表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

第七話 戦略



 

 街中の電球の取り替えも、老朽化する街の外壁の修復も、ソーラーパネルの修理も、神への供物を捧げる役目も、医者も、街長も、全部私の役目だ。

 精霊の血を持つからといって、大量の仕事が容易いわけがなかった。何せ供物を捧げる仕事は、自ら血を汚すようなものだ。

「……遅かったな、街長」

 重く響く声に、どうしても本能が抗えず身が竦んでしまう。何とか気力を振り絞って、縄をくくりつけた供物をここまで引きずってきた。

「も、申し訳ございません。今回の供物は、こちらとなります。ごゆっくりお楽しみください」

 頭を下げ、逃げるようにその場をあとにした。遠くで上がる鋭い悲鳴は、きっと耳鳴りだろう。そう言い聞かせた。実際に、数秒とたたず静寂が戻る。

 私に、寝ていられるほどの余裕はなかった。


「…………クマ?」

 僕の声に、皆が顔を上げた。彼はぱちぱちとまばらな拍手をした。

「正解。戦争で使われた動物兵器は、クマだ。クマが……そうそう、キバシリ君の見ているページにある走り書き。『日本はクマの手に堕ちる』これは的中してしまった。この国はクマに支配され、他の国も手出しをして来なくなった」

「でも今は、外国にとって絶好のチャンスじゃ」

 ゆるく首をふる。僕の目を見据えた。

「下手につつこうものなら、管理下に置いた人間を軍隊にしたり見せしめに殺されたりしそうだ。それに、土地を奪うだけより、その土地に住む人ごと国の傘下に置いた方が、周りの国としては便利なんだ」

 傘下に置く。この言葉を口の中で転がした。なぜこの人は、これだけ国際事情に詳しいのだろうか。この家にある本で、学べるのだろうか。

 学問の興味に逸れつつあった僕の意識は、乾いた手を叩く音で引き戻された。

「ま、そんなわけで。この国は駄目になったんだよ。今は全国各地にあるクマに管理された施設で、人間は育てられて喰われていく。……君たちは街長に追い出されたんだよね。もしかしたら、全て知っている街長が、適当に理由をつけて逃がしてくれたのかもしれない。助けに戻ってくるのを期待しているのかな? いずれにせよ、街長が何も知らないようには思えない」

「だっ、だから私がシュムツ菌の話をしに行った時……『君は根拠のない仮説で、人々を撹乱させる恐れがある。こちらとしても君の処分は慎重に決めさせていただく』って……。真っ向から否定されて泣きそうになったけど、どこか諦めたような顔で、失望させてしまったと思っていた……」

「シュムツ菌は、この国がクマに支配される直前に治療薬が出来た。多分、医者であるが故に拭えない罪悪感があったんだろうね」

「でもクマって……。たまにクマ肉が手に入ったって、猟師のおっちゃんが安くで売ってくれてたけど。僕たちが住んでたところは純粋に、街長様のご先祖が作っただけの街じゃないの?」

 それを聞いて彼は表情を曇らせる。まだ洗脳が解けてないのか、と呟くのがかろうじて聞き取れた。

「確かに、そうかもしれない。信じるか信じないかは、君たち次第なんだ」

 そう言って彼は「君たちは何か見つけた?」と子ども三人が一緒になって見ている、一冊のノートを覗き込んだ。

「ほらこいつ、ボーカロイドガチオタすぎていい感じだった彼女にフラれたらしいぜ? 彼女にミヤケちゃんの良さを話して、ほらここ、トモコはミヤケちゃんの良さを何もわかってない、って。やばい男の家に俺たちはいるんだな!」

 今の家の持ち主は、どこが緊張が解けたような、顔が引き攣っているような、絶妙な表情になった。

「レトロボーカロイドの黎明期れいめいきで有名な、さらに言えば初代のボーカロイドだったミヤケね。……そう言えば、二階の寝室にはフィギュアもあったっけ。古くなったポスターか何かもあったような」

「レトロボーカロイドかあ、サブカル年表にもざっくりとしか書かれていなくて、よく知らないけど……。()()()()も、そのボーカロイドの声聞いたことあるんだ? どんな感じだった? やっぱり今ほど滑らかじゃない……」

「おっ、おじさっ……」

 言ってしまったと思ったけど、時すでに遅し。相手を固まらせてしまった。

 というか。好きに呼んでくれと言われた、ような。

「だっておじさんだろー?」

「いい加減認めりゃいいものを」

 ノスリ、シロマルが今更かと呆れた。とどめはヤイロの一言。

「……見た目が汚い。おじいさんかもしれない」

「なっ…………」

 何だか、ものすごく申し訳ない。他でもなく僕の発言が原因なのだ。

「あっ、そ、そうだ! もう僕らの仲間なんだし、名前を付けよう! ね、好きに呼んでって言ってましたね、おじっ……ええ、と……。き、君!」

「あっああ、うん、そうだね! 名前、募集中! どんな名前になるかなー?」

 ぎこちない雰囲気でもなんとか彼はおどけてみせた。僕の肩で、アマモが笑い転げている。確かに君という呼び方は不自然だったが、それ以外にいい呼び方があるなら教えて欲しいくらいだった。もちろん今から教えてくれても構わない。次に活かすに決まっている。

(アマモ、アマモ。……ちょっとうるさいよ)

 ふんわりと注意してみた。なのにアマモはさらにツボったようで、笑いながら僕の肩を叩き始めた。笑いが収まる気配はない。

「あーーーっはっはっはっはっは! ひゃはぁ! 二十代でもうおっさんだとお! 三十路にもなりゃもうじじいだなあ! ひゃーーー!」

(アマモ、耳元で叫ばないで。うるさいから)

「薫ももうすぐおじさんだなあ! ……ふわあぁっ、ちょ、かおるぅ」

 僕は立ち上がって少し場所を移動するふりをして、アマモを払い落とした。

(うるさいって言ったよ? あと僕、おじさんどころかまだ子どもだから)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