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罪は燃えても灰となる。  作者: 今、この時を楽しむ。
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2 -勇者の子、カノン-

アルディア王国において、勇者は希望だった。

魔王を討ち取り、国を救った英雄「エルド・アシュレイ」

それが父の名だった。


エルドの息子、カノン・アシュレイは勇者の血を受け継ぎ生まれてきた。

生まれた日、国中の教会の鐘が鳴り響く。

次代の勇者が生まれた。新たな英雄が誕生した。

瞬く間に拡散され、人々は希望と期待を抱いた。


しかし、出産に立ち会った助産師は汗をかき震えた手でその首を掻き切った。

世界の希望とは裏腹に、絶望の表情で死んだのだった。


★ ★ ★


カノンは優しい子だった。

小さな虫一匹も踏みつぶせず、泣いている子が近くにいれば一緒に泣いて慰める。

周囲の人々は勇者の子は優しいと、皆微笑んだ。


八歳になったとき、カノンは熱を出した。

熱は下がらず、皆心配で見舞いに訪れる。

両親の看病と周囲の人々の親切の甲斐あり、翌日には熱も収まった。

しかし、その日の村は大騒ぎだった。

井戸の水が黒く濁っていた。


別の日、優しいカノンが近所の子供と喧嘩した。

曰く、アリの巣を壊していたところを見つけて言い争いになったとか。

微笑ましい喧嘩だと、皆笑った。

しかし、その翌日馬小屋の馬が大暴れの末に次々と死んでいった。


また別の日、カノンは泣いていた。

馬の葬式のために燃やす現場を見たのだとか。

優しい子だと皆思った。

しかし、翌日近隣の森の一部が一晩で枯れていた。

誰も口には出さなかったが、少しづつ不安は拡散されていった。

「あの子は何かおかしいのではないか」と。


もうすぐ9歳になろうという頃。

カノンに親友が出来た。

同い年で少々小柄な少年ミオだった。

周りが少しづつそっけなくなっていく中、彼は無邪気に遊んでくれていた。


「でさぁ、うちのパパがいうんだよ。カノンは勇者の子だから気軽に遊びに行くなって~。でもカノンはカノンじゃん?勇者の息子だとか関係ねーのにな!」


いつものように駄弁りながら歩く。

今日はカノンとミオでこっそり作った森の秘密基地に向かうのだ。

勇者の剣に見立てた木の枝やこっそり家から持ち出したクズ魔石を聖なる石に見立てて、二人はよく戦いごっこをしていた。

ミオはいつだって普通に遊んでくれる。ミオと遊ぶときは自分が普通の子供でいられる気がした。

だから、カノンは楽しかった。

今日も、いつも通りの道を通って二人の秘密基地へ向かった。

だが、基地はいつも通りじゃなかった。

一部が破壊され、荒らされたようになってしまっていた。


「なんだよ、だれがこんなこと・・・」


呆然としながらも、文句を言いたげな二人は秘密基地に向かう。


「カノン!見てみろよ!勇者の剣は無事だぜ~!やっぱ勇者の剣は折れないんだ!」

「ミオ、聖なる石もあった!きっと誰かがここにきて八つ当たりでもしたんじゃないか?」

「それはひどいぜ~、やっぱもっと隠れ家みたいにするべきだったかなぁ~。」


そんな事を話していると、森の向こうがガサガサと鳴った。


「聞こえたか、カノン。きっとあれだ、荒らした奴が戻ってきたんだ。」

「聞こえた、でもどうしよう、もし大人で怒られたりしたら・・・」


そんな風に話していると、頭の奥を掻き回すような声が聞こえた。

低く、唸るような叫ぶような声に思わずカノンは耳をふさぐ。


「カノン、どうした急に!頭でも痛くなったのか!?」


そんなミオの声もカノンには届かない。

頭が割れそうなほど響く、まるで怨嗟の声のような音が病んだ瞬間。

ガサガサ揺れていた草むらから黒い何かが噴き出してきた。

視界の端に捉えたソレは、自分たちより大きくて黒い狼のようだった。


「カノン!!!!」


ミオが叫んで手に持った聖剣の木の棒を振りかざす。

黒狼は振りかざされた木の棒を軽々と避け、今度はミオに向かい始めた。

裂けたような大きな口から獰猛な牙がミオに向けられる。


「ミオ!よけて!!!」


思わず叫んだ。

しかし、ミオは恐怖に負け動けない。

その瞬間はまるでスローモーションのようだった。

剣ごと噛みつかれるミオ、飛び散る血、折れる聖剣、骨が砕ける音。

飛んだ血はカノンの視界を赤く染め上げる。

真っ赤で、あまりにも長く感じたその時間はミオの一言で動き出した。


「....にげ、ろ...カノ..」


そう発する声をよそに、黒狼は何度も何度もミオを赤く染め上げていく。

カノンは動けなかった。恐怖と苦痛と赤と・・・

その瞬間、頭の中に響いた声があった。

笑い声のようなその声。


気がついたら、真っ黒だった。

黒狼は消え、周囲の木々は燃え尽き、炭と化していた。

赤かったはずのミオも。。。


ボロボロの姿で一人村に戻ったカノンを見て、ただ抱きしめた。

血と炭と灰にまみれた息子を。

そこに、ミオの父親が駆け付ける。


「カノン!ミオはどうした!」


そして、カノンの手に握られている炭化した木の棒をみて叫んだ。


「ミオを置いて逃げてきたのか!俺の息子を見捨てて逃げてきて!村に災いまで招いて!お前がいるからミオが死んだんじゃないのか!何が勇者の子供だ!まるで魔王じゃないか!ミオを返せ!」


騒ぎを聞きつけた他の村人に、ミオの父親は取り押さえられる。

連れていかれるミオの父親の言葉が、カノンの耳に、心に深く突き刺さっていた。


それから、村中で大騒ぎだった。

黒狼が森に出たこと、炭と化した木々や死んだミオのこと、生き残ったカノンのこと。

母はずっと抱きしめて「大丈夫、ママはあなたの味方よ。」と声をかけてくれた。

父は無表情で、ただ二人を見ていた。


★ ★ ★

カノンは眠れなかった。

赤いミオ、赤い血、黒い狼、黒いミオ、黒い木々。

不敵な笑い声とミオの最後の言葉。


「....にげ、ろ...カノ..」


思い出すたびに心が赤黒く染まっていき、嫌な汗をかく。


「喉が渇いた。」


水を飲みに二階から降りようとした時、下から声が聞こえてきた。


「・・・封印が弱まってる」


エルドの声だ。

続いて、母セレナの声も聞こえる。


「あの子が何をしたっていうの!あの子は私とあなたの子よ!」

「わかっている!」


ガンッ、と机をたたく音。

そして、絞り出すようなか細い声でエルドが言う。


「だから苦しいんだ・・・何が勇者の子だ、あいつは俺の大事な子だ・・・・」


思わず覗き込んで見たそこには、優しい母の疲れたような顔。

そして、震える父がいた。

誰よりも強くて、勇気と希望の象徴である勇者のエルドが。

まるで、怖がっているかのように。

まるで、憎んでいるように・・・


(追記)

ミオの父親の描写を追加しました。

カノンの心にトゲを植え付けよう。


続きが気になる、更新されたらまた見たい!

そう思ってもらえるように気ままに書き綴っていきます。

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