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第六話 動物兵器



「好きな食べ物は?」

「歳いくつ?」

「好きな子いるの?」

「何でも知ってるの?」

 僕と共に皆の前に現れた男性は、敵意がないとわかるなり質問攻めに遭った。

「ちょ……ちょちょちょちょちょちょちょちょはいストーップ。ゆっくり返していくね。まず好きな食べ物ね」

 うーん、と少し首をひねって考えた。

「そうだね、ヒラメとか美味しいから好きだね。食べるのも獲るのも一苦労だけど」

「ひらめぇ?」

「あっ、そうか。皆街にいたんだよね。海にいるお魚さんだけど、砂に化けてるんだ」

 どっと皆が笑う。対する男は呆気に取られて目がまんまるだ。

「魚のことをお魚さんとか、お子ちゃまだねぇー」

「えっ、そんな! わかりやすく言っただけなのにぃ!」

「早く答えてよ。お歳はいくつでちゅか!」

「なんで子どもにお子様扱いされるんだー?」

「い! く! つ!」

「ハイ二十五歳でーす……」

「えっ……二十五歳でまだ喋り方お子ちゃまなんだぁ……」

 くすくす広がる笑いに加わることも、子どもたちを止めることも僕には出来なかった。

「好きな女の子はぁー?」

「言いません!」

 ええー? とブーイングの嵐。それをオオルリ姉さんが鶴の一声で華麗に止めた。

「この人から話を聞かないといけないから、質問タイムは終わりにしようか」

 まだ聞き足りなさそうな子どもたちを置いて、話を進めなければならない。

「まず、キバシリに言った『テリトリーから逃れてきた』っていう話について聞きたいけど……」

 僕は男性を見た。これだけは先に言っておかないと、このあと意見の相違で別れることになったとしても、僕たちの安全を保障出来なくなってしまう。

「この先もしばらく、あの家を借りてもいいですか? 僕たちはまだ街の外がどうなっているのかわかっていません。夜だけでも身を寄せさせていただきたいです」

 男性は、二つ返事で了承してくれた。

「いいよいいよ! 僕も君たちから聞きたいことがいっぱいあるし!」

 そうして歩き出して、三歩目で彼は足を止めた。

「君たちは保存食を食べてるんだっけ。在庫を温存する意味でも、僕の好きなヒラメ、食べてみたくない?」

 半壊の家に帰り、僕たち、特にノスリなんかは大喜びで彼の冷凍していたヒラメをご馳走してもらった。骨せんべいもぱりぱりで香ばしかった。子ども三人はせんべいよりムニエルが気に入ったようだった。

 アマモも少しムニエルをついばみ、骨せんべいを叩き割って食べていた。骨せんべいがお口に合ったらしい。

 そして、彼の情報を明かしてもらう時が来た。


 皆が客間に座り、彼が話し始めた。

「僕は両親と、ここで育ったんだ。基本的に海のものを獲って食べていた。ここには少ししか人が住んでいないみたいだったけど、十年ほど前にあった災害で、さらに減ってしまった」

 街には完璧な壁があり、内部で完結できるようになっていた。電力以外は。だから僕たちは、この災害について何も知らなかった。

 街のような護りのない外は危険に晒され、時折り自然による災害が起こる。街でも地震は防ぎきれないが、洪水も雷も、日照りも問題なかった。

「僕は、人が減ったのは戦争のせいだって両親から聞いた。戦争で、この国は負けかけていた。君たちは日本地図を見たことはあるかな? これだけ小さい国だ、負けるのが当然ともいえる」

 僕たちも、この国の地図は見たことがあった。僕たちが住んでいるのは、内海に面した神戸。昔は栄えていて、おしゃれの街なんて言われたこともあったそうだ。でもそれも、菌の感染力に耐えられず滅んだ街。そのはずだった。

