうん、なるほどね・・・ネオン、ご案内を。」
ポップ少年の声に、すんなりと受付としての仕事を再開するネオン。
「では、当宿の説明をさせていただきます。
まず、受付にて料金を先払いでお支払いいただき割り当てられた部屋に滞在となります。
宿泊の際、何か事象があった場合は当人同士での解決が原則となります。
また、暴力等については原則禁止となり魔法についても攻撃系統は使用禁止となります。
そして、先払い分を超えての宿泊の場合は改めて受付にて対応をお願いします。
余剰分の返金は一切致しませんので、予定が定まらない場合は都度受付されるのがよろしいかと。
そのほか、何か必要なこと等ありましたら部屋備え付けのベルにてお呼びください。
以上になります。何か不明点などありましたら都度聞いていただければと思います。」
受付嬢としてのスイッチが入ったのか、丁寧な口調ときれいな笑顔で説明をしてきた。
先ほどの対応とは大違いな様子に驚きながらも、一応確認したいところを聞く。
「料金についてと、荷物を置いたら教会へ行きたいんだけど道を教えてもらえるか?」
「料金は一人一泊につき3000ゴルドです。教会への道案内でしたら、宿を出て左へ行かれるとよろしかと。」
3000ゴルドとは思った以上に安い。
大体の宿の相場は5000~1万ゴルド程取られるのが普通だが、もしかして古い宿なのだろうか。
宿を出て左ということは、来た道と反対方向へそのままいけば教会だったらしい。
とりあえず、手持ちの金から3000ゴルドを支払い今日分の宿を確保した。
「確かに。ではこちらに署名を。完了致しましたら奥の部屋の空いている扉へ宿泊ください。」
カノン・アシュレイと署名を行い、言われた通り宿の奥へ進む。
通路にはいくつかの扉があり、手前の扉だけが開いていた。
開いている扉はここだけなので、入ってみる小綺麗な客室のようだった。
決して古いわけでもなく、ベッドもきれいに整えられていた。
お手洗いやふろ場などもついているようで、かなり当たりの宿のようだ。
「ふぅ、とりあえず宿は確保できたな。あとはフィナのところに・・・」
荷物を置いてベッドに腰かけると、急に眠気が襲ってきた。
色々あった初のパーティでの依頼、すぐ帰っての王国への報告とやり切った後だからか疲れていたカノンはそのままゆっくりと眠りについていったのだった。
★ ★ ★
「ポップ様、勇者様は部屋で寝てしまったようですわ。」
「うんうん、きっと疲れていたんだよ。ここに迷い込むぐらいだ、きっといろいろとため込んできたんだと思うしね。」
応接室のような部屋でのんびりと椅子に座り、たばこに火をつけるポップ。
ネオンも同じようにソファへ腰かけ、化粧を直し始める。
「ところでネオン、カノンの印に気づいたかな?」
そう問いかけるポップに、ネオンは頷いた。
「えぇ、あれは先代魔王の印ですわね。まだまだですが、着実に育っているように見えましたわ。」
そう答えるネオンに、ポップはニコニコ笑いながら語る。
「惜しいね、魔王の印ともう一つ教会の刻印が刻まれてたよ。一体いつ付けたのやら。本人すら気づいていないようだしね。もしかしたら先代勇者たちも気づかなかったのかな?」
「あら、そんなものが?であれば、瘴気だけでなく他のものも?」
驚いた表情のネオンに、煙をふぅっと吐き出すポップ。
吐き出された煙はゆっくりと纏まり、窓の外へ意思を持っているかのように出ていった。
「あれは感情の器かもね。教会の考えそうなことだよ、希望の象徴を作って信仰心を集めるのかな?それとも・・・」
そういって椅子から立ち上がり、手にはめている指輪を一つ触った。
ふわっ、と風が吹いたかと思った瞬間、いつの間にか神父服を着たポップがそこにはいた。
「教会へ?干渉はしないと思いましたわ。」
ネオンの問いかけに、にっこりと笑うポップ。
「少し気が変わったよ、たまには善行をしないとね。それと忠告をしてこようかなって。」
そういって、靴のつま先をトントンと床で鳴らすとポップはその場から消えたのだった。
「さて、わたしも色々と準備しないとだわ!久しぶりのお客さんだし、サービスサービス!」
そういって、きれいなドレスをはためかせながら料理をはじめるネオンだった。
★ ★ ★
カノンは夢を見る。
黒い影が大きな玉座に座り、白銀の剣を持った人物と対面していた。
それは若いエルドだ。見間違えるはずがない。
隣には教会服を着たシスター、大きな盾を持った男、そして杖をしっかり握りしめた若いセレナもいる。
「よく来たな勇者よ、ククク、我を封印しに来たか?それとも討伐かな?」
自分の口から出る言葉は、カノンの声じゃなかった。
「無論、倒しに来た。魔王を倒すことこそ勇者の使命だ。魔獣を生み出す根源をいまここで断ち切る!」
そういってエルド達は切りかかってくる。
白銀の剣がカノンを襲う。
やめて、俺だよ父さん、カノンだ!
そう言おうとしても、口からはカノンの声ではないものが意思とは関係なく話す。
「実に不愉快。我もただでは死なんようにせんとなぁ!」
そう言って、黒く染まった炎が腕から噴出し勇者エルドの白銀の剣とぶつかり合った。
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「はっ、今のは・・・夢?」
いつの間にか寝てしまったようで、なんともリアルな夢を見たようだった。
体は何ともなく、腕を見てみるが普通の腕だった。
「あれは、父さんと魔王の戦い・・・なのか?」
なんとなく夢で片付かない間隔を覚えながらも、教会へ行こうと思っていたことを思い出した。
「やばっ、今何時だ?まだ教会大丈夫かな・・・」
そう思って外を見るとすっかり夜だった。
しまった、寝すぎた。
とりあえず明日の集合のために寝ようにも、すっかり眼が覚めてしまったカノンはお腹もすいたので外で何か食べようと宿を出るべく自分の部屋を出た。
この世界は大体1円=1ゴルドと思ってもらえればと。
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