「話について来れているね。続きを話そう。負けかけたこの国は、苦し紛れに動物の遺伝子を改良して、人と同じくらいの知性を持ち、人より遥かに強い力を持つように改良した動物を作り、各地に増え始めた外国の、捕虜を拘束している拠点に放った。するとたちまちその動物は意図を汲んで外国人を襲い、あっという間に国土を奪還した。でもその動物は、気付いてしまったんだ」

 集中出来なさそうにしていたノスリも聴き入っている。少し表現が難しいのか顔をしかめている。

「その動物は、計画的に人間を食べないと、いずれ食べ物がなくなると思ったのさ。日本に逆らえば、処分されてしまう。手を出せるのは外国人だけ。動物はすごく悩んだ」

 これはおそらく、百五十年前の話なのだろう。なぜこんなにすらすらと話せるのだろうか。

「そして、動物は一時的に外国人を襲うのをやめた。その間に外国人は次々と上陸し、上空からも爆弾を落としてこちら側の戦力を削った。動物は日本語を学習し、民間人の一部を避難させ始めた。でも、ここでシュムツ菌の感染が流行するんだ」

「シュムツ菌……! 僕たちが、街に住むことになった原因だ」

「君たちの主はここだけ上手く切り取ったんだろうね。シュムツ菌によりさらに国民は数を減らした。さらに日本人を保護し始めた動物たちのおかげで、国の組織は崩壊。国は、動物に逆らえなくなった」

「さて問題。この動物とは、何だと思う?」

 そう聞かれても、さっぱり見当がつかない。そう思っていると、目の前に膨らんだノートを数冊積まれた。どさ、どさと見た目に反して重い音がする。

「ヒントと答えはこの中にある。探してみて」

 ノートは六冊ある。政治に注目したものと、そのほかに焦点を当てた新聞の切り抜きだ。政治のノートは徐々に苦しくなる戦況が必死に誤魔化して描かれ、その記事には太い鉛筆で書かれた矢印と『負けそうだ』の文字。日付は二一七〇年五月六日と書かれている。本当に百五十年前のものだ。その後のページも敗戦を認めたくない記事と、やや呆れていたであろうノートの持ち主の指摘が続いた。

 だが、ある日を境に記事は明るい戦況を伝え始める。今まで敵の手に落ちていたと報道すらされなかったであろう神戸の、『奪還』の二文字。ノートの持ち主は『悪手でしかない』と書いていた。

 その後もしばらくは、どこかを取り戻したという内容が続いた。当時の人々は、この報せに沸いたのだろうか。それとも、ノートの持ち主のように憂えたのだろうか。あるページには『動物兵器を今すぐ殺せ』と殴るように書かれていた。

「あの」

 男性と目が合った。まだ答えに辿り着けない自分がもどかしい。動物兵器とはなんだ。

「このノートは、先祖の持ち物とかですか?」

「ああ、これは先祖……曽祖父の知り合いの物だ。この家も、その人から譲り受けたらしい」

「じゃ、じゃあ、この人は保護されずに、戦争で亡くなったわけでもないってことですか?」

 彼は目を見開いた。ややあって、口を開く。

「いや、僕の先祖は外国にいて、遺書みたいな手紙をもらってこの家を譲り受けたらしい。だから、多分亡くなったんだと思うよ、戦争で」

 聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして俯いた。僕を見たアマモが別のノートを持って来たので、仕方なく受け取った。今は、この問題に集中しなくては。

 皆もかなり集中してノートを読んでいるようだった。それにしては、やけに進み具合が遅い気がしたけど、気にしないことにしてノートを開ける。

「あっ」

 開くと逆さまだ。アマモの向きで受け取ったからだ。動物兵器について、政治のノートでも終盤で出てきたので、今回は最後から見ることにした。二、三ページは白紙だった。

「…………クマ?」

 辿り着いた記事には、『クマ被害拡大』と大きく書かれ、野生のクマとは思い難い動物の写真が載っていた。

 持ち主は、『日本はクマの手に堕ちる』と書き殴っている。


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